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対韓輸出管理問題がここまでこじれた理由

国際ニュースの補助線

7月1日に経済産業省が公布した「輸出貿易管理令」の運用の改定は、極めてテクニカルな行政文書であるにもかかわらず、日韓関係を大いに揺るがす文書となった。この件については、韓国研究の専門家や輸出管理、国際経済法の専門家などがすでに言及しており、論点が出尽くしている感もあるが、逆に様々な論点が提示されているがゆえに、実態が分かりにくくなっているという側面もあるように思える。ここではなぜ議論が混乱し、わかりにくくなっているのかを整理して、今後の展開を考えるうえでの補助線を引いてみたい。

単なる輸出管理制度の運用見直し

今回の措置は、現実に起こったことだけ見ると安全保障貿易管理、すなわち日本から輸出される製品で大量破壊兵器の開発・製造につながるものの輸出の許可に関する政省令(輸出貿易管理令)の変更に過ぎない。この輸出貿易管理令は外国為替・外国貿易法(外為法)の詳細を定める政令であり、他の様々な機微技術を含む製品を管理する法令である。

今回の措置は、韓国の「輸出管理制度の不備」を理由に、特定の3品目(フッ化水素、EUV用レジスト、フッ化ポリイミド)に関してはこれまでの包括許可から個別許可に移行し、それ以外に関しては包括許可を維持するというものである。フッ化水素は半導体、レジストはDRAMなどの媒体、フッ化ポリイミドは有機ELなど、いずれも韓国の主要産業に不可欠なもので、なおかつ日本の製品が世界市場において大きなシェアを占める製品である。これらの製品の輸出許可を個別に取ることは、輸出業者にとっては大きな手間となる一方、包括許可の時よりも審査に時間がかかることになる。また、場合によっては輸出許可が出ないというケースもあるだろうが、この制度変更だけで「輸出制限」や「禁輸措置」となるわけではない。

「ホワイト国」から外れる意味

しかし、韓国国内では、この制度変更が韓国に対する制裁措置であり、韓国産業に損害を与えることを意図したものであり、自由貿易のルールに反するという解釈がなされている。これが韓国側の強い反応を引き起こし、WTOへの提訴や国連安保理の北朝鮮制裁専門家パネルによる調査の要求といった対応を導き出している。本来、包括許可を個別許可に変えたに過ぎないことがここまで激しい反応を引き起こしたのは、日本の制度変更をめぐるメッセージの発信に問題があると思われる。

まず、単なる制度変更であっても「なぜこの3品目なのか」「なぜ韓国だけなのか」という問いに対する明確な答えが出されていない。今回の制度変更は韓国の輸出管理体制に不備があったからというのが経産省の説明ではある。実際、韓国企業が操業する中国の工場に日本から輸入した製品が流出しているといった話は以前から問題とされており、それに関する協議を日本側から呼び掛けても韓国側が対応しなかったという過去がある。その意味では日本の対応は合理的ではあるのだが、同時に、こうした輸出管理の不備は韓国に限らず他の国でも問題となる可能性はある。すでにウクライナとトルコに関しては大量破壊兵器の不拡散に関する4つの国際レジーム(核供給国グループ:NSG、核物質管理のザンガー委員会:ZC、生物化学兵器のオーストラリアグループ:AG、ミサイル技術管理レジーム:MTCR)と通常兵器の輸出管理の枠組みであるワッセナー・アレンジメント(WA)の5つに入っているが、この二ヶ国は「ホワイト国」として認定されていない。

「ホワイト国」とは大量破壊兵器不拡散の4つのレジームとWAに入っており、なおかつ輸出管理が適切に実行されている国に与えられる、日本特有の枠組みである。「ホワイト国」として認定されれば包括許可手続が適用され、輸出がスムーズになる特典があるが、ウクライナとトルコはレジームに入りながらも輸出管理体制の不備から「ホワイト国」としての扱いにはなっていない。韓国はこれまで「ホワイト国」であったが、今回の制度変更で上述の3品目は個別許可の扱いになった一方で、その他の品目に関しては包括許可が残るという特殊な仕向け先になったため、ウクライナやトルコのグループ(貿易管理令では「ほ地域」)ではなく、韓国のみが属するグループ(同「り地域」)に分類された。

韓国だけが特殊なケースではなく、国際レジームに入っていても「ホワイト国」扱いにならないが、3品目以外は「ホワイト国」と変わりないのだから、ある意味韓国はこれまでの特権を享受し続けている。その意味で韓国が「ホワイト国」から外れる意味は小さい。

政治性を帯びた3品目

しかし問題は「なぜこの3品目なのか」という点がはっきりしていないことであろう。実際、これらの品目は日本が韓国に対して「レバレッジ(テコ)」を利かせることができる品目であり、輸出管理が強化されることによって韓国の主力産業に影響が及ぶリスクが高まる品目である。ここに政治的な意図を韓国は感じ取っているのである。

これらの3品目に関する韓国の輸出管理上の問題があるとすれば、日本政府はそれらを公にする(すでに報道ベースでも中国への流出の問題などは取り上げられている)ことでこうした問題は払拭できるかもしれないが、現実にはそうなっていない。

その背景には、安倍首相が参議院選の党首討論会での質疑応答で、今回の制度変更の意図として徴用工問題や慰安婦合意に関する日韓の政治的な問題が背景にあることを示唆し、また担当大臣である世耕経産大臣はこうした制度変更の措置をとった理由として、「さらに今年に入ってこれまで両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上で、旧朝鮮半島出身労働者問題については、G20までに満足する解決策が示されず、関係省庁で相談した結果、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない」とツイートした。

こうした発言が日韓両国のマスコミに取り上げられ、それが両国で大きな話題になると様々な憶測に基づく解釈がなされるようになり、韓国においては日本が徴用工問題に対する報復を行ったという認識が強まっている。とりわけ日本は参議院選挙の直前であり、安倍政権は韓国に対して強気の姿勢を見せることで選挙戦を有利に戦う算段であるとの解釈が広まっている(その可能性は否定しないが、日韓関係は参院選の争点とはみられておらず、投票行動に大きく影響するかどうかは定かではない)。

WTOへの提訴は問題にはならない

他方で日本政府は今回の措置を「韓国の輸出管理体制の問題」として安全保障上の懸念から措置をとったという説明の一点張りで、当初は徴用工問題などとのリンクを示唆していた政権首脳も歩調を合わせて論を展開している。また、韓国がWTOへの提訴を主張する中で、日本ではこの問題を「安全保障上の問題」として位置づけ、GATT第21条に基づく例外措置であるかのように議論されることがしばしばである。しかし、ここには誤解がある。

GATT21条は『自国の』安全保障上の重大な利益の保護、ないしは国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基づく『義務』がある場合、自由貿易の例外となる規程である。ただ、今回の日本の輸出管理制度の変更は、必ずしも自国の安全保障に直結する問題でもなく、また国連憲章に基づくものでもない。輸出管理は先に挙げた国際レジームという有志連合が、大量破壊兵器の不拡散をグローバルな利益として考え、国際秩序安定のための措置として考える国々によって主導され、国連とは別の枠組みで成立させている仕組みである(ただ国連安保理決議1540で大量破壊兵器の不拡散が決議されており、その履行を促進する委員会も存在するため、国連と完全に無関係というわけではない)。

こうした理由から、もしWTOに提訴された場合、「安全保障上の問題」なので例外規定が適用されることが確実とはいえない。しかしながら、大量破壊兵器の不拡散と通常兵器の拡散防止は国際秩序を形成するうえで重要な要素であり、これまでも自由貿易という国際規範と不拡散という国際規範は両立してきた経緯があり、今回日本がとった措置は、韓国に対して3品目を包括許可から個別許可に移すという限定的な措置であり、なおかつ個別許可の仕組みはウクライナやトルコのような「非ホワイト国」に対してこれまでも実施してきたものである。その観点からすれば、今回韓国に対して行った制度変更は既存の輸出管理の枠組みから逸脱するものではない。

加えていうなら、もし韓国が輸出管理という制度自体がWTOの理念に反すると主張するなら、韓国自身も5つのレジームすべてに参加しており、輸出管理を実施している主体であるため、自らもWTO違反をしているということになるだろう。

すれ違ってしまったゲームのルール

ここまで見てきたように、韓国に対する3品目の輸出管理制度の変更は、制度的には大きな変更ではなく、また、WTOに提訴したところで大きな問題にはならないと思われる事案だが、ここまで騒ぎが大きくなったのは、この問題が政治性を帯びた「エコノミック・ステイトクラフト」であるとみられているからであろう。「エコノミック・ステイトクラフト」とは直訳すれば経済的国政術ということであるが、具体的には経済的な手段を使って国家的な目標を達成するという行為である。しばしば今回の日本の対応が「安倍政権のトランプ化」と言われるように、イランやベネズエラに対して制裁を科して望ましくない政権を打倒したり政策を変更させたり、中国との報復関税の応酬をすることで米中貿易摩擦を解消しようとしたりすることと同じような「エコノミック・ステイトクラフト」として見られている。

確かに、3品目を選択したことの理由がはっきりと示されず、日本が韓国の政策を変更させるためのレバレッジとして用いているという解釈も可能ではあるし、同時に政権首脳が徴用工問題や慰安婦合意に関連付けて説明するなど、「エコノミック・ステイトクラフト」としてのニュアンスは非常に強い。これが結果として韓国の激しい反応を呼び起こしている。しかし、実質的には極めて限定的な制度変更でしかなく、その「タテマエ」も韓国の輸出管理制度の不備であるという設定になっている。

これは、言い換えれば韓国が輸出管理制度の不備を認め、それを修正する、ないしはその修正に応じる協議を行うということで解消する問題であるし、そのようにして解消すべきである。しかしながら、一度「エコノミック・ステイトクラフト」の実践として認識されてしまうと、この問題は制度的な落としどころを探るのではなく、外交的な勝ち負けを争う対立になってしまう。安倍政権がその勝負を求めて今回の措置をとったとすれば、どこかで勝ち負けを決めるルールやゴールを設定する必要があるのだが、そうしたことを明示せずに、今回の措置が「安全保障上の問題」であり、制度的な不備を正すものであるという、制度的な落としどころに引きこもってしまっている。逆に韓国はこの問題を「エコノミック・ステイトクラフト」として捉え、様々な手段を使って外交的勝利を得ようとしている。

このように、日本は制度的なゲームを、韓国は外交的なゲームをプレイすることで、お互いにすれ違いの状況となっており、異なるゲームを調整する仕組みのないまま両国政府も、またメディアや国民も混乱している。この混乱の原因になったのは、経産省が制度的なゲームとして設定したのに、政治家が「エコノミック・ステイトクラフト」としてのゲームと思わせるようなそぶりを見せてしまったことにあると思われる。ゆえにその収拾も安倍政権の首脳が努力する責任があると思うが、すでにエキサイトしてしまっている現状ではなかなか収拾をつけることも難しい。当面は熱が冷めるのを待ち、制度的ゲームで落としどころを探す作業に入るのを待つしかないのではないかと思われる。