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日本は米・イラン関係を仲介できるのか?

国際ニュースの補助線
日米首脳会談の冒頭、握手する安倍晋三首相とトランプ米大統領=27日午前11時4分、東京・元赤坂の迎賓館、代表撮影

5月25日から4日間の日程で令和時代になって初めての国賓として来日したトランプ大統領。今回の訪日は儀礼的なものとして、貿易交渉などについて踏み込んだ交渉はしないものと見られていたが、5月27日の安倍首相との共同記者会見では、いくつか重要な発言が見られた。そのうちの一つがイランとの交渉を日本が仲介することに前向きな姿勢を見せたことである。トランプ訪日に先立ってイランのザリフ外相が訪日し、アメリカの制裁再開に対抗して、核合意の部分的な履行停止を訴えた(それについては前回の記事で解説)。ただ、イランは核合意を破棄するつもりはなく、欧州や日本などに行動を起こすよう60日間の履行停止の猶予期間を設定し、今回の訪日を通じて、日本にも核合意の維持を求めた。

日本はイラン産原油の輸入国として、アメリカとイランが国交を断絶した後も継続的な関係を維持し、今年は日本とイランの国交樹立90周年に当たる。安倍首相もトランプ大統領就任前からイラン訪問への関心を示しており(2016年夏は米大統領選に配慮して取りやめ、2018年夏はトランプ大統領のイラン核合意離脱に配慮して取りやめ)、今年中にイランに訪問することが期待されているだけに、今回トランプ大統領が日本による仲介に前向きであるというのは大きな推進力となっている。では果たして日本はアメリカとイランの間を仲介することができるのだろうか。仲介するとしても一体何ができるのだろうか。その可能性を考える上で、少し補助線を引いてみたい。

アメリカの要求

2018年5月にトランプ大統領がイラン核合意から離脱することを宣言した直後に、ポンペオ国務長官は12箇条の要求を発表し、これがアメリカがイランと交渉し核合意に戻る、ないしは新たな合意を作る条件と見られていた。この12箇条とは以下の通りである。

1. イランは過去の核開発の軍事的な側面についての内容をIAEAに全て申請し、恒久的にこのような活動を破棄することを宣言すべし
2. イランはウラン濃縮を停止し、プルトニウムを抽出する再処理を求めてはならない。ここには重水炉の閉鎖も含まれる
3. イランは国内全ての施設におけるIAEAの査察に無条件でアクセスを提供すべし
4. イランは弾道ミサイルの拡散を止め、核兵器搭載可能なミサイルシステムの開発や打ち上げを停止すべし
5. イランはいい加減な名目で拘束している全ての米国と同盟国の市民を解放すべし
6. イランはヒズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラーム聖戦を含む、中東のテロ集団への支援を停止すべし
7. イランはイラク政府の主権を尊重し、シーア派民兵の武装解除、動員解除、再統合を認めるべし
8. イランはフーシ派民兵への軍事支援を止め、イエメンの平和的政治解決に努力すべし
9. イランはシリア全域からのイランが指揮する全ての部隊を撤退させるべし
10. イランはアフガニスタンと中東地域におけるタリバンやその他のテロリストへの支援を停止し、アルカイダ指導部を匿うことを止めるべし
11. イランは革命防衛隊の世界中におけるクッズ部隊(対外遠征部隊)によるテロリストや軍事パートナーへの支援を止めるべし
12. イランは、多くがアメリカの同盟国である、その近隣諸国————に脅威を与える行為を停止すべし。ここにはイスラエルを破滅させると脅すこと、サウジアラビアやUAEにミサイルを撃ち込むことも含まれる。また、国際的な航路への脅威や破壊的なサイバー攻撃も含まれる

1〜3に関しては2015年のイラン核合意の内容をより厳しくするものであるが、4以降の要求はトランプ政権になってからの新たな要求であり、イランはいずれに対しても強く反対してきた。イランから見ればこれらの要求は事実に基づいたものでもなく、また主権国家として認められているイランの権利を侵害するものとして全く認めていない。

もしトランプ政権がこの12箇条に固執して、これらが全て認められない限り交渉はしないという立場を取るのであれば、いくら日本が仲介しても交渉は成立しないであろう。しかし、5月に入って急速に米イラン関係の緊張が高まり、アメリカが武力行使をする可能性が高まってくる中、トランプ大統領が5月15日のラブロフ外相との共同記者会見で「戦争を望んでいるわけではない」と述べ、5月27日の安倍首相との共同記者会見で「イランの体制転換を求めているわけではない」と述べるなど、段々と緊張を緩和させるような発言をしており、緊張緩和に向かう流れができている。そんな中で、安倍首相を仲介とした対話の可能性を示唆したのは、12箇条全ての受諾を求めているわけではない、というサインとも読み取れる。

米朝交渉からのヒント

では、アメリカとイランが交渉を開始するための条件、そして交渉の落としどころはどこになるのか。これが明らかにならなければ、日本も仲介をするとっかかりすらつかめない。これまでの対立状況の中で、互いに過激なレトリックを用い、何を求めているのかもわかりにくくなっているが、いくつかのヒントから探ってみよう。

まずはトランプが北朝鮮と向き合う流れになったケースである。直前まで「ロケットマン」や「老いぼれ」といったレトリックが飛び交い、安保担当補佐官であったマクマスターが「鼻血(Bloody Nose)作戦」と呼ばれる部分的な先制攻撃まで提案していたが、平昌オリンピックを境にその態度が大きく変化した。そこでは北朝鮮と韓国の南北関係の改善があり、韓国がメッセンジャー役として米朝間の対話を促進した。日本が韓国の役回りを演じることになるが、南北関係のような特殊な関係が日本とイランの間にあるわけではないため、全く同じことはできない。

しかし、ここからヒントを得るとすれば、第一に北朝鮮が積極的にアメリカと対話することを求めてきたらトランプ大統領はそれを無碍には断らない、ということである。韓国が具体的にどのようなメッセージを伝えたかは定かではないが、後にトランプ大統領は北朝鮮からのメッセージを積極的に受け取り、シンガポールでの米朝首脳会談以降では、金正恩委員長と「恋に落ちた」とまで言うようになったということは特筆すべきことであろう。

第二点目として、150ページにも及んだイラン核合意のような詳細な合意を作るつもりはなく、米朝の間で結ばれたような大原則で合意すれば、イランも何らかの成果を得ることは出来る可能性がある。米朝の場合、アメリカは北朝鮮の完全な非核化を主たる成果として考えており、トランプ大統領は当面核実験や大陸間弾道ミサイル発射がなければ、合意は維持されていると理解している。その見返りとして北朝鮮が得た(ないしは得たと思っていた)ものは韓国からの援助であり、韓国も人道援助をはじめとして北朝鮮との経済活動を再開しようと試みた。しかし、アメリカは国連安保理による制裁を解除しなかったため、韓国が北朝鮮に対して援助することも難しくなり、さらにはハノイでの米朝首脳会談が不調に終わったことで、北朝鮮は期待していた成果を得ることはできなかった。

この点はイランの場合、若干環境が異なる。イランに対する制裁はアメリカの単独制裁であり、北朝鮮のように国際社会全体が制裁の対象としてみているわけではない。また韓国の役割を演じるのは日本だけでなく、欧州や中国、インドやトルコなど、多くの国がイランとの間で取引をしたがっており、それを妨げているアメリカの二次制裁さえ解除されれば解決は早い(この二次制裁は大統領の署名一つで解除することができる)。

米イラン交渉の可能性

イランからしてみれば、二次制裁を解除するという条件であれば、アメリカの制裁全体が解除されなくても大きな問題はない。イラン核合意の中でもアメリカの一次制裁(米国企業や米国人に対する制裁)は維持されており、またイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)も制裁対象として継続されていたため、その後に追加された外国テロ組織(Foreign Terrorist Organization: FTO)指定も大きな変化をもたらすものではなかった。そのため、日本や欧州などの非米国企業や非米国人にまで制裁が適用される二次制裁さえ解除されれば、イランにとって十分である。

ではアメリカが受け入れる条件はどのようなものになるだろうか。アメリカ国内では様々な見解があり、トランプ政権の中でも安全保障担当補佐官のボルトンはイランに対して極めて厳しい姿勢を取り、イランの反体制運動であるムジャヒディン=ハルク(MEK)と呼ばれるカルト集団(マルクス主義的なイデオロギーを基礎としつつ、メンバーの性的関係を認めないといった側面ももち、テロなどの暴力的手段も容認するため一時期アメリカがFTO指定していたこともある)との関係がある。ボルトン補佐官は究極的にはイランの体制転換を目指していると言われ、そのためには戦争も辞さない(かつてイラク戦争を主導した立場でもある)と見られている。ポンペオ国務長官も12箇条の要求を発したように、イランに対してはタカ派的な立場を取るが、国務省内にはイランと交渉すべきと主張するトンプソン国務次官もいれば、イランに対して厳しい態度を取るイラン担当特別代表であるフックのような人物もいる。このような状況の中でアメリカがどのような条件を受け入れるのかを見通すのは難しい。

そんな中で5月27日の共同記者会見で発したトランプ大統領の一言は多少のヒントになるかもしれない。トランプ大統領はイランに関する質疑で、イランの中東地域における覇権的な軍事行動を批判した後、北朝鮮の時と同様に「イランは経済的なポテンシャルがある」と述べた後、「我々はイランと合意することができる(I think we’ll make a deal)」と述べ、「体制転換は望んでいない。それははっきりしておきたい。核兵器のない状態を望んでいる(We’re not looking for regime change. I just want to make that clear. We’re looking for no nuclear weapons)」とも述べた。さらに「バイデンとオバマ大統領が署名した合意はイランが短期間で自由に核兵器にアクセスできることを認めている」と批判し、そのような合意は認められないと結んでいる。

交渉の落としどころ

ここから言えることは、トランプ大統領は核合意がイランに一定程度の核開発能力を持たせたことが結果的に短期間で核兵器の開発を可能にさせたという理解をしていること、またオバマ政権でこの合意が署名されたことが問題であり、2020年の大統領選でライバルとなり得るバイデン前副大統領を批判するために核合意を批判しているという側面がある、ということである。しかし、同時にトランプ大統領は交渉し、合意することを求めており、何らかの成果を得たいという願望もあるということは明らかであろう。

では、アメリカにとっての落としどころはどこにあるのだろうか。一つはオバマ政権で結ばれた核合意以上の譲歩がなければトランプ大統領は納得しないであろう。ポンペオ国務長官が発した12箇条の要求の1〜3では過去の核兵器開発の申告と恒久的な宣言、再処理と重水炉の閉鎖、IAEAの軍事施設へのアクセスという三点であったが、過去の核兵器開発とIAEAの査察に関しては既にイスラエルがイランから窃取した情報を持っており、それに基づいてIAEAの査察を求めることを認めるということになるだろう。これに関しては現在の核合意でも可能なことであるが、イスラエルがそれを行っていないのは、実際、IAEAの査察を求めるほどの事実がないからと思われる。なので、ポイントになるのは再処理と重水炉の問題であり、再処理については既にIAEAの監視の下でその能力は制限されているので、具体的には重水炉の建設に関する問題であろう。現在の核合意では、アラク重水炉をプルトニウムを取り出しにくい設計に変更するとしており、イランのアラグチ外務次官は、つい先日の2019年5月29日に、核合意を違反するのであればアラク重水炉を元の設計に戻すと脅している。これは、アメリカと交渉することになった場合、焦点となるのは重水炉をどうするのか、という論点になることを見越してのことと思われる。

アメリカが現在の核合意+重水炉の放棄ということで核開発について納得するとしても、それだけで問題は解決しない。次なる問題はイランの覇権的な行為に関するものである。そのうち最優先されるものはイランのミサイル開発である。安保理決議2231号ではイランは「核兵器を搭載するように設計された弾道ミサイル」の開発や発射を禁じられているのだが、核兵器を搭載しない通常弾頭のミサイルであれば問題ないと解釈できるため、ミサイルの発射実験を核合意締結後も行っている。イランは自衛のためにはミサイルが不可欠であり、とりわけイスラエルの攻撃を抑止するためにはミサイルが必要だという立場を崩していない。逆にアメリカはイスラエルを射程に収めるミサイルは認めることができないであろう。そうなると落としどころは北朝鮮の時と同様に、ミサイル実験の猶予(モラトリアム)を約束することで、イランのミサイル開発の可能性を残しつつ、当面イスラエルを脅かすようなミサイル発射は行わない、ということになるだろう。

もう一つ問題となるのは、イランの中東でのプレゼンス、とりわけシリア、イエメン、イラク、レバノンにおけるイランの影響力である。アメリカとしては何よりもまずイスラエルの脅威となっているレバノンのシーア派民兵であるヒズボラ、そしてガザ地区におけるハマスやパレスチナ・イスラーム聖戦といった武装組織への支援を止めさせることを求めて来るであろう。また、サウジアラビアの攻撃対象となっているイエメンのフーシ派への支援を止めることも求めて来るであろう。これらに関しては、イランは交渉の対象とすることすら認めておらず、仮に交渉するとすれば、イランもアメリカによるイスラエルやサウジアラビアに対する武器輸出や軍事支援を止めることを求めて来るであろう。ここでは落としどころが全くないといっても過言ではないが、仮に何らかの合意を結ぶことが可能だとすれば、米朝首脳会談のように、極めて抽象的な合意(例えば「中東地域の安定に対する最大限の努力を行う」といったような解釈の余地の広い合意)でまとまる可能性はあるだろう。

最後の難関

日本がアメリカとイランの間を仲介する際、交渉の落としどころを想定しながら、双方が歩み寄ることで戦争の危機を回避し、場合によってはアメリカの二次制裁の解除もあり得ることを含ませながら、イランを交渉の場に引き出すことが最大のミッションとなるであろう。その際に高いハードルとして立ちはだかるのがアメリカに対するイランの不信感である。これまでトランプ政権からは何度かイランに対して対話の呼びかけがなされたが、イランの最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉はしないと断言し、ロウハニ大統領やザリフ外相もアメリカは一度結んだ合意を勝手に離脱し、仮に交渉したところでその約束が守られるという信用がない、ということで反発してきた。安倍首相が仲介外交をするに当たって最大の課題となるのは、このイランの不信感をいかに乗り越えるかである。

ここで力を発揮するのが、これまで安倍首相が再三にわたってトランプ大統領と個人的な関係を強化し、トランプ大統領の信頼を勝ち取ってきたという実績である。イランも当然ながら安倍首相とトランプ大統領の個人的な関係は知っている。そこで培った信頼関係をテコに、安倍首相がイランに対して、トランプ大統領との個人的な関係を担保として、アメリカを交渉の場に引き出し、合意が結ばれた際にはそれを維持することを働きかけるという約束をすることで、イランの不信感を軽減することは可能であろう。それが実現すれば、これまで「おもてなし外交」や「接待外交」といった、ともすれば揶揄の対象となってきた外交に価値が生まれ、それが武器となって日本が国際社会において信頼される国家として認められる存在になる。その千載一遇のチャンスを安倍首相は是非活かしてもらいたい。