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ますます必要になる外国人への災害対策

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外国人にも人気の大阪城=大阪市中央区
外国人にも人気の大阪城=大阪市中央区

6月18日午前8時前、大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震が発生した。インドネシアから家族旅行で来阪し、ホテルにいたアドリ・コサシ(42)は「部屋が箱みたいで、箱の中で揺れているようで怖かった」とふり返る。母国でも地震は経験しているが、こんな揺れは初めて。揺れが収まり、交通機関を利用しようとしたが、鉄道や地下鉄は止まり、タクシーもつかまらなかった。「英語でいいから情報発信してほしい」

2017年の全国の訪日外国人は過去最高の2869万人に達し、政府は20年までに4000万人を目標に掲げる。大阪府も昨年1111万人を記録、この6年で7倍に激増した。道頓堀や大阪城、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンといった大阪市内の名所が特に人気だ。

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外国人にも人気の道頓堀=大阪市中央区

府や大阪市、経済界などでつくる公益財団法人・大阪観光局は地震を受け、府内5000カ所の無料Wi-Fiを認証や時間制限なしで開放した。JR大阪駅と南海難波駅の2カ所にある観光案内所(4言語)や観光用のコールセンター(8言語)でも対応した。観光案内所での地震の問い合わせは震災3日後の6月21日にはなくなり、コールセンターへの訪日外国人による地震の問い合わせも22日にゼロになった。

府と府国際交流財団は、多言語で外国人を支援する府災害時多言語支援センターを初めて設置。普段9言語で対応している通常の相談電話に加え、英語などで24時間受け付ける災害専用電話(9言語、夜間のみ日本語と英語)を設置したものの、同月26日までの問い合わせは計7件。訪日外国人からはなく、多くが地震で止まったガスの復旧方法を尋ねるといった定住外国人からの質問だった。

利用が低調だったのは、そもそもこうした対応があまり知られていなかったことや、建物損壊などの被害が府北部に集中し、訪日外国人が多い大阪市内は交通機関の乱れ以外比較的大きな影響はなかったことが考えられる。

訪日外国人は府内で1人平均3.5泊しており、その半分がホテルに泊まる。府内の宿泊施設に役立ててもらおうと、大阪観光局は3月、事前準備や災害発生時の告知文例(4言語)などを盛り込んだ「外国人旅行者の滞在時における災害時初動対応マニュアル」を配布していた。府ホテル協同組合理事長の脇田克広(67)が運営する大阪市内のビジネスホテルも、多い時で宿泊者の半分が外国人。「我々は小規模の施設が多い。スタッフが少ないと取り扱える言葉の数も少ない。お客さんも自分たちの言葉でコミュニケーションがとれると期待していない。災害が起きたら怖い」と心配する。

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元観光庁長官で大阪観光局理事長の溝畑宏=大阪市中央区

大阪観光局の理事長を務める溝畑宏(58)は、東日本大震災のとき観光庁長官だった。溝畑が心配するのは、災害が起きれば市内への通勤・通学者が帰宅難民になり、住民、帰宅難民、訪日外国人と被災者が市内に集中する事態だ。実は自治体が定める地域防災計画などで、訪日外国人の位置づけはあいまいだ。「訪日外国人について、法制度上の避難の位置づけや、現行制度でどれだけカバーできるのか洗い出していきたい」と言う。

外国出身者も支援する側に

7月の西日本豪雨では、「働き手」として外国人住民が増える自治体が被災地になり、外国出身者が支援する側に回ったところもあった。

7月6日夜、大雨が降るなか、岡山県の総社市役所で警戒に当たっていた人権・まちづくり課主事の譚俊偉(たん・しゅんわい)(44)は、ポルトガル語で、SNSを使って注意を促していた。午後11時半ごろ、市内のアルミ工場が爆発、爆音が広範囲に鳴り響いた。驚いた外国人から「ダムが決壊したのでは」との問い合わせがあった。譚は「災害発生時、正しい情報を伝えることが大事だと思った」とふり返る。

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大雨が原因で爆発したとみられるアルミ工場=7月12日、岡山県総社市

総社市は約6万9000人の人口のうち、約1200人が外国人。市内には自動車関連の部品工場などで働くベトナム人、ブラジル人らが暮らす。ブラジル生まれの譚は、父が中国人、母がイタリア人とスペイン人のハーフ。日系2世の妻とともに1996年に来日。その後日本国籍を取得し、市職員として外国人の対応に当たっている。

市は防災訓練に、10年度から外国人に参加してもらっている。13年度には「外国人防災カード」を英語など6言語で作り、外国人住民に配っていた。持病や飲んでいる薬を記入しておくスペースがあり、「医者はいますか」「気分が悪いです」などと緊急時に使える簡単な日本語が記してある。
災害情報はどうしても日本語での発信が先になってしまう。譚は「できれば日本人と外国人に向け、同じタイミングで情報を流せるようにしたい」と語る。

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岡山県総社市で外国人防災を担当する譚俊偉。後方は支援物資=7月11日、総社市役所

被災者支援のため、直接現場を奔走した外国出身者たちもいた。

総社市で雑貨店を営むフィリピン出身の池田シェルリ(46)は、同郷の女性らと、被災した日本人の家の後片付けをボランティアで手伝った。その後、隣の倉敷市真備町へ。避難所で、妻(41)がフィリピン人のブラジル人男性(42)に困っていることはないか声をかけた。

外国人最多の東京の対策は

定住外国人、訪日外国人ともに日本で最も多い東京都。訪日外国人は昨年約1377万人で、この10年で2.6倍。定住外国人は総人口の約4%を占める約54万人(7月現在)で、この10年で1.4倍に伸びた。

都は06年度から年1回、定住外国人を対象にした防災訓練を開いている。今年1月には世田谷区の駒沢オリンピック公園にある屋内球技場に外国人約270人が集まり、応急救護や担架を使ったけが人の搬送などを体験した。起震車での地震体験が評判だったという。

防災語学ボランティアの育成も進める。都民や都内への通勤通学者が対象で、18歳以上で一定の語学力があれば登録できる。現在、17の外国語に約790人が登録する。年間3種類の研修を受け、防災訓練にも参加。震度6弱以上の地震といった大規模災害が起きたら、都が発信する災害情報の翻訳を始め、都が臨時に設ける外国人相談窓口や市区町村からの要請があれば避難所での通訳をしてもらう。

訪日外国人に災害情報を伝えるため、大規模災害時には、現在216拠点で展開している無料Wi-Fiを登録手続きなしで使えるようにし、都の防災HPへ誘導する。また、浅草や新宿などにある計25基のデジタルサイネージで、NHKのテレビニュースや都が各家庭に配布した防災ブック「東京防災」の英語版や中国語版、韓国語版も見られるようにする。

【関連】「東京防災」多言語対応(東京都防災ホームページ)

外国出身専門家らの考えは

外国人の災害対応でもっとも高い壁になる言葉の問題。どう乗り越えればいいのか。

京都大学防災研究所で災害リスクマネジメントを研究するインド出身のサブハジョティ・サマダール准教授(40)は「ほかの国に比べ日本は災害に対してかなり備えをしている。しかし、ほとんどの情報が日本語」と指摘。災害発生後、メンタル面で外国人を支援することも重要だとして、「政府や住民らがカウンセリングをすれば、とても役に立つ」と言う。

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京都大学防災研究所のサブハジョティ・サマダール准教授=京都府宇治市

スペイン語圏出身者らでつくる団体「ひょうごラテンコミュニティ」(神戸市)代表で日系3世のペルー人・大城ロクサナは、大阪北部地震や西日本豪雨など災害のニュースをすぐにスペイン語に訳し、SNSで発信している。95年の阪神大震災で被災した当時は日本語がほとんど分からず、苦労した経験があるためだ。「ラテンコミュニティ」はJR西日本系の財団から助成を受けてスペイン語の防災パンフレットを作っており、これを全国のスペイン語圏出身者に送り、防災関係の講演もする。

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スペイン語圏出身者向けに作った防災パンフレットを手にする大城ロクサナ=神戸市長田区

大城は「災害が起きると、みんな自分のことで精いっぱいで、外国人に配慮する余裕はない。自分の国の言語で情報発信するのは大切。日本に住む外国人が災害に対応できるようになれば、日本を訪れている同じ国の人にも対応できるようになるはず」と語る。

(文中敬称略)