――なぜ、ジャパンバロメーターを始めようと着想されたのでしょうか。
今、社会科学のなかで地域研究そのものが衰えています。とはいえ中国研究は発展していますが、日本離れは著しい。2019年には北米アジア学会で「日本研究の死」というタイトルのセッションが開かれたことがあるほどです。
そのなかで、日本をテーマに大規模な調査実験をすることで、いろいろな展開ができると思いました。日本研究に注目を集め、若手研究者の育成にもなると考えたのです。
――他の世論調査と比べて何が違うのでしょう。
まずは調査対象が8千人と、非常に大規模なことです。そして、どういう設問をすれば人々の意見が「動く」のかについて着目している点です。ここが「実験」と銘打っているゆえんです。
たとえば、1回目の調査では「ジェンダーと政治」をテーマとし、同性婚の賛否についてたずねました。このとき、前提条件として「日本社会では、結婚は異性同士の間のものというのが伝統です」「日本社会では、同性同士の恋愛関係は中世から戦国時代以来寛容に認められてきた伝統があります」というような、歴史や伝統について正反対な方向に意見が動くような設問にしたり、あるいは「人権やジェンダー平等の観点から、同性婚を認めないのは不公正です」と人権について説明をした後に賛否をたずねたら、どんな影響が回答に出るのかを調べました。このような前提条件を8種類作っています。この前提条件はランダムに出現します。
――一般的に世論調査は、中立的な設問をするために気をつけますが、あえて逆のことをするのですね。
そうです。それによって、社会を動かすためにはどのような働きかけが効果的なのかがわかります。私は社会学者として、社会運動を研究テーマとしてきて、日本社会がなかなか変わらないことにとても関心があります。そこで、どうして変わらないのか、そしてどうやったら変わるのかに焦点をあてたいと思ったのです。
そのほかにも、衆院議員の候補として性別や年代、職業といった望ましい属性を聞いていますが、その時に、回答者の性別や年代、時の政権を支持するかどうか、性別や年代、居住地、支持政党などによってどのように変化するかも合わせて調べました。
また、望ましい属性を多くの観点から聞くことで、回答者からより本音に近い答えを引き出すことができます。今後もこのような前提条件や、回答者の性質によってどう変化するかという実験を続けていく予定です。
――今後の調査テーマについてはどういったものを考えていますか?
様々な分野で調査をしたいと思っており、すでに、防衛費増税と台湾有事について調査を終えました。AIや移民などについても調査したいと考えています。いずれは調査テーマを公募することもしてみたいです。