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【三浦まり】「女性の自信」を阻んできた私たちの社会 こうすれば変えられる

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2019年に東京で開かれた「女性政治リーダー養成講座」。三浦まり教授が共同代表を務める「パリテ・アカデミー」が主催した。自身の経験でどんな困難が起き、どんな選択をして結果がどうなったのか。受講者は3人1組で「わたしのストーリー」を発表し合った=山本大輔撮影

【前の記事、もう読みましたか?】ジェンダーギャップ121位から1年 政治を変えるヒントは地方にある

■葛藤を抱え、目指すキャリア

――女性の政治リーダーを増やしていく上で必要な取り組みとして、三浦さん編著の「日本の女性議員 どうすれば増えるのか」では、男女では自信や自尊感情の持ち方に違いがあることを指摘した研究を踏まえ、「女性の自信のなさにも留意をするべきだ」と指摘していました。政治の世界では特に、どんなことが「自信のなさ」につながっているのでしょうか。

もともと女性の方が自信を持ちにくい「社会化」のされ方をしています。男の子は「夢を持とう」「挑戦しよう」と言われることが多い。リスクを取って失敗しても、また学んで挑戦していく。そんな「成長物語」がたくさん用意されています。

女の子は失敗を恐れるように育てられます。なるべく失敗しないようにと、周りが慎重です。また、最終的には結婚することが女性の価値規範として重視されてきました。「異性が自分をどう見るか」によって自分の価値が決まると思ったら、自分自身のことを好きになりづらいですよね。女の子は、そうした型にはめられて育っていく傾向がある。育つ過程で社会から受け取るメッセージが男の子と女の子とでは全く違います。

さらに女性が「男性領域」と言われてきた政治の世界を目指すとなったら、本当に大変です。現実には「おじさん」が多いという実態がある。女性に深く関わる政策であれば、女性議員も「このことは自分しか言えない」「自分が一番知っている」と、自信のなさを突破し、積極的に発言できます。しかし、財政、金融、外交、安全保障といった分野で発言しようとすると、相当勉強しない限り自信を持って発言しにくい。

そうした経験が積み重なり、女性は男性よりも自分に自信を持ちにくい傾向にあります。成功しても自己評価が低いために、世間を欺いているのではないかと思ってしまう「インポスター(詐欺師)症候群」にかかってしまうこともあります。女性たちはそうした葛藤を抱えてキャリアを目指しています。

■「それ、私が5分前に言いました」

三浦まり・上智大教授

――私(筆者)自身も組織の中で、テーマによっては気軽に口出しをしにくいと感じる場面があります。女性として生きてきた中で感じてきたことや、自分の生活体験から発する話題は言いやすい。それ自体は良いことですが、テーマによっては発言をするときにものすごく勇気がいるのは、政治の世界と似ている部分があるかもしれません。

専門性を磨くしかないですよね。軍事や金融のことを女性が言うと、「女なのにわかるか」と最初から値引きして見られる。議論をしていれば、いくらでも突っ込み所があります。自信がないと、「やっぱり自分はだめなんだ」と過剰に思ってしまう。そうならないためには、これまで男性領域と言われている分野でも、専門性を持つしかない。専門性に自信が持てるようになれば、例えいい加減なことを言われても論破できるようになります。

会議などで女性が何かを発言した直後には誰も「いいね」と言わなかったのに、5分後に同じ事を男性が言ったらみんなが「いいね」と言う――。そういう経験を身を持ってしてきた女性はとても多いと思います。「私が5分前に言ったじゃん」と思うと、歯がゆいですよね。

でも、「自分が言ったことは正しかったし、認められるんだ」と自信につなげていくこともできます。その場では釈然としなくても、経験を積み重ねていくにつれて、「それ、私が5分前に言いましたよ」と言い返せるようになる。

女性が従順な「女の子」として育てられる間に欠落した自信を埋める作業は、男性よりも必要だと思います。女性には自信を持ちにくいような声かけを社会が許容してきたことで作られてしまった意識を、今度は逆回転させなければならない。それは、いつから始めても遅いことはないと思います。ほめる、自分を好きになる、自分がありのままの自分を受け止められるようにする。そうなると、他の女性もがんばっていると認められるようになる。そうした逆回転を起こすための声かけを、社会として意識的に取り組むことが必要だと思います。

いま多くの女性議員が、「女性領域」でがんばっていますね。ジェンダー政策にしても、少子化対策にしても、「女性領域」と言われる政策がいまメインストリームになっているわけですね。アジェンダが女性化したいま、大きなチャンスが到来していると思います。そのうえで「男性領域」と言われる分野にも女性が入っていくことが、次のステップになると思います。

■見落とされてきた政策とは

――そもそも、これまで女性議員が少なかったことで見落とされてきた政策には、どんなものがあるのでしょうか。

意思決定層に女性がいたらもっと変わっていた政策は色々とあると思います。性暴力の防止に関する政策の遅れは、女性議員の比率と関連があると言われています。ここ20年くらい、海外ではジェンダー平等を進めるため、色んな法改正をしています。日本は、そうした法制度が諸外国と比べて足りていない、と言えます。

例えば、性加害に関する刑法は改正されようとしていますが、性被害者の救済法はない。性差別禁止法やジェンダー平等の教育基本法のようなものはない。日本だけ見ていると男女共同参画社会基本法があり、男女雇用機会均等法でセクハラ防止が強まったりしていますが、国際社会で見ると圧倒的に法基盤が弱いんですね。

その理由は、女性議員が少なく、政策のプライオリティーが低くなってしまっているから。ベーシックな女性の権利保障を、ガイドラインでゆるやかな形では広げていますが、法律で差別を禁止するところまではいっていないんです。

――そんな中でも進めてきた女性に関わる政策に、やはり女性議員が関わってきたと言えるのでしょうか。

確実に女性議員の存在があると言えます。選挙となると、公共事業や経済に目が行き、女性に関わる政策は「アジェンダ」になりづらい。そういった政策を進める女性議員たちは、「票にならなくても自分がやらなきゃいけない」と使命感に突き動かされてやっています。自分自身がすごく理不尽な思いをしていたり、直接的な経験がなくても周囲の女性に話を聞く中で想像力を広げていったりする。

一人親家庭や性暴力被害者ら、男性議員には会いづらくても女性議員ならば話しやすいこともある。女性議員たちは話を聞く中で「こんなにも政治が対応していない問題があるんだ」と気づいていく。数は少ないといえども、使命感のある女性議員たちがうまく動くと政策が進んでいきます。

■個人的なことは政治的なこと

――三浦さんが2018年に共同代表となって立ち上げた、女性の政治リーダーシップを養う「パリテ・アカデミー」では、まず参加者が自分自身の「ストーリー」を語ることを大事にされていますよね。自信を持つための、ひとつのアプローチだと感じました。

女性が政治に入りにくい、入ろうとしないのは、「政治が自分のものじゃない」という気がしてしまうから。パリテ・アカデミーでは、そのイメージを転換していきます。

政治家って自己顕示欲が強い人がなるイメージがありますが、そういう人は成功しません。人の話を聞く、声にならない声さえも聞き取るのが本来の政治家という職業。人の悩みに耳を傾け、世話を焼きたい女性たちは実はとても多いのです。それこそが政治家の役割だと思ったら、政治家を目指す女性はもっと増えるはずです。

第2波フェミニズム運動以降「個人的なことは政治的なこと」と言われてきたように、女性が抱える問題のすべてが政治的な問題です。自分と政治の接点を明確に意識することも必要です。パリテ・アカデミーに来る若い女性たちは、性暴力やシングルマザーを取り巻く問題などに強く関心を持っています。これらに日本の女性の生きづらさが結集しているからだと思います。

自分が問題だと思っていること見つめ、政治に参画する動機を深く掘り下げ、人に伝える。その過程で伝わる言葉を探し当てる。こうした他者との対話を通じて、自分自身の動機が確固たるものになり、覚悟が生まれてきます。対話があって初めて、自分が何なのか、社会とどう関わりたいかを発見できるんですね。

みんなの前で伝えるという段階になると、場慣れも必要になってきます。うまくいったり、いかなかったりする。そういう過程をみんなで一緒に体験していきます。失敗したっていい。自分が発した言葉を聞いてくれる仲間が、「ここがよかったよ」と褒めてくれる。練習を重ねると、みんな驚くほど上手になります。

■情報の届け方で、変わる可能性がある

――ジェンダーギャップの是正を考えるとき、価値観の転換を迫られるアクターが色々なレベルでいると感じます。特にいま意思決定層にいる男性の認識を変えていったり、女性や若い人にバトンタッチしたりすることを促していくことも必要ではないか、と思います。

やはり世代交代が必要だと思います。若い世代は価値観もすでに変わっていますが、高齢者で占められた政治は社会の変化に追いついていません。

考えが絶対変わらない人が3割、先進的な人が3割いたとして、真ん中の4割をどこまで説得できるかと考えるのがいいかと思います。両極では場合によっては会話が成立しない可能性もありますが、そこにエネルギーを注ぐよりも、真ん中の人たちに時代の変化を伝えることに注力した方が生産的ではないでしょうか。

その時に重要になるのが、情報の届け方です。「クオータ制」がどれくらい日本社会に受け入れられているか、7千人を対象にモニター調査をしたことがあります。クオータ制を法的に導入することについて、7、8割が賛成でした。しかし、自民党支持の男性で見ると、賛成は5割ほど。わかりやすい形で政党支持との関係が出ました。

面白かったのは、「世界130カ国近くでクオータ制を導入している」という情報を伝えたグループと、伝えないグループにわけると、伝えたグループでは賛成が上がるんですね。日本のジェンダーギャップ指数のランキングの低さだけを伝えても賛否は変わらないのですが、「130カ国近くでやっている」という情報入れると、日本のランキングの低さと法制度がないこととが結びついて、クオータの賛成に転じるんです。

ネガティブな情報だけではなく、他国ではこんな形で変えているという情報を伝えていくことで、「日本もやれば変わる」とポジティブに思える。情報を届けることで態度が変わる層がいる。語りかけていくべきはそこの層だと思います。

■政治が変わる意味

――経団連は企業の役員に占める女性の割合を2030年までに30%以上にする目標を掲げました。色々なアクターが変わろうとしている中ですが、政治の世界が変わる意味を教えてください。

ひとつは、女性がリーダーになれるという大きなメッセージを社会に発信することができることです。もうひとつは、政治は法律を作るところですから、そこに女性の意思を反映できることです。今回経済界が自主的に2030年までに30%という目標を掲げましたが、海外には法律で割合を定めているところもあります。より早く結果を出すためには法律が有効です。

女性が効力のある法律を作り、社会の変化をより早く促すことができる。その意味は大きいと思います。