世界中で廃棄される食品の量は毎年14億トンにのぼるが、大半は埋め立て地に送られている。それが腐ると、水や土壌が汚染され、最も強力な温室効果ガスの一つであるメタンが大量に発生する。
しかし、韓国ではそうではない。約20年前に埋め立て地への生ゴミの廃棄を禁止した。韓国では生ゴミの大部分が動物の飼料、肥料、家庭の暖房用燃料に転換されるのだ。
食品の廃棄は気候変動の最大の原因の一つである。メタンだけでなく、食品の生産や輸送に費やされるエネルギーと資源もまた浪費されるからだ。
埋め立て地や焼却場に送られるはずの食品廃棄物の90%を廃棄物にしない韓国のシステムは、世界各地の政府が研究対象にしてきた。中国やデンマークその他の国々の当局者が韓国の施設の視察に来ている。ニューヨーク市は来秋までに、全住民に食品廃棄物と他のゴミとの分別を義務付ける。ニューヨーク市衛生局の広報担当者によると、同市は韓国のシステムを長年にわたって研究してきた。
(世界の)多くの都市が韓国のシステムに相当するプログラムを実施しているが、韓国のように国家規模で実施している国は、仮にあるとしても、きわめて少ない。経費が高くつくからだと、二酸化炭素の排出削減を研究している「Project Drawdown(プロジェクト・ドローダウン、削減計画)」のシニアサイエンティスト(上級科学者)ポール・ウェストは言う。個人や企業は食品廃棄物の処理に少額の経費を支出しているだけだが、韓国の環境省によると、同国はプログラムに年間約6億ドルを投入している。
それでも、ウェストやその他の専門家らは韓国のシステムを見習うべきだと言っている。「韓国の先例は、より大規模な排出削減を可能にする」とウェストは言うのだ。
韓国の食文化の伝統では、食べ残しが出る傾向がある。おおかたの食事では、小皿に入った副菜が数品、場合によっては十数品も添えられる。実際のところ、そうした残り物は長年、すべて地中に埋められていた。
ところが、韓国の山の多い地形では建設できる埋め立て地の数は限られており、住宅地からの距離にも制約がある。政府は1995年、紙とプラスチックのリサイクルを義務化したが、食品廃棄物は他のゴミと一緒に埋められてきた。
都市の食品廃棄物の処理について助言してきた政府機関「ソウル研究所」の研究員キヨン・ユによると、そうした状況を変革するうえで政治的支援になったのは、埋め立て地の悪臭に苦情を申し立てた周辺の住民だったという。煮込みは韓国料理の定番なので、廃棄される食品は水分が多く、そのため分量も増え、悪臭がひどくなる傾向があるのだ。
「すべてがゴミになると、ひどい臭いを放つ」とキヨン・ユは言う。
2005年以降、食品廃棄物を埋め立て地に送るのは違法になった。地方自治体はその処理施設を何百カ所もつくった。消費者、レストラン経営者、トラック運転手らが食品廃棄物を収集し、有用なモノに変換するネットワークを構成している。
ソウル北部のトボン(道峰)区にある人気のランチスポット「チョンノ(鍾路)煮込み村」では、スケトウダラの煮込みとキムチチゲが人気メニューだ。レストランオーナーのイ・ヘヨンは、注文した料理に関係なく、キムチと豆腐、ゆでたもやし、大葉漬けの小皿を出す。
お客は自分でそうした小皿をおかわりできるが、イ・ヘヨンによると、「客は食べる量よりも多くとる」という。「韓国人は、こと食べ物となると、とりすぎて失敗する傾向がある」と付け加えた。
イ・ヘヨンがその代償を払っている。つまり、食品20リットルを廃棄するごとに約2800ウォン(2ドル余り)を払うのだ。食べ残しは厨房(ちゅうぼう)のバケツに終日入れ置かれ、閉店時間になると、イ・ヘヨンはそれを店の外の指定された廃棄物容器に移す。彼は区から買ったステッカーを廃棄物容器に貼り付ける。ステッカーはゴミの処理費用を支払ったことの証明である。
朝になると、区が雇った企業がゴミ箱の中身を空にする。パク・ミュンジュと彼のチームは午前5時に街を走り回りはじめ、廃棄物容器からステッカーをはがし、ゴミをトラックのタンクに放り込む。
彼らは、日曜を除いて毎日働く。「1日あいだを置いたら、膨大な量の廃棄物がたまってしまう」とパクは言っている。
午前11時ごろ、彼らはトボンの処理施設に行き、グチャグチャになった廃棄物をおろすのだ。骨やタネ、貝殻といった破片は手作業で取り除く(トボン区廃棄物処理施設は韓国で最後に残った、この工程が自動化されていない施設の一つである)。廃棄物はベルトコンベヤーで粉砕機まで運ばれ、細かく砕かれる。ポリ袋など細断しにくいものは何であれ、取り除いて焼却する。
その後、廃棄物を焼いて乾燥させる。水分は水処理プラントへと導かれるパイプで運ばれ、その一部は水処理プラントでバイオガスの生成に使われる。残りは浄化され、近くの川に流される。
パクのチームが廃棄物を搬入してから4時間後、処理施設に残った廃棄物は砕かれて最終的な物体になる。泥のようなにおいがする乾いた茶色の粉末だ。同施設の管理者シム・ユンシクによると、この粉末はたんぱく質と繊維質が豊富で、鶏やアヒルの栄養補助餌になり、希望する農場に無料で提供される。
処理施設内では、布や髪に強烈な臭気が付着する。しかし、外ではほとんど気にならない。パイプが建物の中を通っており、空気を化学処理によって浄化した後に排気装置から排出する。
別の施設では処理方法が異なる。ソウル近郊のコヤン(高陽)のバイオガス施設では、年間約7万トンの食品廃棄物が嫌気性消化されている。大きなタンクに最大35日間置かれ、この間にバクテリアが作用して有機物を分解し、主にメタンと二酸化炭素から成るバイオガスを生成する。
バイオガスは地元の公益事業体に売られ、コヤン市にある3千世帯の暖房に使われているという。残った固形物には木くずを混ぜて肥料をつくり、無料で配布される。
研究者らが突き止めたところによると、埋め立て地で腐った食品廃棄物は1トン当たり二酸化炭素800ポンド(360キロ余り)に相当する温室効果ガスを排出する。コヤン・バイオガス施設の技師イ・チャンギの話だと、バイオガスに変換すると温室効果ガスの排出量は半減する。
批評家らは、韓国の(食品廃棄の)プログラムには数々の利点があることを認めながらも、目標の一つが達成されていない点に注目する。人びとに、廃棄する食べ物の量を少なくさせるという目標だ。韓国の環境省のデータによると、同国全土で廃棄される食品の量は長年にわたってほぼ横ばいで推移している。
このシステムには他にも欠陥があった。苦情が各地で出ていたのだ。コヤン市の区域の一つ、トギャンでは処理施設から出る臭気がかつてはひどく、窓を開けたままにしておけなかったと住民たちが言っていた。その施設は、近隣住民の抗議で2018年以降は稼働を停止している。
「施設が稼働停止になったことで、すべての問題が解消した」とトギャンの住民の一人モ・スンユン(68)は言っている。
しかし、韓国全土にある施設の大半は、原則的に置換されつつある埋め立て地とは違って、近隣住民からの深刻な苦情はほとんど寄せられていない。政府当局者は、技術の着実な進歩で、処理の実務がより衛生的かつ効率的になってきていると話していた。(抄訳)
(John Yoon)Ⓒ2023 The New York Times
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