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「意識を持つロボットを開発」 石黒浩氏が考える究極の未来 大阪・関西万博で体感

World Now 更新日: 公開日:
石黒浩と自身のジェミノイド「HI-6]=2025年6月14日午後3時30分、大阪市夢洲の大阪・関西万博会場
石黒浩と自身のジェミノイド「HI-6」=2025年6月14日午後3時30分、大阪市夢洲の大阪・関西万博会場、坪谷英紀撮影

大阪大学教授の石黒浩氏は自分と外見がそっくりなロボット「ジェミノイド」を開発。 タレントのマツコ・デラックスさんのジェミノイド「マツコロイド」もよく知られています。 そんな石黒氏が考えるロボットとは?人間との関係は? 石黒氏がプロデュースする大阪・関西万博のパビリオンを訪れ、記者が石黒氏に取材しました。 さらに、ロボット開発が進むにつれて浮かび上がってくる倫理的な問題についても専門家に聞きました。

技術の進歩でロボットがどんどん人間に近づいていく。人と見分けがつかないくらい精巧なロボット「アンドロイド」が登場したら、社会はどう変わるのか。

ロボットに自分の記憶を引き継ぎ、身代わりに

ロボット学者で大阪大学教授の石黒浩氏は現在開催中の大阪・関西万博で自らがプロデュースするパビリオンで、人間とロボットとが共生する社会を表現した。

パビリオンに入ると、ある小部屋に通される。2075年に暮らす7歳の少女カナと祖母が電車に乗っている姿がスクリーンに映し出される。

カナ「そこの席に座っている人いるでしょ、あの人アンドロイドだよ」

祖母「全然わからなかった」

カナ「友だちのおじいちゃんも、アンドロイドに記憶を引き継げるようになったって」

祖母「すごい世の中になったもんだねえ……」

その後、祖母は死期が迫る。寿命をまっとうするのか、アンドロイドに記憶を引き継ぐのかの選択を迫られる。祖母がつぶやく。「アンドロイドの私は、私なのかしら?」

石黒氏は、人間と自身の身代わりとなるロボット「アバター」がともに生きる社会が近い未来にやってくると想定している。職場に行かなくてもアバターが仕事をしてくれる。アバターは自身が行うよりも効率よく、質の高い仕事をする。さらに指示がなくても、操作者の意図をくみ取り自律的に活動するようになる。そうすれば、身体や空間、時間の制約を受けずに、だれもが自由自在に活躍できる社会がやってくるという。

そんな社会の到来を目指し、石黒氏は実在の人間とそっくりの外見をしたロボット「ジェミノイド」を開発し、人間らしさとは何かを追求している。石黒氏が自身とそっくりのジェミノイドを作り、より人間に近い動きができるよう改良を重ねている。万博では、タレントのマツコ・デラックスさんのジェミノイド「マツコロイド」がほかのロボットと会話し、未来の世界が表現されている。

シグニチャー・パビリオン「いのちの未来」に登場する、アンドロイドと会話するマツコロイド=大阪市夢洲の大阪・関西万博会場
シグニチャー・パビリオン「いのちの未来」に登場する、アンドロイドと会話するマツコロイド=大阪市夢洲の大阪・関西万博会場、坪谷英紀撮影

石黒氏は「人間とロボットの境界がない社会で、自分だったらどういう選択をするのか、テクノロジーをどう使うのかを考えてほしい」と話す。

石黒氏は、日本発の破壊的イノベーションの創出を目指して政府が進める、ムーンショット型研究開発事業のプロジェクト・マネジャーを務め、アバターの活用法について探ってきた。万博でも、パビリオンの入り口でコンピューターグラフィックによるアバターが来場者に館内を説明する機器の装着を促していた。そのアバターを遠隔操作しているのは障害者や高齢者たちで、場所に縛られない社会参加のあり方についての実験が行われている。

シリコンバレーの若者たちもロボット開発に挑む

さらに、アンドロイドと人が自然なコミュニケーションをとれるようにするための基礎研究も進めている。操作者の音声を分析し、アンドロイドが笑い声や驚きを認識し、それを顔の表情や身ぶりで示すようにする。また、怒ったり、笑ったりする人の映像をアンドロイドに大量に見せて学習させ、対面する人の感情に応じて適切に感情を表現できるように改良を進めてきた。今後は同時に複数の人に応対したり、相手を説得したりと、より複雑なコミュニケーションができるアンドロイドの開発を目指している。

ロボットが人間になり、人権が与えられる

ロボットとの共生社会の先に広がる未来はどのようなものか。パビリオンでは1000年後の社会を体感できる仕掛けも施されている。光の柱と煙の中で3体のアンドロイド「MOMO」が浮遊する、幻想的な世界が表現されている。演出やロボットの動き、衣装はデザイナーらとともに作り上げた。

シグニチャー・パビリオン「いのちの未来」で表現された、1000年後のロボットと人間の社会=大阪市夢洲の大阪・関西万博会場
シグニチャー・パビリオン「いのちの未来」で表現された、1000年後のロボットと人間の社会=大阪市夢洲の大阪・関西万博会場、坪谷英紀撮影

石黒氏がパビリオンで表現したのは、ロボット社会のいきつく先、人類が生身の体から解き放たれる世界だ。そうすれば、100年足らずの生身の人間の寿命をはるかに超え、地球の中に限られていた行動範囲が宇宙へと広がると予想する。脳を完全にコンピューターで置き換えることも、AIに意識を持たせることさえできる日がやってくるという。石黒氏の関心は意識を持つロボットの開発。人間社会に受け入れられるロボットとは何かを突き詰めて実装することだ。

「その時、ロボットは人間になる」と石黒氏はいう。「人間が誤った考えに基づいて指示を出しても、言うことをきかずに正しい行いをするロボットは、もはや人間と同じレベルの存在といえる。その時、ロボットに人権が与えられ、人間とロボットの間に区別がなくなる」

VR世界ではすでに現実化

ロボット倫理学が専門の広島大学助教の岡本慎平氏は「意識をもち苦痛を感じるような、人間と外見上区別がつかないロボットを作ることは、クローン人間を作ることと同じ倫理的な問題が生じる。社会に受け入れる準備ができない限り、作るべきではない」と話す。

ロボット倫理学が専門の広島大学助教の岡本慎平さん=2025年6月、東広島市の広島大学
ロボット倫理学が専門の広島大学助教の岡本慎平さん=2025年6月、東広島市の広島大学、坪谷英紀撮影

そうした世界の到来をみすえ、岡本氏はネット空間に広がるバーチャルリアリティー(VR)の世界を題材に研究を進めている。

ロボット相手でも、やっていいことと悪いことがある

対戦型のオンラインゲームでは、自分が戦っている相手は人間が操作しているのか、AIが操作しているのかもはや区別がつかない。オンラインゲームの世界では、銃で人を殺すことが認められている。現実よりルールが緩い世界であっても、倫理的にやっていいことと、いけないことがあるのだという。例えば対戦ゲームで相手を殺して勝利したときに、遺体に向かって銃を撃ったり、遺体の前で侮辱するように踊ったりすることなどだ。

何は許され、許されないのか、その線引きはどこにあるのか。そうしたことは、国や文化によっても違うという。だが、国境や言葉の壁を越えて世界中の人と対戦するゲームの世界では、一定のコンセンサスを醸成しようとする動きが日々起きているという。

そうしたことを考えるうえで、岡本氏が重要とするのが、「徳倫理」という考え方だ。人に備わる心のあり方に注目して善悪や正しさを論じる倫理学だ。古代ギリシャ哲学を起源とした古くからある考え方だが、ロボットと人間が共生する未来社会にも通じるという。「相手がロボットか人かといったこととは関係なく、人として立派なふるまいをすることが大事だと思うのです」