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災害対応を学び合い緊急時には協力 日本も参加するアジアの新たな国際連携のかたち  

World Now 更新日: 公開日:
救助訓練をするA-PADスリランカの捜索救助チーム=2025年2月、スリランカ、筆者撮影
救助訓練をするA-PADスリランカの捜索救助チーム=2025年2月、スリランカ、筆者撮影

突然の災害に備えるのは自国の政府やNPOだけではない。国境を越えた連携で災害に備え、立ち向かおうという動きもある。新たな安全保障でもあり、国際協力の役割も果たしている。

スリランカ最大の都市、コロンボの中心部から車で30~40分ほど行ったところにあるコロナワ地区の「リトルローズ保育園」。ピンクの制服を着た2歳から5歳の子どもたちでにぎやかだ。教室に入るには、子どもたちの身長よりも高い1メートル以上ある階段を上らなければならない。「洪水に備えて床を高くしました」。園長のシャリカ・ペレーラさん(45)は語る。

リトルローズ保育園のペレーラ園長=2025年1月、スリランカ・コロンボ、筆者撮影
リトルローズ保育園のペレーラ園長=2025年1月、スリランカ・コロンボ、筆者撮影

2016年5月と2017年5月にこの地区を襲った洪水は地滑りも引き起こし、スリランカ全土で死者・行方不明者が200人以上にのぼった。「8フィート(約2.4メートル)くらいまで水が押し寄せてきて、椅子も絵本もおもちゃも全て水没し、使えなくなってしまいました」。その後、園は移転。新築した園長の家の一部と、近くのお寺を借りて運営している。

地球温暖化の影響もあり、スリランカでは近年、豪雨やサイクロンによる洪水が頻発している。「昨年もまた洪水が起きたんです」。2016、2017年ほどではなかったが、死者は全土で約20人にのぼった。

3度にわたり園の復興を手助けしたのが、「アジアパシフィックアライアンス(A-PAD)スリランカ」だった。園長は「教室の清掃や片付けをして、教材や子どもたちの制服も支給してくれた。本当に助かりました」と感謝する。A-PADスリランカは、政府とNPO、企業を結び、災害への備えや緊急対応にあたるコーディネーターの役割を果たす。

日本には、政府、NPO、企業を結んで調整し、災害時などの緊急支援にあたるNPO、ジャパン・プラットフォーム(JPF)がある。それをモデルに国境を越えて連携しようというのが目的だ。

JPF創設に関わったピースウィンズ・ジャパンの代表理事、大西健丞(けんすけ)さんらが各国に呼びかけた。「東日本大震災では、各国から救援のNPOが駆けつけた。とてもありがたかったが、混乱し十分機能しなかった面もあった。受け入れ側の窓口や調整役、ふだんからの連携が大事だと痛感した」

2012年に日本、韓国、バングラデシュ、インドネシア、フィリピン、スリランカが参加して発足。2014年からは日本政府が毎年1.5億~4億円を拠出しており、一種の国際援助でもある。会長はバングラデシュの医師が務める。参加国はお互いに災害対応について学びあい、備え、他国の大規模災害時には、協力して出動することもある。

2015年に起きたネパールの地震では日本、スリランカなどのA-PADが支援に赴いた。まだ日本に派遣されたことはないが、大西さんは「いずれ支援されることもあるでしょう」という。

A-PADスリランカのスタッフ。右端がフィルザン・ハシムさん=2025年1月、スリランカ、筆者撮影
A-PADスリランカのスタッフ。右端がフィルザン・ハシムさん=2025年1月、スリランカ、筆者撮影

フィルザン・ハシムさん(60)はスリランカの空軍に21年間勤めた後、人道支援のNPOを経てA-PADスリランカの創設に加わり、代表を務める。スリランカは2004年にスマトラ島沖地震による津波で3万人以上の死者が出るなど大きな被害を受けた。その後、政府に災害管理局(DMC)が設置されたが「政府の力だけでは限界があります」とハシムさん。

A-PADスリランカは政府、企業や大学、地域とふだんから緊密にやりとりし、災害発生時の物資支援や寄付、ボランティアの動員ができるように準備。いったん災害が起きれば、各セクターを調整して水や食料、衛生用品などの生活必需品を用意・配布し、被災地に多くのボランティアを送り出す。

スリランカ有数の企業であるエイトケン・スペンスのサステイナビリティー部門責任者、ロハン・フェルナンドさんは「政府、NPO、企業、大学にはそれぞれの強みがある。協力し合うことで何倍もの力が出せる。気候変動のために洪水や森林火災などの災害が多発しており、我々も社会の一員として役割を果たしたいが、A-PADのおかげで効果的な支援ができる」と語る。たとえば2024年5月の水害では、同社の寄付と運送網で飲料水を購入し、被災地に届けた。

エイトケン・スペンスのロハン・フェルナンドさん(真ん中)とサステナビリティー部門のスタッフ=2025年1月、スリランカ・コロンボ、筆者撮影
エイトケン・スペンスのロハン・フェルナンドさん(真ん中)とサステナビリティー部門のスタッフ=2025年1月、スリランカ・コロンボ、筆者撮影

前バングラデシュ大使の、伊藤直樹ベトナム大使はA-PADについて「日本の市民社会が音頭を取って、各国が連携するすばらしい仕組み。援助する側の目線ではなく、それぞれの国の市民社会が独自に調整役を果たし、政府や企業と連携をして災害に備え、他に類を見ない」と意義を語る。「国境を越えて防災に対応する新しい形の安全保障でもある。もっと参加国が増えるといい」と期待する。