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終戦記念日に「少女像」について考える

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 
中止となった「表現の不自由展・その後」に展示されていた「平和の少女像」=2019年7月31日、名古屋市東区、上田潤撮影

毎年夏になると8月6日の広島への原爆投下、そして9日の長崎への原爆投下で犠牲になった人を追悼する平和式典が行われます。8月15日の終戦記念日を中心に毎年テレビでも戦争の悲惨さを伝える番組が放送されています。戦争を体験している人がどんどん少なくなっていっている日本で、戦争の悲惨さを伝えていくことは大事なことです。

そんな中、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」で、戦時中に日本軍の「慰安婦」として性被害に遭っていた女性をモチーフとした「少女像」の展示について「反日的だ」などの批判が相次ぎ、開催から3日で中止に追い込まれるという事態になりました。同会場に対してテロ予告(犯人は8月8日に逮捕)まで行われており、本来は10月14日まで開催予定だった展示がわずか3日で中止を余儀なくされました。

名古屋市長の河村氏が展示会を訪れた際に「平和の少女像」について「日本人の心を踏みにじるもの」と発言し撤去を求めたことも、「表現の自由」を保障する憲法21条に違反するのではないかと物議を醸し、「政治家によるアートの内容への介入」について世間では議論になりました。この問題でもまた「日本と韓国の間の第二次世界大戦に対する考え方の違い」が浮き彫りとなりました。

「あいちトリエンナーレ2019」の一連の騒動は海外でも報じられ、ドイツの南ドイツ新聞はかつての日本軍の犠牲になった性奴隷の韓国女性をテーマとして取り上げたために展示会が中止に追いこまれたと報じています。

「少女像」を制作した彫刻家夫婦が伝えたかったこと

「少女像」に関しては、「展示の中止」や「政治家やジャーナリストの発言」などが取り上げられ、大きな騒動へと発展しました。日本の一部の市民はこの少女像を「反日の象徴」として捉えているようですが、少女像を制作したキム・ウンソン、キム・ソギョン夫婦は、少女像のそばに「(少女の)隣に座ってみてください。手を握ってみてください。平和に向けた考えが広がることを祈ります」という文章を添えており、「平和の少女像」の名前の通り、この少女を通して平和を訴えかけています。少女像の隣に腰掛け、少女と同じ目線になることで、何かを感じ取ってほしいとのことです。ソギョンさんは日本のメディアからの取材に対し「この像は反日の象徴として制作したのではなく、平和の象徴であることを知らせるために展示会への参加を決意した」と語っています。少女の肩には一羽の鳥がとまっていますが、これは少女の寂しさをあらわしており、裸足の足が擦り切れているのはその険しかった人生をあらわしているといいます。

キム・ウンソン、キム・ソギョン夫婦は、ベトナム戦争中に韓国軍により犠牲となったベトナムの民間人の被害者たちを慰めたいという思いから「子を抱くベトナム人母」の像も制作しています。「最後の子守歌」と名づけられたこの像は2017年から韓国の済州島に立っており、その姿から「ベトナム・ピエタ」とも呼ばれています。このことを見ても、同夫婦が国籍を問うことなく、戦争の悲惨さを伝える目的と同時に、「平和」を求め制作活動をしていることが伺えます。

今回の騒動で残念に思ったのは、「少女像」の展示に関連するテロ予告や政治家などの発言ばかりが話題になり、この彫刻家夫婦が伝えたかったことがメディアであまり話題にならなかったことです。

ドイツ各地の「少女像」

ドイツでも韓国の彫刻家によるこの「少女像」はひろく知られています。ドイツでの少女像は「二度と戦争を起こしてはいけない」という意味とともに、「女性の人権」とつなげて考えられています。たとえば2017年3月8日の「国際女性デー」に合わせて、ドイツのバイエルン州ヴィーゼントのネパール・ヒマラヤパビリオン公園の除幕式で少女像が設置された際に、元慰安婦のアン・ジョムスンも出席していますが、その様子はドイツで「世界における女性への性暴力と人権侵害に反対する反戦と平和のメッセージ」として報道されました。また同年、ナチス時代に女性が多く収容され女性に対する性的暴行が日常的に行われていたラーフェンスブリュック強制収容所にも、少女像のミニチュア版が期間限定で展示されていました。このようにドイツでは韓国の少女像が「戦争で性被害に遭う女性のシンボル」として扱われています。

 「あいちトリエンナーレ2019」で展示されていた少女像と似た少女像は現在ドイツ国内でも展示されています。ギャラリーGEDOK Berlinの“Toy are Us“という展示会で「旅する平和像」と題された少女像を8月2日から8月25日まで展示しています。撤去の要請などはないものの、この展示会を主催するドイツの女性芸術団体宛には、ベルリンの日本大使館から慰安婦問題に関する日本政府の見解が書かれた手紙が届いたとのことです。ただ芸術団体は開催をストップすることは考えていないということです。

ドイツに見る「戦争との向き合い方」

日本と韓国の間の歴史の問題については、よく日本側からの意見として「いったいいつまで謝れば良いのか」という意見が挙がります。しかし、結論からいうと、日本が被害を与えたことに関してはいつまでも謝り続けるしかないのではないでしょうか。

ドイツの終戦記念日は日本よりも3カ月早い5月8日ですが、この日に合わせてドイツのテレビではかつてドイツ人がユダヤ人や近隣諸国の人に与えた苦痛を取り上げる番組が放送されています。また終戦記念日ではありませんが、先日の2019年8月1日は、1944年8月1日の「ワルシャワ蜂起」からちょうど75年でした。そのため今月8月1日に、ドイツのマース外相がポーランドを訪れ、ワルシャワ蜂起の記念碑に花輪を献げました。ワルシャワ蜂起では、ポーランド国内軍がドイツ軍に対して抵抗をし蜂起しましたが、ドイツ軍はその反撃として同地区で15万人から20万人を殺害しました。追悼式典でマース外相は「ドイツ人によって、またドイツの名のもとにこの町で犯された罪は、言葉では表すことはできません。ドイツはこの凄惨な行いに対して責任を負っています」と語りました。

※ドイツ連邦共和国大使館・総領事館の8月1日のFacebook投稿より

戦時中に他国へ与えた危害に関しては金銭的な賠償をすることは必要ですが、相手は感情のある人間ですから「賠償をしたから話は終わり」ではないと思います。何年経っても反省を続け、世代を越えても危害を加えた相手の国の人に対して「申し訳なかった」という姿勢を示し続けることが大事なのではないでしょうか。

日本では終戦記念日のこの時期、「被害者としての日本」を取り上げることで戦争の悲惨さが語られています。しかし今の時代は自国の被害とともに他国の被害についても「共に悲しむ」ことができるかどうかが問われていると思います。お盆のこの時期、「自分のご先祖様は何も悪いことをしていなかった」「自分のご先祖様は良い人であった」ことを信じたい気持ちは分かります。しかし、今後の国と国との関係を考えるなら、日本が戦時中に他国へもたらした苦痛に耳を傾けることは重要です。たとえば今こそ欧州連合として同じ方向を向いているヨーロッパの国々ですが、かつてを見ればそれは「戦争の歴史」でした。しかし第二次世界大戦後に関係をそれ以上悪化させないために長年の努力をして今の欧州連合があります。

現代のドイツは同じ欧州連合の国々と良い関係が築けていますが、ドイツの戦時中の過ちについては今後も「なかったこと」にすることはないでしょう。実際に第二次世界大戦中のドイツの蛮行については、現在もドイツのメディアが定期的に取り上げており、ドイツの教科書にもかつてのドイツの「加害」の部分が載っています。

日本では「女性が被った被害」が「戦争」と切り離して考えられている傾向がありますが、今は「戦時中の女性の性搾取や性被害にスポットを当てることが現代の女性の人権を守る上で大事なこと」だというのが世界の共通認識です。日本の「戦時中の性被害について触れるべきではない」という考え方が、現代でもレイプなどの性被害について語るべきではないという雰囲気を助長しているのではないでしょうか。