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ゲイの恋愛に不寛容な国で恋に落ちた二人 LGBT差別に消えぬ不安

アジアの恋
タクマさんとアルさん
タクマさんとアルさん

映画のような出会い

タクマさんは29才。大学を卒業後、シンガポールに移住し、大手の外資金融会社で働くゲイのエリートサラリーマンだ。恋人は同い年のマレー系シンガポール人のアルさん(29)。シンガポールには、「刑法377A」という男性同士の性行為を禁じる法律がある。近年は国際社会の批判を受けて逮捕者が出ることはなくなったものの、20年ほど前までは警察がおとり捜査をして摘発をしたこともあった悪名高い法律だ。先進国でありながら、こうした法律が現存するシンガポールで恋人たちはどう出会い、関係をはぐくんでいるのか。タクマさんの恋は「映画みたいに」始まったという。

――彼と会ったのは2016年の年末、ZoukOutというアジア最大の音楽フェスでした。踊り場で人混みにひっかかって出られなくなっている人がいるのを見つけて、手をつないでぐっと引っ張り出してあげたんです。初対面の印象は……実は酔っ払っていてあまり覚えていない(笑)。彼はマレー系なのですが、ガタイがよくてかっこいいな、と思ったことだけは覚えています。その場で連絡先を交換したものの、その後は会うこともなかった。でもある朝、地下鉄の駅の改札ですれ違って、お互い「あっ」って気がついて。映画みたいな出逢いですよね。それから遊ぶようになって、3カ月後に正式に付き合いはじめました。ゲイのコミュニティでは、出会い系アプリから気軽に恋が始まることが多いし、誰かと付き合い始めてもカジュアルに複数の人たちと会い続ける人も多い。でも彼はある日、プレゼントを持って来て「僕だけの彼氏になってくれますか」って言ってくれたんです。「僕はもう公式につきあってるつもりだったよ」って返事をしました。それからもう1年以上。こんなに真剣につきあった人は彼が初めてです。彼の前ではどんな部分をさらけ出しても好きでいてくれるという安心感があります。

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シンガポールで開かれるLGBTの啓発イベント『ピンクドット』。タクマさんたちも何度も参加したが、昨年から外国人の参加は禁じられた。会場内には参加者が祈りを込めて願いを書くコーナーも。『愛は愛』『人間として見られたい』といった言葉が飾られていた=守真弓撮影

タクマさんが自身はゲイだと気がついたのはインターナショナルスクールに通っていた小学生のとき。友人との会話がきっかけだったという。

――自分がゲイだと気がついた瞬間のことはとても良く覚えています。小学4年生の時、ある友人から「君は男の子を『彼女』として好きなの?」って聞かれて、「うん。僕は男の子を『彼女』として好きだ」と答えた。そう答えた後で、そうか、自分は恋愛対象として男の子が好きなんだとわかった。後でその友人もゲイだったと知りました。その後、高校生の時に女性とつきあったこともあるけれど、どう進んでいいかわからなかった。女性のことは可愛いとか優しいとかは思うけど、恋愛対象としての好きとは違うと思って別れました。大学2年の時、初めてできた恋人は、友達を通じて知り合った男の子。身近にゲイの人がいなかったのですぐに「この人しかいない」と思ってつきあいましたが、シンガポールに留学する際に、お別れしました。

両親は受け止めてくれた

高校生までインターナショナルスクールに通い、大学は日本の大学へ。その間、2年間、シンガポールに留学した。シンガポールでゲイの友人たちに出会い、カミングアウトする勇気をもらったという。

――留学した当初は、勉強に精いっぱいで恋愛のことを考えている余裕もなかったのですが、帰国前に少し余裕ができて、ゲイの友達もできました。当時、シンガポールでは「ピンクドット」という性的少数者(LGBT)への理解を広げるためのイベントが始まったばかりだったのですが、同級生の1人がそのプロモーションビデオにゲイの当事者として出演したんです。日本よりもさらにゲイに対して厳しい環境の中で、同い年の学生が堂々と公の場でカミングアウトしたことに感動して、感化された。それが一つのきっかけとなって日本に帰国した後にまず母に、そして父にもカミングアウトしました。

母親は「2歳の時からわかっていたよ」とすんなりと受け止めてくれました。小さい時からバービー人形やセーラームーンが大好きだったのを見て気がついていたようです。父親はうれしくはなさそうでしたが、受け入れてくれています。そのとき以来、誰に対してもオープンにしています。意味もなくゲイだと触れ回ることはありませんが、特に隠すこともありません。

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今年7月21日に開かれたピンクドットの一幕。LGBTの人々への連帯を示しピンクの服を身につけて参加する陽気なイベントだ=守真弓撮影

一方、マレー系のシンガポール人でイスラム教徒の恋人アルさんは、勤務先のアート系企業ではゲイを公言していても、家族には伝えていない。

――ムスリムもやはり宗教的な理由から同性愛への嫌悪感が強く、彼は今後も父親にはカミングアウトしないつもりだと言っています。そうなると私の家族には彼を紹介できるけど、彼は私を家族に紹介できない。表面上、ただの友達でいつづけるのは自分たちの関係を深く築くことの障害になるのではないかと思うことがあります。

イスラム教徒とつきあうのは初めてですが、大好きなトンカツを含めて、豚肉を食べられないというのは辛くはあっても耐えられる。そういうことは乗り越えられるのですが、やはり家族としての関係が築けないことが一番の悩みです。彼といると、私の住むマンションの警備員さんが、嫌悪感いっぱいの目線を向けてくることもある。日本でも「孫の顔が見られない」とか「気持ち悪い」とかいう理由で、LGBTの人を嫌う人がいますが、シンガポールでは逆に、そういう嫌悪感に宗教と法律が裏付けを与えてしまっているように見えます。LGBTについて無知の人が「気持ち悪い」と思うことは多少、仕方ないのかもしれないと思いますが、だからこそ本来は、メディアや行政がもっとポジティブなイメージの当事者を取り上げ、カミングアウトする人をサポートしてほしいと思います。

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ピンクドットの目玉は最後に参加者が懐中電灯で作るメッセージ。今年は同性愛行為を禁じる法律の改正を念頭にWe Are Ready(準備はできている)という一文が灯された=ピンクドット実行委員会提供

シンガポールでゲイとして暮らすということ

タクマさんは大学卒業後、友人も多く、語学力を生かせるシンガポールで働くことを決めた。就職先を選んだ際の基準は、LGBTに優しい会社かどうか。今働く欧米系の会社は、同性パートナーに対しても福利厚生があり、会社が「LGBTの社員を待遇なども含めて差別しない」ことを明確にしている。それでもシンガポール支店で働く700人の社員のうち、ゲイだとカミングアウトしている人は数人だという。

――もちろんみんながカミングアウトしなくていいし、してもいい。個人の選択だと思いますが、社員数に比べてカミングアウトしている人が少なく感じるのは、シンガポールの宗教や社会的環境が影響しているのかもしれません。

今のシンガポールでは刑法違反だからといってみんな、逮捕に怯えたりすることはありません。

でも例えば、結婚制度と住宅政策が密接につながったシンガポールでは、結婚していない人は安価な団地の部屋を基本的には35歳になるまで買えない。養子を持つことも、まだ考えたことはないけれど認められない。5年10年つきあった時、関係がどこまで進んでいるのだろうか、と不安はあります。同性愛が法的に禁じられている国では、関係を深めていくことに一つずつ階段がある。異性愛者と同じレベルでの関係を築くことができないのではないか、とちょっと思うこともあります。

シンガポールのように先進国でも、法律ではこうした差別を寛容している国がある。石を投げられて殺されることはないけども、法律でこうした差別が支えられている先進国があるということは日本の人にも知ってほしいです。法律なんて関係ないと思ってもそれは少しずつ人生に影響してくる。じわじわと、そう感じています。

【刑法377A】

「公的、または私的に、他の男性といかなる甚だしいわいせつ行為を行う、そのような行為を教唆する、他の男性によるそのような行為をあっせんする、またはあっせんしようとする男性は2年以下の禁錮に処す」などと定めた法律。英植民地の多くに制定され、旧宗主国の英国がこの法を撤廃した後も、シンガポールやマレーシアなどに残る。