先進的なイタリアの避難所を日本にも 技術者と中小企業経営者が組んだ「ShelterOne」

イタリアの避難所のモデルを、日本に導入しようとしている人たちがいる。
児島功さん(44)は、清水建設で現場の施工管理に携わってきた技術者だ。2023年に社内起業の公募があり、イタリア式の避難所システム事業で応募した。登山家で、震災の被災者支援にも取り組んできた野口健さんの著書「震災が起きた後で死なないために」を読んだことがあった。同書は避難所へのテント村設置を提唱。児島さんも避難所のあり方に関心があった。
最終審査に通った後、能登半島地震の被災地へ昨年3月にボランティアに出かけ、被災者に何が困ったかを聞いた。「トイレだと。断水で使えず、避難所のあった学校の校庭の隅に穴を掘って用を足し、排泄(はいせつ)物を袋に入れて処分したそうで、ショックでした。48時間以内に被災者が生活するのに必要なものが全てそろうイタリア式しかない」。そう確信した。
「資機材は日本でも準備できるし、自分の施工管理の経験が生きる」。シンガポールのベンチャーキャピタルの出資や清水建設からの出資検討もあり、会社「ShelterOne」も3月末に登記予定だ。
児島さんが組むのが水谷嘉浩さん(54)だ。大阪府八尾市の段ボール会社の3代目社長で、東日本大震災をきっかけに、段ボールベッドを開発。手弁当で被災地を回り、2万台以上のベッドを提供し、「避難所・避難生活学会」も立ち上げた。
水谷さんがイタリアの避難所を初めて見たのは2012年のイタリア北部地震のときだった。一緒に避難所の環境改善に取り組む研究者に誘われ、現地を視察。
「その経験が強烈で。とにかく驚いた。避難所が日本と全く違い、家族単位のテントがずらっと並び、トイレ(T)、キッチン(K)、ベッド(B)が完備。ふだんと同じ温かくておいしいものが食べられる」
以来、イタリアに毎年のように出かけて研究を重ね、「TKB」を日本に導入したいと考えてきた。
「ShelterOne」は、TKBのユニットを常備して自治体と契約を結び、災害が起きたら出動する計画だ。起業当初はユニットをレンタル、いずれは自前で開発をめざす。地域のNPOとも連携して、ボランティアの訓練も行う。
今後、長野県伊那市と諏訪市、佐賀県などで実証実験を重ねる予定だ。2人は「統一されたモデルとプロの運用で、発災後48時間以内にTKBを完備したい」と意気込む。災害関連死をゼロにすることをめざす。