複雑な手法で回答者の「本音」探る
日本はG7の中で唯一、国レベルで同性婚や婚姻と同等の権利を保障するパートナーシップ制度を導入していない。また、世界で唯一、結婚したら夫婦同姓を義務づけている国でもある。
調査によると、日本人の同性婚を認めることについて47.2%が「非常に賛成」(18.6%)か「どちらかといえば賛成」(28.6%)であり、15.8%が「非常に反対」(6.8%)」か「どちらかといえば反対」(9.0%)、「賛成でも反対でもない」は36.9%だった。「非常に賛成」「どちらかといえば賛成」が「反対」「どちらかといえば反対」の3倍近くに達している。
一方で、国会議員と企業の社外取締役にどのような人が望ましいと思うかをたずねた時に、同性カップルの人が支持されるかどうかについても調べた。
この調査では、「次の衆議院(参議院)選挙に出てほしい候補」として、以下の六つの「属性」を質問するアプローチを取った。
質問では、六つの属性をランダムに組み合わせて「候補者像」を二つ作り、二者択一形式でどちらかを選ばせる。選択肢を変更して同じ設問を計10回繰り返し、すべての調査対象者から得られたそれらの回答を集計、分析する。
手法が複雑なのは、統計学的にはそうすることでより回答者の「本音」(世論)に迫ることができるからだ。
それぞれの属性について、回答者が全く気にしなければ50%になるのだが、同性カップルの人を国会議員に選ぶのは45%、社外取締役に選ぶのは43.5%となり、支持が下がる傾向が見られた。同性婚には賛成である人が多いものの、性的少数者が重要な公職につくことに対してはまだ差別意識が残っていることがわかる。
なお、同性カップルの人を国会議員に選ぶのは、男性回答者のほうが37.6%とより支持が低く、女性は50.6%だった。また、70歳以上の回答者は同性カップルの人を国会議員に選ぶのは31.1%と支持が低く、若い回答者では高くなる。18、19歳が58.9%、20~24歳が60.5%、25~29歳は56.5%だった。
また、どういう条件で世論は動くのかを探るために、異なる前提条件をつけて質問を作り、回答も比較した。
同性婚をめぐる質問では「日本社会では、結婚は異性同士の間のものというのが伝統です」「同性婚が認められれば、同性カップルによる子育てもしやすくなり、少子化問題の改善につながる可能性があり、日本社会にとって有益な効果が期待できます」「人権やジェンダー平等の観点から、同性婚を認めないのは不公正です」などといった前提となる説明(計7種類)をランダムに回答者に割り振り、何の説明もないグループと比較して、同性婚に対する姿勢にどのような違いが出るかを調べた。
その結果、「人権やジェンダー平等の観点から、同性婚を認めないのは不公正です」という前提条件をつけた時に、最も同性婚への支持が増えることがわかった。
「選択的夫婦別姓」政府調査の設問変更を検証 すると賛成意見が減少
さらに、選択的夫婦別姓についても調べ、設問の仕方を2通りにしてたずねた。
政府の調査で、2017年までと2021年では選択的夫婦別姓制度に関する質問の項目や聞き方を変更した結果、2017年の前回調査で過去最高の42.5%だった選択的夫婦別姓制度への賛成者は、過去最低の28.9%にとどまった。
そこでジャパンバロメーターでも、2017年までの設問方式と、2021年の設問方式でそれぞれ聞いた。
2021年の内閣府調査では、選択的夫婦別姓への賛否を聞く前に、これまでにない「資料」が添付され、それを読んだうえで答えるようになっていた。
「資料」には、二つの表が載っている。
一つは「夫婦の名字・姓に関する参考資料」というもので、現在の夫婦同姓制度と、選択的夫婦別姓制度と、旧姓の通称使用についての法制度をそれぞれ説明している。
もう一つの表は選択肢についての説明で、横軸では「夫婦同姓制度を維持」と「選択的夫婦別姓制度の導入」に分け、縦軸では「旧姓の通称使用についての法制度を設ける必要」について「ない」と「ある」に分ける内容だ。
そのうえで、2021年は「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」の三つから選ぶ。
一方、2017年までの設問は「現在は、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならないことになっていますが……」と現行制度と、選択的夫婦別姓の制度を説明したうえで「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」の三つから選ぶ。
その結果、2021年方式では、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」が30%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」が39%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」が30%となった。
一方、2017年方式では、「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」が23%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」が57%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」が19%だった。つまり、選択的夫婦別姓を選んだ人が57%で最も多かった。
2021年方式については、2017年までと違う質問の仕方となり、しかもそれが通称使用への支持を増やすよう誘導するものであったと批判された。この調査の結果は、同じ時にランダムに2017年方式と2021年方式を回答者に割り当てても、2021年方式の結果のほうが通称使用への支持が高くなることを示している。つまり、2021年方式の結果を引用して、通称使用への支持のほうが選択的夫婦別姓への法改正より支持が高いという議論には注意しなければならない。
さらに、選択的夫婦別姓についても、どのような条件で世論が動くのかを探るために前提条件をつけてたずねた。
「日本社会では、結婚すれば夫婦が同じ名字を名乗るというのが伝統です」「日本社会では、夫婦が別々の名字を名乗る伝統があり、近代化前の日本で姓を持っていた人の間でも、明治時代初期の日本でも、結婚後の夫婦別姓が普通でした」「結婚後に姓を変えるのは大部分が女性であり、これは女性の社会での活躍の阻害要因になっており、日本社会にとっての損失につながります」「結婚後に夫婦が別々の名字を名乗ることになれば、家族の絆が弱まり、子供にも悪影響があり、日本社会にとっての損失につながります」など8種類の前提条件をつけたうえで、賛成か反対かたずねた。
すると、「結婚後に夫婦が別々の名字を名乗ることになれば、家族の絆が弱まり、子供にも悪影響があり、日本社会にとっての損失につながります」という前提条件の時が、もっとも反対のほうに動くことがわかった。選択的夫婦別姓の反対派が「家族の絆が弱まる」と主張しているが、それが反対派を増やすのに効果的だということが裏付けられた。
世論調査への回答は、質問の仕方や前提条件の付け方で変わるということが調査結果からうかがえる。「どういうふうに聞くか」が非常にカギを握るということだ。世論調査の結果を見るときには、どのような聞き方をしているかにも注目することが重要だ。
ジャパンバロメーターの次回は、安全保障について取り上げる。