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バナナの食べ頃はいつ?熟成加工の老舗タナカバナナ6代目社長が明かす究極のロス対策

World Now 更新日: 公開日:
食べ頃になったバナナを持つ田中齊太郎社長
食べ頃になったバナナを持つ田中齊太郎社長=2024年10月11日、東京都中央区銀座1丁目、中川竜児撮影

日本で流通しているバナナのほぼ100%が輸入もの。フィリピンなどの産地から船便で日本に到着したバナナはまだ青いままだ。ここから「熟成加工」を経て、見慣れた黄色いバナナになる。熟成加工の老舗、タナカバナナ(本社・三重)の田中齊太郎社長(41)に同社のフードロス削減対策、食べ頃バナナの見分け方などを教えてもらった。

まず熟成加工について簡単に知っておこう。

室(むろ)と呼ばれる部屋で、産地の気候を再現し、バナナを熟成させる工程だ。タナカバナナは他社ブランドの熟成加工も手がけており、同社によると、国内シェアは2位。すべての消費者が、タナカバナナの熟成加工を経たバナナを口にしている計算になるという。

タナカバナナ横浜支店には複数の室がある。青果部を担当する長井健取締役(41)によると、フィリピン、エクアドルといった産地別、品種なども勘案し、バナナをグループ分けする。6人の職人が「バナナと会話する」をモットーに、温度などを細かく変える。「酒蔵でお米からお酒を仕込むようなイメージ」という。

室で数日過ごした後、バナナはまた出発。同社は仙台、横浜、三重に熟成加工のための室を保有しており、この3拠点から仕分けセンターを経て、各市場のスーパーなどに配送される。室を出て数日後、「食べ頃の少し前に、店頭に並ぶよう計算しています」と長井取締役。

熟成加工の前後で出るロスは2回ある。

1回目は港から到着した後の検品で、輸送途中で劣化したり、深い傷がついたりしたものをはねる。いわば「やむを得ないロス」で、これらの一部は肥料に回るが、廃棄されるものが多いという。

2回目は、タナカバナナが自社ブランドとして販売するバナナを選別・パッキングする際の検品。大きな房から必要量にカットし、袋詰めする。その過程で、①果肉に達するような傷があるもの、②果皮に傷や汚れがあるが中身は問題ないもの、をより分ける。①は主に家畜のえさに、②は主にジュースなどの加工用に仕上げる。

訪れた日には配送業者が②のバナナが詰まった10箱(1箱13キロ)を引き取りに来ていた。都内で営業する飲食店が隠し味として使っているという。ただ、②についても、その日に引き取り手がない場合は家畜用に回るという。

タナカバナナの横浜支店で、ハンドと呼ばれる状態の大きな房からバナナを切り分ける人たち
タナカバナナの横浜支店で、ハンドと呼ばれる状態の大きな房からバナナを切り分ける人たち=2024年10月8日、横浜市磯子区、中川竜児撮影

田中社長とのやり取りは次の通り。

――スーパーに並ぶまで細かく計算して熟成させているとは知りませんでした。

私たちの仕事は「バナナはどれも一緒でしょ」「たかがバナナでしょ」という先入観との闘いです。一番おいしいタイミングで食べてもらえれば、おいしさの違いは必ず分かっていただけると思っています。

――そのタイミングとは具体的にいつですか。

両端にまだ緑色が残るバナナを買って帰るとします。季節によりますが、基本的には常温で保存してもらっていいです。両端が黄色になります。タナカバナナのバナナはその時が最高においしいです。黒いシュガースポットを待つ必要はありません。

――シュガースポットが出てから、というアドバイスも聞きます。

出る前の方が甘みと酸味のバランス、食感が良いんです。もちろん好みの差もあると思いますが、タナカバナナとしては一番の食べ頃はそこです、とお伝えしています。そのタイミングを過ぎると、バナナの香りが落ちていき、ただ甘いだけの糖のかたまりに変化していきます。

私たちは、お住まいの場所やお客様の状況などを勘案して熟成しています。「明日の朝が一番おいしくなるタイミングで、家族が食べる分だけ買おう」と思ってもらえるようにしたいんです。それこそがフードロス対策になると思っています。

――どういうことでしょうか。

日本のスーパーに並ぶバナナは、袋に4、5本入っています。例えば2、3人の家族でもこれを買う人が多い。それって、「明日食べても、明後日食べてもおいしさは変わらないから、まとめて買っとこう」ということだと思うんです。それで、食べきれない分は冷凍したり、もしかすると黒くなるまで放っておいて捨てられたりするのかも知れない。

お餅やお蕎麦なら、「これがおいしい」と職人が言ったタイミングで急いで食べるのがいいですよね。バナナも実は同じなのです。あまり知られていないので、結果的にバナナはある程度はまとめ買いでいいと思われている。そうではなく、本当においしいタイミングで食べたいから、2人家族なら2本、3人なら3本、明日の朝の分だけ買おう、と思ってもらうようにすることが私たちの務めだと思うんです。おいしいバナナを届けること、食べ頃を知ってもらうこと、それが究極のロス対策につながるという考えです。

――スーパーでは1本や2本入りも時折見かけるようになりました。

タナカバナナも1本売りのバナナを出しています。1本売りや2本売りは袋詰めなどのコストもかかるので、どうしても割高になりますが、タナカバナナの個包装バナナ「きぼうばなな」(税込み200円)を食べていただければ、違いは必ず分かっていただけると思います。実際、「バナナはこれしか買わない」という方もいらっしゃるほどです。

――他に、熟成加工の途中で出るロスを減らす対策はありますか。

どうしても捨てざるを得ないロスをうまく活用する方法を研究しています。まだ詳しいことは言えませんが、健康的に摂取していただくような形にできるのではないかと思って研究を進めていて、2025年には販売したいと考えています。

――フードバンクにバナナを提供していると伺いました。

2回目の検品によって出るロスのうち、傷や汚れがあるけど中身に問題のないバナナや、4、5本にそろえた後に出る「端数」となるバナナがあります。それらは定期的に名古屋にあるフードバンクに提供しています。フードバンクに提供される食品は製造してから日数のたった加工品が多いです。タナカバナナのバナナは、熟成加工したてのその日最高においしい状態ですので喜んでいただいているようです。

あとは中身に問題がないバナナに関しては、自社でジュース用として出している分もあります。のどごしなども考えて、生で食べるバナナとは違った特別な熟成加工をしています。

選別・袋詰めの行程ではじかれたバナナ。サイズが小さかったり、果皮にわずかに傷があったりする。業者が引き取りに来ていた。飲食店の隠し味に使われるという
選別・袋詰めの行程ではじかれたバナナ。サイズが小さかったり、果皮にわずかに傷があったりする。業者が引き取りに来ていた。飲食店の隠し味に使われるという=2024年10月8日、横浜市磯子区、中川竜児撮影

――会社として「食糧格差をなくし、飢餓のない世界を実現する」ことを掲げていますね。

私は6代目になるのですが、2015年に就任した時に策定しました。世界の食糧生産量は十分あるけれど、届かない場所がある、ということを知りました。私たちのやっているのは、おいしい食べ物を届けることですから、未来は富の偏在や格差が広がると言われていますが、そんな未来でも食べ物はきちんと届くようにしよう、という思いをビジョンにしました。

――策定のきっかけはあったのでしょうか。

約10年前に見た産地の風景も影響しているかも知れません。フィリピンに行った時に、日本向けのバナナを現地の方が一生懸命磨いているのを見ました。貧しそうでしたけど、笑顔でもあったんですね。なぜ笑顔でやれるかと言うと、バナナ畑には雇用があるからなんです。貿易を通して、世界の食べ物を必要なところに届けることで、生産者も消費者も幸せになっていることを目の当たりにしました。

――オーガニックやフェアトレードのバナナも早くから扱っています。

取り組みは2000年ごろからです。たくさん収穫しようとすると、どうしても畑に負荷がかかって土地がやせていきます。これって、将来分を先取りしているに過ぎないんじゃないか、と思ったのがきっかけです。継続的に収穫をできるようにするためにはどうすれば良いか考え、オーガニックに行き着きました。

オーガニックバナナの熟成加工はとても難しいのですが、タナカバナナのように熟練した職人が仕上げると、オーガニックバナナ特有の芳醇な香りがわき出ます。例えば、「はじめてのばなな」(2本入り、税込み400円 )がありますが、「これだと赤ちゃんが喜んで食べます」という感想をいただくこともあります。

自慢のバナナを使ったジュースを販売している店舗の前に立つ田中齊太郎社長
自慢のバナナを使ったジュースを販売している店舗の前に立つ田中齊太郎社長=2024年10月11日、東京都中央区銀座1丁目、中川竜児撮影