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インフルエンザ流行を通して考える海外の「病欠事情」

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 

インフルエンザが猛威をふるっています。そんな中、インフルエンザであるにもかかわらず出勤を求める職場がしばしば話題にあがっています。また先日は中目黒駅でインフルエンザにかかった女性が出勤途中で線路に転落し死亡するという悲惨な事故が起きました。

インフルエンザにかかった会社員が再出勤の際に勤め先から医師による「治癒証明書」の提出を求められるなど、日本ではインフルエンザというと何かと「会社」や「職場」の話になりがちです。

インフルエンザはもちろんヨーロッパにもありますが、病気そのもののことは話題になるものの、日本のように「会社を休めるかどうか」や「治癒証明書の提出」が話題になることはありません。日本でインフルエンザが「体への負担」以外の面、つまりは「仕事」に関連付けて話題になる背景には、やはり日本では「会社を休みづらい」という状況があるからでしょう。今回はドイツの会社の「病欠事情」にもスポットを当てながら「会社を休む」ことを考えたいと思います。

ドイツでは病欠が有休から引かれない

日本では病気になった場合、休んだ日にちを有休から引くことが一般的ですが、ドイツでは正規雇用・非正規雇用を問わず、病欠は有休から引かれません。病気で欠席した日にちは、有休で休んだ日にちとはまた別の枠です。つまりは「有給病欠」といえます。先日、ドイツ大使館がこの「有給病欠」について、面白いツイートをしていました。

ドイツ大使館が「ある統計ではドイツ人の年平均病欠日数は19日」とツイートしたことについて、ツイッターユーザーからは驚きの声が上がりました。「さすがに休みすぎじゃない?」という声も多かったのですが、ドイツ的な感覚だと「風邪の状態で職場に来られてもお互いに迷惑」という感覚が一般的です。

病気になったら、職場に「医者の証明書」を提出

日本では「風邪をひくのは自己管理がなっていない」「たかが風邪ぐらいは病気とはいえないのだから、風邪ぐらいで仕事を休むのは甘い」という根性論が昔から盛んです。しかし人間は機械ではないのですから、風邪をひくのは当たり前です。そして風邪だと明らかに仕事のパフォーマンスが落ちるわけですから、ドイツ的な感覚だと、無理をして出勤をしミスをされるよりも休んでもらったほうがよいですし、何よりもほかの従業員に風邪がうつらないほうがよいわけです。

もちろん風邪を引いた本人に対する「具合が悪いときはゆっくり自宅で休むべき」という配慮がベースにあります。もちろんこの考えは、非正規雇用の人に対しても同じです。

職場だけではなく、ドイツの医者も同じ考え方であるため、風邪をひいて医者に行くと、患者側がいうまでもなく「Attestを出しますね」と医者に言われます。Attestとは医者が「●●氏は、何月何日から何月何日までの期間、出社が不可能です」と書く証明書のことで、インフルエンザを含め病気の際はこれを職場に提出します。この医者による証明書の発行はドイツでは無料です。

職場からすると、医者のAttest(証明書)があることで、従業員が仮病ではないことがわかるので、互いに安心です。なお、ドイツでは通常は病欠をして3日後に職場へのAttestの提出が求められますが、職場によってはもっと早い段階での提出を求められることもありますす。

ところが日本ではこの医者による診断書を職場に提出することはあまり一般的ではないようです。以前、筆者が日本で中耳炎になった際、医者に診断書の作成をお願いしたら、大変驚かれ、「何のために必要なのか」と聞かれたことがあります。ちなみに日本に住むドイツ人からは「日本では診断書が有料であること」と「ドイツとは違い証明書に病気に関する詳細が書かれていること」が不評です。ドイツの診断書には会社を休むべき「期間」について記載はありますが、プライバシーに考慮し病気の詳細に関しては書かれていないのが一般的です。

前述通り、日本では近年、インフルエンザが治った後に出勤する際、会社から「治療証明書の提出」が求められることが話題になっていますが、「治ってからの治療証明書」よりも、ドイツのように、インフルエンザを含め病気になった時点での「医者からの診断証明書」が主流になれば、病気の際に堂々と休めるのではないでしょうか。

ドイツで有休は「全部使います」

ドイツでは法律で義務付けられている有休は年間24日ですが、多くの企業ではそれ以上の有休を従業員に与えており、年間30日の有休がある人も多いです。この30日を一年の間に2、3回に分けて使うのですが、前述どおりドイツでは病欠は有休から引かれないため、日本のように「万一、病気になった時のために、有休を取っておこう」と考える人はドイツにはいません。ドイツ人は有休は全部使い切ります。

面白いのは有休の数は、「労働時間」ではなく「出勤日の数」で決まるということです。たとえば、月曜日から金曜日まで毎日「4時間」しか働いていないパートタイムの人も、月曜日から金曜日まで毎日「8時間」働いている人と有休の数に差はありません。ただ、たとえば出社するのが週に3日程度だと、有休は年間12日というふうに減ります。有休の数に影響するのは出社の日数であり、「正規雇用か非正規雇用か」といった雇用形態は有休の数に影響はありません。

ところで、ドイツ人が有休を全部使い切るのは、従業員側の権利意識が強いということだけではなく、有休をとらせない企業には罰則があるからです。ドイツでは労働安全局(日本の労働基準監督署に相当)がこのチェックに当たるのですが、従業員に十分な休息を与えていない企業は処罰の対象となります。

違法な残業をさせた上司にも罰則が

残業に関しても、ドイツの労働安全局(日本の労働基準監督署に相当)が「企業が従業員に法律に違反するような残業をさせていないか」を随時チェックしています。一日の労働時間は最長で10時間と定められているため、企業がもし毎日10時間以上の労働を社員に強いていたり、週末に働かせていたことが発覚した場合には、罰金のペナルティがあります。面白いのは、上司が部下に違法な残業を強いる場合、この罰金が会社ではなく、上司のポケットマネーから支払われる場合があるということです。経営者には最高で1万5千ユーロ(約210万円)の罰金が科されます。2009年にはテューリンゲン州の労働安全局が、ある病院の院長が医師たちに超過労働をさせていたという理由で6838ユーロ(約85万円)の罰金を課しました。

残業をしたら、「お金」ではなく「時間」をもらう

ドイツでは一日に認められている最長の労働時間は10時間と書きましたが、もちろん何日か連続で、10時間を越える残業があっても即違反になるわけではありません。多く働いた分を他の日に「調整」すれば問題ありません。つまり、残業した分を「お金」でもらうのではなく「時間」で調整するというわけです。お金をもらったほうがいい、と考える人もいるかもしれませんが、この「時間調整」のよいところは、過労を防げることです。具体的にいうと、たとえば、定時が5時の会社で8時まで3時間の残業をしたら、次の週に定時より3時間早く上がる、つまり2時にオフィスを後にするというわけです。上に書いた「10時間」は、あくまでも一日の最長の労働時間であり、ほとんどの企業ではそれより少ない8時間でその日の業務を終了します。

また、その日の仕事が終わってから次の就労までに、少なくても11時間は空けなければいけない「インターバル規制」もあるため、従業員が過度に疲労することは日本と比べて少ないといえるでしょう。

「皆勤賞」は必要?「休むのは悪いこと」というニッポンの考え方

一番大事なのは「休むのはよいこと」という共通の認識が社会にあることだと思います。もちろん上に書いたような制度上のことも大事なのですが、根本に「休むのはよくないこと」だという考えがあると、うまくいかないように思います。

日本の会社には同僚が遊びで長期に渡り不在にすることを快く思わない人が多くいる印象です。でも「自分が休むこと」で他の人が休むことへの不満は解消されると思います。特に管理職など、組織の上のほうにいる人が自ら休むことが大事なのではないでしょうか。

「管理職が簡単に休めるわけがない」という声が聞こえてきそうですが、上下関係がドイツよりも厳しい日本では、上の人が休まなければ、部下が休みづらいのは言うまでもありません。それは「遊びのために休む」にしても「病気のために休む」にしても同じことです。

ところでドイツのメルケル首相は、以前休暇先でクロスカントリー中に転倒し骨盤の骨にヒビが入ったことがあります。その後、数週間は主要なところにだけ顔を出し、多くの予定をキャンセルしました。でも国民からそれに関するバッシングの声はありませんでした。もしも日本で似たようなことが起きたら、休んだ政治家はきっとバッシングを受けるのだろうと想像してしまいます。

日本の学校には「皆勤賞」というものがありますが、これも考えものだと思います。元気なのはよいことではあるのですが、「健康な人が表彰される」というのはヨーロッパの感覚だと違和感があります。もしも、ずっと健康だったのではなく、風邪や病気であるにもかかわらず学校に行った上での皆勤賞であれば、それはさらに問題なのではないでしょうか。「皆勤賞」に見る「どんな時でも、休まないのは偉い」といった価値観が、今回の中目黒の事故のような悲劇を招いたのだとしたら、考えなおす時期にきているのかもしれません。