国連環境計画(UNEP)の最新の報告によると、2022年に世界で捨てられた食品は10億5000万トンに上る。一方、WFPは、2023年に飢餓に直面した人を最大約7億5700万人と推計。11人に1人が該当する。
食べ物が捨てられる場面は大きく二つに分かれる。
一つは生産や加工、流通過程で生じるもので「Food Loss」、もう一つは小売りや飲食店、家庭で生じるもので「Food Waste」と呼ばれる。前者は規格外や適切な温度管理ができないため、後者は賞味期限切れや作りすぎ、食べ残しが原因だ。WFPによると、途上国ではLossが、先進国ではWasteが多くなる傾向があり、それぞれの場面で廃棄を減らすことで、「食べ物は足りているのに、行き渡っていない」という課題を解決する必要がある。
10年で170万トン減
日本政府はLoss(生産現場の廃棄は含まない)とWasteを合わせ、「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品」と定義した「食品ロス」の数値を公表しており、2022年度は472万トン。日々、1人当たり約103グラム、おにぎり1個を捨てている計算になる。食品ロスは2012年度に643万トンだったので、着実に減らしており、UNEPの報告でも取り組みが称賛されている。そうはいっても、472万トンは、飢餓に苦しむ人々に対する2022年のWFPの食料支援量(480万トン)に匹敵する量だ。
「普段から食べ残さない」「食材は使い切る」という人もいるだろう。では、できることはないのだろうか。472万トンの内訳は「家庭系」と、製造や小売り、外食の「事業系」が半分ずつ。事業系はメーカーやスーパーに任せていれば良いわけではない。バナナに傷や汚れがあって生産現場や流通過程ではじかれるのは、「これでは消費者は買ってくれない」という判断を、事業者側が下しているからだ。
「見た目」へのこだわり
実際、日本バナナ輸入組合のアンケートで、バナナを買う基準(複数回答可)を見ると、「安さ」が約39%、次いで「見た目のきれいさ」が約35%となっている。消費者が変わらない限り、おいしく食べられるのに「規格外」として廃棄される現実も変わらない。産地の労働力や肥料、水などの資源も無駄になる。
消費期限や賞味期限についても、イギリスの大手スーパーでは見直しが進み、生鮮品などの期限表示を取りやめる動きがある。アメリカなどには善意で寄付した食品によって食中毒などが起きても、寄付者の責任を問わない「善(よ)きサマリア人の法」があり、フードバンクなどの活動を後押ししている。
まだ食べられるのに捨てられた食品をゴミ箱から拾う「Dumpster Diving」を実践するニューヨークのフリーガン、賞味期限切れの商品や規格外の青果を売るドイツの廃棄品専門スーパーは、「大量のロスを組み込んだ私たちの社会システム」を浮き彫りにする。システムは、見えにくく、複雑で強固だが、不変ではない。
日本は多くの食料を輸入に依存している。燃料価格の高騰や円安は食品の値上がりに直結し、価格据え置きだが減量、といったニュースにも事欠かない。今年はコメまで「不足」する事態に至った。飽食の時代は過ぎ去ろうとしている。おにぎり1個の重みは増している。