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夫婦別姓訴訟は「変われない日本」の象徴?

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 
11月13日に日本外国特派員協会で開かれた夫婦別姓に関する記者会見

11月13日、夫婦別姓訴訟の原告の一人である恩地いづみさんと弁護団による記者会見が都内の外国人特派員協会で行われました。現在(2019年11月18日の時点)、ニッポンでは夫婦はどちらかの氏を名乗らなければならず、別姓は例外を除き認められていません。夫婦が同じ姓を名乗ることを「一つの選択肢」とせず、強制しているのは世界で日本だけです。

自分の名前が変わる事の不便さ

夫婦別姓の話になると「なぜ、相手の苗字になる事がそれほど嫌なのか」という意見が挙がることがあります。ただ、今回の夫婦別姓訴訟の弁護団事務局長である野口敏彦さんが記者会見の中で語っていたように、夫婦別姓訴訟は「結婚相手と同じ苗字になりたいという人の意見を否定するものではなく、『別姓でもよい』という選択肢が増えることを求めている」にすぎません。

婚姻によって氏が変わることにより、実際にどのような不便が生じるのでしょうか。具体的な例として恩地いづみさんは、結婚後に夫の氏になった自分宛に小包が送られてきた際のエピソードを語りました。小包が届いた時、恩地さんは自宅を留守にしていましたが、後日身分証明書を持参し郵便局で自分宛の小包を受け取ろうとしたところ、小包に記載されていた宛名が旧姓で、自分の身分証明書には結婚後の姓が載っていたため、恩地さんは小包を受け取れなかったといいます。また入院の際、旧姓で友達づきあいをしてきた友達に「病院では旧姓ではなく、Aという苗字で入院している」と事前に伝える必要があったなど様々な例を挙げました。

結婚後の氏の変更に関連して、女性にばかり時間のかかる手続きが強いられ、コストがかかる、というのも平等ではありません。こういった話になると「日本の民法では、結婚の際に妻が夫の氏を名乗らなければいけないとは決まっていない。男性が女性の氏を名乗ることもできるのだから、女性差別ではない」という意見をよく耳にします。2015年、最高裁判所も「民法に男女の不平等はない」とし、夫婦が同姓でなければいけないと定める民法750条を憲法違反ではないと判断しています。しかし、「民法」と「現実の日本社会」の間には大きな隔たりがあります。というのも、日本の社会では結婚の際に夫が妻の氏を名乗るのはたったの4%で、夫の氏を名乗る女性は96%にもなるのです。その決断の背景には、夫婦の親族や職場などが「妻が夫の氏を名乗るのが当然」と考えているという問題があります。

ところで、夫婦別姓に反対する人の声の中には「同じ氏が嫌ならば、事実婚をすればよい」という意見もありますが、事実婚では日本では法律上「他人」だとみなされるため、医療同意の代行は認められませんし、保険に関しても法律婚の夫婦とは違う条件でしか加入できませんし、相続者の配偶者控除もないなど相続の面でも不利であるため、適切な代替案だとは言い難いです。

国連の女子差別撤退委員会も日本に再三勧告をしている

記者会見中に恩地さんが語った小包のエピソードや入院の際の見舞いの話は、傍から見ると「たいしたことない問題」だと片付けられがちです。しかし、ひとつひとつはたいしたことのない問題のようにみえても、それらが日々重なる事で女性が不利な状況におかれていることは確かなのです。自分の名前は人格の一部であることを考えると、慣習だとはいえ、婚姻とともに女性が自分の氏を失うのは人権の問題でもあります。また、専業主婦が多かった一昔前とは違い、現在は働く女性も多いです。女性が旧姓で仕事で結果を出したのに、婚姻によって別の姓になることは、その女性のキャリアが分断されるということです。

政府は別姓を認める代わりに「女性は旧姓を通称として使えば良いのではないか」としていますが、弁護団事務局長の野口さんは「通称としての旧姓は法律に規定がないため、その扱いが会社や人事部などに委ねられているのが現状」だと語りました。そういった不安定な状況では、「旧姓は通称として使えるのだから、それでよい」とは言いがたいです。

今なお「女性は夫の氏を名乗って当たり前」というニッポンの感覚の根底には、家制度 があります。実際の家制度は廃止されてから70年以上経ちますが、まだまだ潜在的に「結婚したら女性は男性の家の一員になる」という感覚があるのだと思います。そして、そういった状況が女性差別であるからこそ、国連の女子差別撤回委員会は「夫婦同姓強制」について2003年、2009年、2016年に日本に対して勧告を行いました。

夫婦の苗字、ドイツでは

筆者の母国ドイツでは、かつては夫婦どちらかの氏を選ばなければならず、決まらない場合は夫の姓にするという規定がありました。しかしこれが女性差別的だとして、1990年代にこのルールの見直しがされています。現在のドイツでは夫婦別姓も可能ですが、よく見られるのは、婚姻後に二つの苗字をハイフンでつなぐ方法(Doppelname)です。例えば夫の苗字がOberhauserで妻がBeckerの場合、Becker-Oberhauser、またはOberhauser-Beckerとつなげます。このDoppelnameを女性のみが名乗ることもできますし、男性のみが名乗ることもできます。もちろん夫婦ともどもDoppelnameを名乗ることもでき、その場合は当然ながら同姓となります。

ニッポンで国際結婚カップルの別姓がオッケーな理由

この記事の冒頭で「ニッポンでは別姓は例外を除き認められていません」と書きましたが、この「例外」には国際結婚カップルが該当します。日本人同士の結婚であれば夫婦の別姓は法律上認められていませんが、例えば外国人男性と結婚した日本人女性の場合、夫の外国名にすることもできれば、結婚後も旧姓のままにし別姓にすることが可能です。その理由について弁護団の野口敏彦さんは「天皇がトップで、その下に家があって、男性が戸主という『日本人なら家制度で管理されて当たり前』だという考えが日本に根付いている。外国人は家制度の一員だとはみなされていないため、別姓が認められているのではないか」と話しました。

しかし外国人と結婚する人には認められている権利が、日本人と結婚する人には認められていないというのはよく考えてみればおかしな話です。残念ながら、11月15日、東京地裁立川支部は夫婦同姓を定めた民法の規定を合憲と判断し、原告の主張を認めませんでした。11月19日の広島地裁の判断に期待したいです。