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コンビニの食品ロス問題 業界の商習慣や会計ルールも要因 廃棄「ゼロ」へ新たな一歩

World Now 更新日: 公開日:
セイコーマートの弁当売り場「ホットシェフ」。専門の調理員が弁当やおにぎりなどを店内でつくり、できたてを提供する。一番の人気はかつ丼だ=札幌市中央区のセイコーマート南7条店
セイコーマートの弁当売り場「ホットシェフ」。専門の調理員が弁当やおにぎりなどを店内でつくり、できたてを提供する。一番の人気はかつ丼だ=札幌市中央区のセイコーマート南7条店

日本の食品ロスは年間472万トン。国民1人あたり毎日おにぎり1個分を捨てている計算だ。これを減らすにはどうすればよいのか。私たちの暮らしに身近なコンビニエンスストアをみると、日本の食品業界が抱える問題点や解決策がみえてくる。

「コンビニ会計」「3分の1ルール」構造が生むロス

コンビニエンスストアに行けば棚に並んだ弁当やおにぎりが欲しい時にいつでも買える。その陰で売れ残った商品が日々廃棄されている。公正取引委員会が2020年に全国のコンビニ1万2093店から回答を得たアンケートによれば、1店舗あたりおにぎりの仕入れ数は1日平均198.6個で、うち廃棄したのは18.9個、3400円分。弁当は仕入れた39.0個のうち5.2個、3200円分を廃棄していた。年間の廃棄ロスの合計は468万円分(中央値)に上った。

社会問題にもなった恵方巻きの大量廃棄などについて取材、発信を続けている、食品ジャーナリストの井出留美さんはコンビニの食品ロスは業界の商習慣や本部と店舗の関係性など、構造上の問題があると指摘する。

食品ジャーナリストの井出留美さん。コンビニで売れ残った恵方巻き大量廃棄問題などを調べて発信している=本人提供
食品ジャーナリストの井出留美さん。コンビニで売れ残った恵方巻き大量廃棄問題などを調べて発信している=本人提供

公取委の報告書によると、全国展開する大手コンビニは売り上げ総利益の4~7割をロイヤルティー(権利使用料)として店が本部に払う。契約ではロイヤルティーの算定に売れ残った弁当などの廃棄ロスが考慮されておらず、本部は店に商品を卸せば卸すほど利益が上がる仕組み(「コンビニ会計」と呼ばれる)になっている。本部は廃棄費用の一部を負担しているものの、販売機会を逃すまいと商品をどんどん発注するよう店側に求めるのだという。

最近は消費期限が近い「見切り品」を値下げしているが、かつては一部の大手コンビニの本部は値下げを快く思わず、店側は本部との関係が悪くなるのを心配して値下げができなかった。このため、恵方巻きのような季節商品で消費期限が短いものは大量に売れ残る事態に陥った。

日本の食品業界には「3分の1ルール」と呼ばれる商習慣がある。メーカーは賞味期間のうち、製造日から3分の1を過ぎた商品は小売りに卸せない。コンビニ各社とも緩和を進めているが、海外に比べると依然厳しい。弁当などの製造業者はコンビニの注文に即応して欠品させないようにするため、実際に必要な分より多くの食材を抱えることになる。余れば廃棄につながる。

井出さんは「いつ行っても商品がある店がいいように見えるが、そのためにはとてつもないコストがかかっている。そのコストは価格に転嫁され消費者が払う。廃棄された食品は自治体のごみ焼却場で燃やされており、そこには税金が使われている。そうした実態を自覚すべきだ」と話す。

材料や流通を自前に 臨機応変に無駄なくすセコマ

セイコーマートに売られている、煮卵とエッグサンド。煮卵用に作った崩れたゆで卵がサンドイッチの具に使われている=札幌市中央区のセイコーマート南7条店
セイコーマートに売られている、煮卵とエッグサンド。煮卵用に作った崩れたゆで卵がサンドイッチの具に使われている=札幌市中央区のセイコーマート南7条店

北海道を中心に約1200店を展開するセコマ(本社・札幌市)は独自のやり方でロスを減らしている。札幌市のセイコーマート南7条店を訪れた。

作りたてが人気のホットシェフのコーナーには、専門の調理員が店内で作ったおにぎりやかつ丼などが並ぶ。天候など状況に合わせて作る数を調整し、売れ残りをできるだけ減らしている。

総菜コーナーでは焼き鳥の近くに「チキンたっぷりペペロンチーノ」が売られていた。焼き鳥の肉をカットして余った肉をペペロンチーノで使い、無駄をなくす。規格外メロンで作られている「北海道メロンソフト」、規格外の「曲がりキュウリ」5本298円も売られていた。

農場、製造工場、流通を自前でそろえることで、それを可能にしている。天候により予想以上に収穫されたり、規格外だったりする自社農場で作った野菜を使った商品を臨機応変に企画し、自社工場で作って販売することで廃棄を減らす。総菜を製造するグループ会社の北燦(ほくさん)食品本社工場(札幌市)を訪れると、煮卵をつくる過程で崩れたゆで卵でエッグサンド用の具材が作られていた。

煮卵用のゆで卵の製造現場。崩れたり、黄身が寄ったゆで卵は、隣のサラダ製造部門で、サンドイッチの具に利用される=札幌市白石区の北燦食品本社工場
煮卵用のゆで卵の製造現場。崩れたり、黄身が寄ったゆで卵は、隣のサラダ製造部門で、サンドイッチの具に利用される=札幌市白石区の北燦食品本社工場

セコマは全国展開の大手コンビニに比べてフランチャイズ店が少なく、8割が直営店だ。店舗のオーナーの高齢化と後継者不足で直営化を進めている。フランチャイズ店でも本社に払う店側のロイヤルティーは粗利益の10%と他に比べて低い。

執行役員の佐々木威知さんは「3分の1ルールもコンビニ会計もセコマにはない。食材を無駄なく使うのは、商品をいかに安く提供するかという発想から生まれた。廃棄されるはずだった食材を別の商品に使えば、廃棄費用と食材費と二重に費用を抑えられる。店舗で廃棄を抑えれば、会社全体の利益に直結する」と話す。

AIで販売数予測 食品ロス「ゼロ」めざすローソン

未来のコンビニはどうあるべきかの模索が続く。ローソンが環境に配慮した店づくりを目指した実験店「グリーンローソン」(東京都豊島区)を訪れた。ローソンは2050年までに食品ロス「ゼロ」を目指している。

店には商品の棚への補充や、弁当や総菜などを店内調理する店員1人しかいない。会計はすべてセルフレジで、関西の自宅からリモートワークでアバター店員が対応する。商品は他店に比べて冷凍食品が多く、実験商品も置かれている。東京都内10店舗で販売する、とんかつサンドなどの冷凍調理パンが売られていた(11月で販売終了)。ふつう調理パンの消費期限は2日ほどだが、冷凍は賞味期限が3カ月と長く廃棄を減らせる。これまでも冷凍のおにぎりや弁当などを販売してきた。売れ行きや客の評判などの情報をふまえて改良を重ねるという。

バックヤードに置かれた冷凍庫には、人気商品「からあげクン」が入っていた。消費期限が近い商品を凍らせて期限を延ばし、子ども食堂などに無償で提供している。からあげクンは子ども食堂で「かつ煮」や「酢鶏」などに再利用されている。

東京都内の10店舗で売られた、冷凍調理パン。表示通りに電子レンジで温めると、作りたてのようなおいしさだった=東京都豊島区のグリーンローソン
東京都内の10店舗で売られた、冷凍調理パン。表示通りに電子レンジで温めると、作りたてのようなおいしさだった=東京都豊島区のグリーンローソン

食品廃棄を減らすために、ローソンが特に力を入れているのがAIを使って弁当やおにぎりなどを発注するシステムだ。今年7月までに全店舗に導入した。天候や過去の販売実績、立地などが似た店舗の売れ行きなどのデータを加味し、最適な発注数を各店に示す。それをもとに、店側が発注数を決める。商品が売れ残らないようにするため、どのタイミングで値引きしたらよいかも示す。

昨年度、ローソンの食品と店内調理の揚げ物に使った油の廃棄量は、1店舗あたり1日平均10.2キロ。コロナ禍収束後に微増している。

SDGs推進室長の鈴木一十三さんは「目標の達成にはリデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再生利用)があるが、とくにリデュースをやっていく。適正発注や見切り品の値引きをすすめ、(消費期限の近い商品から購入してもらう)『てまえどり』などお客様の協力も得ながら削減を目指す」と話す。