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台湾の同性婚めぐり割れる世論 住民投票に注目集まる

虹色台湾 更新日: 公開日:
台北市内で開かれたLGBTパレードに参加した女性ふたり。同性婚を認める民法改正を支持すると語った=西本秀撮影

このコラムの「虹色台湾」というタイトルは、多様な文化や、重層的な歴史が詰まった島を、七色の虹に例えたものだ。連載を始める前に、念のため、この言葉でネット検索をしてみると、「にじいろ台湾」というブログがあるのに気付いた。

作者はMaeさんという、台北在住6年になる30代の日本人男性だった。男性を恋愛対象とするMaeさんが、LGBTが直面する問題について、日本での経験や台湾での暮らしを交えてつづった日記だった。虹色は、LGBTの人たちがその存在や尊厳を訴える運動において、シンボルとなる色でもある。そのMaeさんに先日、出会う機会があった。

LGBTパレードに参加した台北在住の日本人男性、Maeさん=西本秀撮影

10月27日に台北市内で開かれたLGBTパレード。アジア最大と称される毎年恒例のイベントに、今年は13万人以上(主催者発表)が参加した。総統府前の目抜き通りを歩行者天国にして、LGBT当事者だけではなく、地域の学校単位や職場単位、日本や米国など世界各地からの参加者もいて、お祭りとして定着している。

Maeさんもこの日、台湾の島の形を虹色に染めた小旗を手にして、友人らと大通りを歩いた。日本では、自らがゲイであることを周囲に隠して生活していたが、台湾に来たばかりのころ初めてパレードに参加して、「自分は自分のままでいい」と実感することができたという。

記念撮影をするLGBTパレードの参加者たち=西本秀撮影

今では、現地で働く広告デザイン会社の同僚たちにも、自身のことを公表している。台湾人のパートナーもでき、幸せを感じている。そのMaeさんが今注目しているのが、11月24日に実施される住民投票だ。

台湾では昨年5月、憲法裁判所に相当する司法院大法官会議が、同性婚を認めないことを「違憲」とする判断を示し、2年以内の法整備を促した。だが、1年半近くが過ぎても蔡英文総統率いる民進党政権は動けずにいる。支持基盤の一つであるキリスト教会などが反対しているためだ。

現地の統一地方選と併せて行われる住民投票で賛否が問われる案件は10件あり、そのうち5件が同性婚に関わる投票だ。賛成派や慎重派それぞれが署名を集めて、各自の主張に沿った設問で実施を請求したため、乱立する結果となった。

LGBTパレードに参加した住民投票の宣伝カー。5件の投票のうち、同性婚賛成派の投票に「同意」を、慎重派の投票に「不同意」をするよう呼びかけている=西本秀撮影

同性婚をめぐる5件の投票のうち、賛成派が請求した2件は、同性婚を民法で保障することへの賛否▽同性愛を含めた性教育を小学校から行うことへの賛否を問うものだ。発起人の苗博雅さん(31)は、「決断できない政権の背中を、住民の声で押したい」と語る。

教会関係者ら慎重派の3件の投票は、民法の婚姻以外の形式で同性婚を規定することへの賛否▽民法の婚姻を男女に限ることへの賛否などを問う。運動を率いる游信義さん(46)は「民法上の家族は子供をつくる男女に限るべきだ」と主張している。

民法改正に反対の立場の游信義さん(左)。婚姻は「男女に限るべき」と訴えている=西本秀撮影

投票はテーマごとに「同意」「不同意」を選ぶ。世論調査では、若い世代を中心に同性婚を支持する声が多いものの、全体では民法を改正するか、特別法で対応するか、意見は割れている。

先月のLGBTパレードでは、賛成派が提案した2件の投票には「同意」に印を付け、慎重派や反対派が提案した3件は「不同意」とするよう、宣伝カーで呼びかけた。日本人であるMaeさんに投票権はないが、パートナーとの将来の「結婚」も意識しており、民法に基づく同性婚の位置づけを期待しているという。

投票の結果、賛成票が反対票を上回り、かつ有権者数の4分の1以上であれば、政権の判断を拘束することになる。ただ、投票の乱立で、それぞれの設問の違いが分かりにくくなっており、有権者が混乱する可能性も指摘されている。

LGBTパレードに参加したキリスト教徒という若者たちは、「婚姻の平等(同性婚)を支持します」と訴えた=西本秀撮影

10件の投票のうち、同性婚以外の5件も、台湾社会において敏感なテーマだ。2件は日本にも関係している。

台湾は、2011年に日本で起きた福島第一原発の事故に伴い、福島など5県産の食品輸入を禁止している。その規制措置を継続させることへの賛否を問う住民投票がそのひとつだ。

野党の国民党が提案したもので、輸入解禁に前向きな与党に対抗する狙いがある。

もうひとつは、台湾が2020年東京五輪に、「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台湾」名義で参加申請することへの賛否を問う投票だ。呼びかけ人の台湾の陸上選手で、銅メダリストの紀政さん(74)は、「かつて『台湾』として参加した時代もあった。再び『台湾』として出場したい」と訴える。

2020年東京五輪に「台湾」名義で参加申請する住民投票を呼びかけた、陸上選手の紀政さん=西本秀撮影

一方で、台湾を自国の一部と見なす中国側は、五輪参加名義をめぐる投票請求を「台湾独立派の動き」と反発している。投票結果によっては中台関係の新たな火種になる可能性もある。

今回の台湾メシ

温暖な台湾も11月に入って、朝晩は涼しくなってきた。夏場はかき氷など冷たいデザートを売っていたお店で、紅豆湯(ぜんざい)など温かな品を出すようになっている。朝日新聞台北支局の近くにあるスイーツ店「阿鴻豆花」(長安東路二段214号)では最近、サツマイモの甘いスープ「地瓜湯」(45元台湾㌦、約160円)の提供を始めたことを知らせる看板が掲げられた。柔らかく煮込まれた黄金色のサツマイモがほんのり甘く、心も体も温まる品だ。

サツマイモを煮込んだ、ほんのり甘い「地瓜湯」=西本秀撮影
「地瓜湯」の販売開始を伝えるお知らせを掲げたスイーツ店=西本秀撮影