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ドイツのDIY企業のCMはなぜ炎上したのか

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
Hornbach社のYoutubeチャネルより

日本でCMや広告が差別的だと話題になり炎上することがしばしばあります。そのたびに、「日本では、企業側のジェンダーの平等に関する意識がまだまだ低い」などの批判の声が挙がります。でも企業がときに差別問題に疎いのは何も日本に限った話ではなく、海外の企業でもそういった問題は見られます。今回は、ドイツのDIY企業「HORNBACH AG」がアジア女性を差別的に描く動画を流し問題になっています。「白人」それも「一部の白人男性」の視点しか取り入れず、東洋人女性を明らかに見下した内容の動画を流したことで、ドイツでも本当の意味での多様性への道のりはまだまだ遠いことがわかります。

 問題となったのは、以下のオリジナル動画です。

登場するのは庭仕事で汗をかいている5人の白人男性です。庭仕事の後、彼らの汚れた下着は真空パックされます。日本人とも思われる女性(動画ではわずかですが、「春の匂い」と「日本語」が映りこんでいます)が真空パックをあけた瞬間に、下着のにおいに魅せられ恍惚とした表情を浮かべています。そしてそこにはドイツ語で”So riecht das Frühjahr” (和訳「春の香り」)とのテロップが……。肉体労働をした白人男性の下着のにおいが果たして春の香りかという疑問はいったん置いておくとして、ドイツで育った筆者はこの動画を見て「21世紀になった今もアジア人蔑視の風潮がドイツに確かに残っている」という事実を突きつけられ悲しい気持になりました。

 この動画BGMには女性の喘ぎ声を思わせるものも使われており、動画のラストで女性は白目を剥いており、性的絶頂を思わせるような表情をしているのです。

 ドイツを含む欧州では今でも一部でアジア人蔑視が残っていますが、その中でも「女性」に対する偏見には深刻なものがあります。

 では、どういう内容のものがあるのかというと、「東洋人の女性は、白人男性であるならば誰でも喜んで受け入れる」という偏見があります。この「受け入れる」には性的な要素が含まれており、いうまでもなく(一部の)白人男性側にとって都合の良い考えに基づいています。

 その結果、ドイツに住む東洋人女性が、真面目な仕事をしているにもかかわらず、勘違いした白人男性から性的な嫌がらせを受けるという状況が起きています。たとえばドイツで足ツボなどのマッサージをしている中国人女性は、そのマッサージが性的なものを含まない、あくまでも健康維持のためのものであるにもかかわらず、定期的にドイツ語で卑猥な内容の電話がかかってくるといいます。

 筆者自身に関しては、仕事で以前かかわりのあったドイツ人男性から「君の事はドイツ人女性として扱えばいい?それとも日本人女性として扱えばいい?」と聞かれましたが、質問の意図がはっきりせず、その時、ある種の気持ち悪さを感じました。後にその発言には性的な要素が含まれていると分かりました。

 冒頭のHORNBACH AG動画についても、一部の白人男性の「東洋人女性には、こうであってほしい」という妄想の上で成り立っており、そこに東洋系女性の主体性のようなものはまったく見えてきません。ツイッターでは現在#Ich_wurde_geHORNBACHt (直訳「私はホルンバッハされた」)というハッシュタグのもと抗議の声が挙がっており、この動画を停止すべく署名活動に発展しているにもかかわらず、HORNBACH AGは「下着フェチであるというアジア人男性に対する固定概念が存在しているが、我が社の動画では逆に男性が消費される側であり、女性を主体的に描いているので問題ありません」と説明していて、同社が反省している様子は伺えません。

 女性の使用済み下着を購入する日本人男性のことはかつてドイツを含む海外でも広く報じられていました。上記のコメントを読むと分かるように、HORNBCH AGはそういった背景に感化されて動画を作ったようです。ところが、これは残念ながら「よくありがち」ではあるのですが、同社は数々の苦情に対して、個別に対応をせず「我が社には、性別、年齢を問わず、様々なルーツで様々な宗教の社員、身体に障害のある社員も在籍しており、当社は差別を支持していません」というその会社に関する一般の説明をしています。しかし、いうまでもありませんが、その会社にいかに多様な人材が在籍していようとも、その多様性が生かされていなければ、今回のような動画が世に出てしまうわけです。

 筆者は、こういった動画が、欧米の国々で東洋人女性への性的嫌がらせをさらに誘発してしまうのではないかと懸念しています。

非難の声が続いていることに対して、同社は文書の中で「個人的に傷ついている方々に関しては」("Wenn Menschen sich persönlich verletzt  fühlen")という書き方をしていますが、この書き方ではまるで動画を見て傷ついた東洋人のほうに問題があるかのようなニュアンスです。同社は署名活動を主導した人物に対して、「対話」を持ちかけましたが、それは「329日の3時までに同社に連絡をしなければならない」という期限つきのものでした。これに対し、当事者は私たちアジア人は、呼んだら、すぐに駆けつけてくれるファーストフードの出前ではないとし、オファーは受け入れず引き続き動画の削除を求めています。

現在ドイツのTagesspiegelBerliner Zeitung、さらに英国のGuardianなどがこの問題について報じていますが、動画は現段階(3月31日現在)ではまだ削除されていません。今後、同社が誠意のある対応をするのを待ちたいと思う一方で、ここ数日の同社の強気な対応を見ると、なかなか削除してくれないような気もします。ただ日本人女性を含む東洋系女性はヨーロッパでマイノリティーである上に、ロビー活動が弱いので、今回のように、気付いた人から声を上げ、根気強く抗議を続けていくことが大事だと思います。

日本よりも多様性を重視していると思われがちな欧州でも、多様性を無視するような風潮が「確かに存在する」ということが今回の騒動で浮き彫りになっています。

 このグローバル化している世の中で、(一部の)白人男性の「感覚」のみを重要視し、東洋人女性の気持ちに全く配慮しない「制作」は明らかに時代の流れに逆行しているといわざるを得ません。