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キム・カーダシアンが起こした「Kimono」ブランドの波紋

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 
米タレントのキム・カーダシアンさん(写真)が矯正下着のブランドを立ち上げ、「キモノ」と名付けたことに対し、日本のソーシャルメディアで抗議の声が広がっている。(2019年 ロイター/ Vanessa Beecroft)

先月6月25日に米国人女優でインフルエンサーのキム・カーダシアンさんが自身が立ち上げたシェイプウエア(補正下着)ブランドをTwitterで紹介し、ブランド名がKimonoであることを発表したと同時に、同氏がこのKimonoというネーミングについて商標登録の出願を行っていたことがわかり、波紋が広がりました。

商標登録されてしまえば、ニッポンの伝統的な着物を外国で販売する際に問題が起きるのではないかという懸念はもとより、「下着ブランドとしてのKimono」が世界に広まると、将来的に外国人がKimonoという言葉を聞いた時に「ニッポンの伝統ある民族衣装」ではなく、「キム・カーダシアンの下着」を思い浮かべてしまう可能性がある、と心配の声があがっていました。Twitterでは #KimOhNo のハッシュタグのもと同ブランドのネーミングに反対する意見が多数見られ、署名サイトchange.orgでは「着物は日本の文化。キム・カーダシアン・ウェストの"KIMONO"商標登録にNo! KimOhNoという名のもと署名活動が行われ現在13万人以上が署名をしています。

結果的に、キム・カーダシアンさんは、「慎重に考えた結果、下着ブランドは新しい名前で立ちあげます」というコメントを発表しました。新しいブランド名は7月2日朝6時現在まだ発表されていませんが、今回このKimono騒動について振り返ってみたいと思います。

Kimonoという名前は「文化の盗用」だという声

着物は日本の伝統的な民族衣装であり、着物が「祖母から孫に受け継がれること」も珍しくありません。品質がよく世代を越えて長く着られるものですが、もしキム・カーダシアンさんの下着ブランドがKimonoの名のもと世界に広く浸透してしまえば、今後、たとえば日本人女性が外国人との会話の中で「着物を祖母からいただいたの」と話した時に、相手の外国人から「この女性は祖母から下着をもらったのだ」と勘違いされてしまう可能性がありました。あまり考えたくないことですが、極論をいうと、そういうことになりかねない状況だったのです。

キム・カーダシアンさんが自身の補正下着ブランドに当初Kimonoという名前をつけた背景はよくわかっていませんが、一説には自身のファーストネームがKimであることからKimonoになったのではないかという説もあります。しかしたとえそうだとしても、多くの人から反対の声が上がる前に、日本の伝統ある着物のことを考慮しなかったのは、「異文化に対して無関心」だったといわざるを得ません。

キム・カーダシアンさんは以前、コーンロウと呼ばれるビーズの入った編み込みスタイルの髪型をした自身の姿をSNSで披露した際に、「ボー・デレク風の髪型にしてみたの」と投稿し物議を醸した過去があります。キム・カーダシアンが書いたボー・デレクとは白人の女優で、かつて70年代に「10」(テン)という映画の中で、この編みこみスタイルを披露しています。しかし元々この髪型に関しては、それよりも先に多くの黒人がしていたという背景があり、アメリカではこの髪型が「黒人文化」であるという共通認識があります。そのため、もともとは黒人がやっていた髪型を、あたかも上記の白人女優が発祥の髪型であるかのような書き方をしたキム・カーダシアンさんに対してアメリカでは「文化の盗用だ」という声が多くあがりました。

また今年4月にキム・カーダシアンさんは夫と教会に行く際に額に宝石入りのヘッドピースをつけましたが、これはもともとインドの結婚式の際に新婦が額につける伝統的なアクセサリーである(女性は結婚式の際に初めてこのヘッドピースをつけるのが伝統)ため、キム・カーダシアンさんが「ファッション性」のみを重視し、インドの文化に配慮しなかったことに対して批判の声が上がっていました。

この一連の流れを見てみると、今回のKimono騒動に関しても「ファッションやおしゃれには興味があるけど、他の国の文化のことを深く知ろうとしない」姿勢が騒動の原点だといえるでしょう。

外国語に対するリスペクトの問題

キム・カーダシアンさんが着物とは関係ないもの(それは補正下着)にKimonoという名前をつけていることを初めて聞いたとき、筆者は英国ブランドの「Superdry極度乾燥(しなさい)」を思い出してしまいました。英国のファッションブランドですが、なんでもブランドを立ち上げたイギリス人が東京に来た際に「インスピレーション」を受け、このような名前に至ったのだといいます。ただし、いうまでもなく「極度乾燥(しなさい)」というネーミングは日本語がわかる人にとっては意味不明です。ブランドの名前に日本語を使うのならば、なぜ日本語がわかる人に予め相談をしなかったのか疑問に思うところですが、そこは以前のアリアナ・グランデさんのタトゥー騒動の時のように、「正確な意味よりも、とにかくエキゾチックに見える『日本語』を使いたい」という気持ちが勝ってしまったのだと想像します。

誤解を与えるような言葉の使い方といえば、日本でもかつていわゆる性風俗店が「トルコ風呂」と呼ばれ、日本在住のトルコ人は自分の国の名前が性風俗店の名称として使われていることに困惑していました。その後、日本に留学していたトルコ人留学生が1984年に厚生大臣に「トルコ風呂の名称変更」を直訴するという具体的な動きがありました。これがメディアでも話題になり、その後この名称は使われなくなったので、「声をあげ行動する」ことがいかに大事なのかが分かります。

伝統ある着物に「国際的な要素」も取り入れて楽しむ

キム・カーダシアン氏のKimono騒動の少し前には、銀座の着物店が「ハーフの子が産みたい方に。」「ナンパしてくる人は減る。ナンパしてくる人の年収は上がる」などと書かれたポスターを過去に作っていたことが話題になっており、「着物」について、たて続けに残念なニュースが続いた印象です。

そんなところへ先日のG20の際には各国の文化を象徴する柄の着物を着ようというプロジェクトがあり、これは明るい話題でした。筆者の出身のドイツに関しては、近代ドイツを代表するバウハウスと伝統的なクラシック音楽を融合した「伝統と近代」の両方を表現した柄となっています。「外国の要素」を着物のような日本の伝統的なものの中に取り入れる場合、このように「国際理解」をベースとしたものだと多くの人に喜ばれます。

世界に愛される町・京都の市長が声を上げた

キム・カーダシアン氏が自身の補正下着Kimonoブランドについて公表して以来、インターネットでは「日本の政治家も抗議すべきだ」との声がありましたが、6月28日には京都府京都市長の門川大作氏がキム・カーダシアン氏に対して「あなたの商標として『kimono(きもの)』という名称を使う決断を再検討するようお願いしたい」と手紙を送っています。

手紙で、着物は日本の伝統的な民族衣装と文化であるということ、近年多くの外国人観光客も着物を着て京都の町を歩いていること、着物が世界の人に愛されていることを伝えています。その上で、「KIMONO」「きもの」「着物」の名称は全ての人々の共有財産なのでキム・カーダシアン氏が私的に独占すべきものではないという考えを示し、手紙の最後では、キム・カーダシアン氏にもぜひ京都を訪れて着物文化に触れてみてほしいと締めくくっています。

騒動を受けて、当初は「ニューヨークタイムズ」で「日本の文化における着物の重要性を理解しており深い尊敬を持っている」としながらも、Kimonoというブランド名を変更する意思はないことをで語っていたキム・カーダシアンさんですが、7月に入ってからは「ブランド名をKimonoから別の名前に変更する」と発表しており、このことで一歩前進したといえるかもしれません。どんな名前になるのかが注目されます。それにしても、いまさらながらキム・カーダシアンのこの下着ブランドの写真を今一度真剣に見てみれば……ヒップもバストも「ヒュッと上に持ち上げる」タイプの「グラマー」に見せる下着で、実際に日本人が着物を着る際の下着とは「逆」(着物の着付けの際は、どちらかというと胸の存在を目立たなくし凸凹をなくす)をいっているのは、ある意味、皮肉でした。