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#KuTooに見る日本社会での女性の「生きにくさ」

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 

先日、グラビア女優でライターの石川優実さんが「職場で女性がヒールやパンプスを履くことを強制する風習をなくしたい」とこれに賛同する1万8800人分の署名を厚生労働省に提出しました。change.orgでの運動には#KuTooという名前がついており、日本語の「靴」(くつ)と「苦痛」(くつう)をかけて、英語の#MeTooをなぞらえたものです。

同氏が署名を厚生労働省に提出した後、衆院厚労委員会で厚労相の根本匠氏が「(女性の)ハイヒールやパンプスの義務付けは社会通念に照らして業務上必要な範囲かと思います。」と自らの見解を語り、これをうけてパンプスやハイヒールが果たして「本当に業務上に必要なものなのか」が世間では議論になっています。

筆者はかねてより女性のみがハイヒールの着用を義務付けられていたり、それに伴いストッキングの着用 を義務付けられていたりすることに疑問を持っていましたので、この#KuToo運動を喜ばしく思いました。しかし、この動きに対して、質問に答える形だったとはいえ、即「男性」(それは厚労相の根本匠氏)から、いわば遠まわしの「反論」があったところが「いかにも日本的だな」と思いました。電車での痴漢問題に関してもそうですが、日本では当事者の女性の声に対して即男性が反論するというのが「いつもの流れ」になってきているのです。

ビジネスシーンにおける女性の「フォーマルな靴」も多様なドイツ

さて、筆者の母国ドイツはというと、ビジネスシーンにおいてハイヒールやパンプスを履く女性もいるのですが、日本よりもかなり少ない印象です。ドイツの労働法に女性の身なりについて規定はありませんが、各企業でおおまかな規定を設けている形です。しかし女性の履く「きちんとした」靴は、ドイツではパンプスやハイヒールである必要はなく、「革の紐靴」でもいいですし、バレエシューズやモカシンシューズでもかまいません。

ドイツではSlipper (日本語のスリッパではありません)と呼ばれている靴を履いて出社をしても問題ありません。ハイヒールやパンプスを履かないからといって、なにも即カジュアルな運動靴を履くというわけではなく、そこは「色々なタイプの靴をフォーマルな場で履くこと」を認めている形です。

たとえばメルケル首相が今年2月に天皇陛下(今の上皇陛下)に会った際には、少しだけヒールはあるものの、ローファーのような靴を履いて会見に挑んでいます。これはヨーロッパの感覚から見るとまったく違和感のないものですが、これがもしも日本の女性だったならば、各方面から色々と言われてしまうのではないかと想像してしまいます。

ドイツのメルケル首相と会見する天皇陛下(当時)=2019年2月5日、皇居・御所の小広間、代表撮影

日本は「マニュアルが細か過ぎる」のがそもそも問題

#KuTooに関してもそうですが、日本の問題は「何でもガチガチに細かく決めてしまうこと」だと思います。学校の校則も、生徒の前髪の長さに始まり、靴から靴下まで何から何まで細かい規則があります。社会人になると、特に女性に対して「会社独自のルール」または「暗黙のルール」が何かと細かいのが特徴です。マニキュアは何色が可で何色だとダメだとか、化粧はしないのもダメだけれど、濃すぎるのもダメだとか、「こういった口紅の色は論外」だとか、会社によって本当に細かい規定があり、それこそが問題なのではないでしょうか。人の好みや体質に合うものは人それぞれですので、これがもっと本人に任せる形であれば、パンプスを履いていない女性に文句をつけるなどの重箱をつつくような行為がもっと早い段階で非難されていたのではないでしょうか。

#KuTooに関するベルギー大使館のツイート

先日、#KuTooについて東京のベルギー大使館が「ベルギー大使館の職員は、自分が履く靴を自由に選ぶことができます。ハイヒールを履くことを強要しません!私たちは平等・多様性・選択の自由を尊重します。 #KuToo #ハイヒール #MeToo」とツイート をし話題になりました。

写真を見ると、ベルギー大使館の女性が実に多様な靴を履いているのがわかります。そしてこういったスタイルが近年ヨーロッパではスタンダードです。ただ4年前の2015年にはロンドンで大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)にてハイヒールを履くように言われた受付係の女性が「ハイヒールの強制は苦痛」だとして1万以上の署名を集めたこともありました。これが英国議会で話題に上がり、イギリス政府がそのような規定をやめるよう通達を出しています。こうやって見てみると、#KuTooの問題は、なにも日本だけの話ではなく、ヨーロッパにも同様の問題はありました。ただし「その後の動き」が早いのが特徴かもしれません。

ハイヒールに見る「悪循環」

筆者はハイヒールを履くのがあまり好きではないのですが、これは筆者はそうでなくても背が高くて目立つのに、日本でハイヒールを履いてしまうと、もっと背が高くなってしまう、という個人的な理由もありますが、それ以上に、「ハイヒールを履くと、その時だけでなく、その後の時間も好きなことができず、行動が制限される」からです。

たとえばハイヒールを履いて仕事に行ったとしましょう。仕事が終わってみたら天気がよく、このまま散歩をして歩いて帰ったり、ショッピングに出かけたいな、と思うことがあります。そんな時に、ヒールのない靴を履いていれば、「行こう」と即決できますが、ハイヒールを履いていると、散歩をする気分は失せますし、買い物で長時間歩き回るのもヒールだと苦痛です。結局仕事にハイヒールを履いていったら、仕事後に外で色々と「活動」をしたくても、「ヒールを履いている」ということで、結果的に「やる気」を失ってしまい、結局まっすぐ家に帰る、という「不健康な悪循環」になる可能性が高いのが嫌なのです。もちろん「スニーカーを持参して履きかえる」という方法もありますが、持参して履きかえるよりも「最初からヒールのない靴を履いている」ほうが合理的なのはいうまでもありません。

以前、ドイツの医師が「亡くなった女性の背骨を見ると、生涯で何年ぐらいハイヒールを履いていたかがわかる」と語っていました。それぐらいハイヒールは体の負担になります。足の健康にもよくありません。人によっては外反母趾になったり、巻き爪になることもあります。また、前述の筆者の経験もそうですが、外出先で「ちょっと歩きたいな」と思った時に、ハイヒールを履いていると、そういう気もなくなる、という「結果的に行動が制限されて、不健康になる」という部分も大きいと思うのです。

災害の多い国ニッポンだからこそ考えたいこと

実は「ハイヒールは女性として、ビジネス上のマナーなのか」とのんきな議論をしている場合ではないのかもしれません。というのもニッポンではいつ大きな地震が来てもおかしくありません。地震の際、エレベーターは使えないので、ビルの上の階にいたら、長い階段を歩いて降りなければいけません。災害時に走って逃げなくてはいけなかったり、坂道を上がったり下ったりしなければいけない、というシチュエーションもあるかもしれません。そんな緊急時に、ハイヒールを履いていたばかりに、足をくじいたり、転んだり、逃げ遅れたりすれば、場合によって、それは命にかかわる事態にもなりかねません。スニーカーを別に持参していようと、緊急時にはスニーカーに履き替える時間的な余裕もないかもしれません。そんなことを考えると、「普通に走ることのできる靴」---それはヒールのない靴---というのを「スタンダード」にするというのが現実的というものではないでしょうか。