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気軽に語れるようになった「生理」について改めて考えてみる

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:

日本では最近、公の場やメディアで「生理」について語られることが多くなりました。その一方で生理の扱いについて、日本ではまだまだ課題も残っています。今回は海外の生理用品の税率にも触れながら、生理の問題について考えてみます。

#NoBagForMeプロジェクトの意味

日本のコンビニなどの店では、女性が生理用品を買う際に、店員さんが中身が見えないように生理用品を紙袋に包むことをマニュアル化していることが多いです。そこで女性が「紙袋はいりません」という選択肢を持つことを提案しているのが、2019年6月にユニ・チャーム株式会社が自社の生理用品ブランドを通してスタートさせた#NoBagForMeプロジェクトです。マスコミでも多く取り上げられ、話題になりました。

筆者はドイツで育ったこともあり、昔からレジでは「紙袋はいらないです」と言っていたのですが、それは「生理は恥ずかしくない」という気持ちからだけではなく、「包む時間がもったいない」「包装は環境に良くない」という思いもありました。どういう角度から見ても、生理用品をわざわざ袋に包むことの意味が分からなかったというのが正直なところでしたので、ユニチャームのプロジェクトについて聞いた時「やっと、こういう流れになってきたのだ」と嬉しくなりました。ただ同時に「紙袋は必要ないです」と言うためにプロジェクトまで必要なのだろうか、と当初は疑問に思っていました。しかし、よく考えてみると、日本では女性の生理は長年恥ずかしいものとして扱われてきたので、このテーマについてオープンに語れる社会にするためには、「プロジェクト」という後押しが必要だったのかもしれません。

災害後の避難所の生理にまつわる劣悪な状況

なぜそのような後押しが必要だったのかというと、生理は多くの人が経験している「日常」であるにもかかわらず、「生理を当たり前のこととして受け止める」配慮が社会に欠けていると同時に、一部の人に関しては生理に関する知識も欠けているからです。ここ数年、災害などの非常時にその事実が浮き彫りになっています。

たとえば、2011年3月に起きた東日本大震災や2016年4月に起きた熊本地震の後の避難所では、女性に対して「生理用ナプキンの個包装が『一人一つずつ』支給される」という、生理を理解しているとは言い難い配布の仕方が一部でされたことが話題になりました。いうまでもなく、生理期間中をずっとナプキン一個で過ごすのは不可能ですし、そもそも経血の量は人によって様々で個人差があるため、予めルールとして「一人につき何個まで」と数を決めてしまえるものではありません。しかし、避難所を仕切っているのは男性が多かったこともあり、そのような事実は埋もれてしまいました。避難所では途中で生理用品が途中で足りなくなっても、そのことを言い出しにくい雰囲気があったといいます。

「持って帰れ」は国際的には通用しない?!

今年6月に行われた大阪のG20サミットの際には、全ての鉄道会社ではないものの、いくつかの鉄道会社がテロ予防のために都内の駅からゴミ箱を撤去する中で、生理用品を捨てるサニタリーボックスも併せて撤去してしまいました。しかし、サミットが行われているからといって、女性には通常通り生理がやってきます。イギリス人女性が池袋の駅を例にサニタリーボックスが撤去されたことにツイッター上で疑問を発したところ、代替案がまったく提示されない状態でサニタリーボックスが撤去されたことに、世間では非難の声が上がりました。その際、鉄道会社の決定権のあるポジションにいる男性やテロ対策に詳しい専門家の男性が「サニタリーボックスを撤去することで、そこまで反発があるとは盲点だった」と語ったことで、彼らは、サニタリーボックスの撤去を考える際に「生理中の女性が使用済みの生理用品をどうすればよいのか」、つまり代替案を全く考えていなかったことが明らかになりました。

この騒動を受けて、テロ対策の専門家は「今後、東京オリンピックの時など、夏の暑い時期のサニタリーボックスの扱いは考えなければいけない問題」としながらも、「もしサニタリーボックスを撤去する場合は、においが漏れない袋を鉄道会社や組織委員会が配布するなどの工夫が必要」と語ったことに筆者はビックリ仰天しました。これでは「女性はバッグにその袋を入れて持ち運びをしろ」といっているも同然です。

テロの危険性を過小評価してはいけないこともわかるのですが、この「においが漏れない袋をあげるから使用済みの汚れた生理用品は女性が自分で持ち帰ってくださいね」といういわば“メッセージ”に、女性として心底バカにされた気持ちになりました。筆者は仕事の一環で荷物検査のあるところ、例えば裁判所に行くこともよくあるのですが、そんな時、入り口の荷物検査の際に、自分のカバンの中から使用済みの生理用品が入った袋が出てくることを想像しただけで冷や汗が出てきます。

日本では、生理用品に限らず、普段から催しの際など「ゴミは各自持って帰りましょう」というアナウンスが流れることがあります。「自分のゴミは、現場で捨てず、各自自分で持ち帰る」というスタイルが日本では浸透しており「お行儀がよいこと」とされています。ただ、意外に思われるかもしれませんが、ドイツを含むヨーロッパにはそもそもこの「ゴミを持って帰る」という感覚は「無い」のです。なるべくエコな生き方をしよう、ゴミがなるべく出ないようにしよう、という動きは盛んであるものの、出かけた先で出たゴミに関しては「すぐにその場で捨てたい」と考える人がほとんどです。もしもオリンピックの際に、都内のトイレからサニタリーボックスが撤去され、代わりに「においがもれない袋」が用意された場合、少なくとも欧米人女性からは反発を招くでしょう。全てのトイレにサニタリーボックスを用意できないのなら、せめて「事前にサニタリーボックスのあるトイレの案内をする」という配慮をしたほうがよさそうです。

ところで、近年、ヨーロッパではゴミの出ない「生理カップ」を使用する女性が多く、そもそも生理関連のゴミは昔ほど出ていません。ただし、どういった生理用品を使うかは、女性の自由ですので、サニタリーボックスを用意したほうがよいのは言うまでもありません。

いずれにしても、オリンピックなど国際的なイベントの際に「女性は、使用済みの生理用品を袋に入れて持ち歩けばよいではないか」というような案を解決案だと見なすのだとすれば、「おもてなし」の概念からは遠く離れたところにいると言わざるを得ません。

【生理用品は軽減税率の対象外】ドイツもまだまだ男性社会

では海外の生理にまつわる状況はどうかというと、筆者の出身のドイツでは、店員さんが生理用品を紙袋に包むことはありませんし、生理についてオープンな雰囲気です。その一方で、生理用品にかかる税金はとても高いのです。ドイツでは赤キャビア、トリュフ、切り花、書籍や絵画は軽減税率の対象となっているため税率が7%であるにもかかわらず、生理用品は軽減税率の対象となっておらず、19%の税金がかけられています。このことを皮肉り、ドイツでは「ザ・タンポンブック」という名の、「いっけん本に見えるけれど実際の中身はタンポン」だという商品が発売されました。つまり本来は19%の税率で販売しなければいけないはずの生理用品を、表向きは書籍とすることで、7%の税率で販売をしたというわけです。皮肉たっぷりのジョークとしてドイツではかなり話題になりました。ただ、生理用品が軽減税率の対象となっていないことにはドイツ全土で怒りの声が上がっており、10月上旬には19%の税率に反対する署名180,000件が財務大臣のオーラフ・ショルツ氏のもとに届けられました。これを受け、ショルツ氏は10月5日付のツイッターで、「来年2020年1月1日から生理用品が軽減税率の対象となるよう努力する」という旨のツイートをしました。

世界各国の生理用品の税率

意外なことに、スウエーデンでも生理用品は税率が25%と高く、他のヨーロッパの国々に関しても、ハンガリーは27%ですし、生理用品は多くの女性の日用品であるにもかかわらず、高い税率の国が多いのが現状です。

@Statista_com

上記のグラフ通り、生理用品が完全に非課税なのは、オーストラリア、インドやケニアなど世界で13か国のみです。そんな中でも2018年9月にはスコットランドで女子生徒に無料で生理用品が配られたことが話題になるなど、所々で小さな進歩は見られますが、世界全体をみると「まだまだ」だというのが現状です。日本でも生理用品は軽減税率の対象外ですが、ニッポンも含め世界で「生理用品が税金の面でも必需品だとして認められたとき」に初めて生理が本当の意味で市民権を得るのかもしれません。