東日本大震災で4000人近くの死者・行方不明者(関連死含む)が出た宮城県石巻市。昨年11月初旬、曹洞宗通大寺住職の金田諦應さん(64)が2011年に始めた移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」が開かれた。新型コロナの影響で約9カ月ぶりだった。20人余りがコーヒーを飲んだり、マニキュアを塗ってもらったりしていた。自宅を津波で失った鈴木明美さん(60)も金田さんと久々に会えて楽しそうだ。難病を患うが、震災後は「自分より大変な人がいるんだから」と弱音を吐けず苦しんだ。「話を聞いてもらっているだけで楽になった。私も泣きたい時は泣いてもいいんだって」
金田さんは宮城県を中心に各地でカフェを毎月のように開いてきた。「被災者が自然に喜怒哀楽を出せる日常に戻る手助けをしたい」。それが金田さんたちの思いだ。仲間には神主も牧師もカトリックのシスターもいる。だからカフェで布教はしない。共通するのは、死者を弔い、被災者の話に耳を傾け、土地の人々に寄り添って生と死をつないできたという自負だ。
金田さんらの傾聴活動は心のケアに携わる宗教者の資格「臨床宗教師」につながった。宗教者らが東北大学を始め、全国各地の大学で開かれている講座を受講し、資格を取得する。金田さんは16年に発足した全国組織「日本臨床宗教師会」副会長も務める。
上智大グリーフケア研究所長の島薗進さん(72)は震災の翌月に「宗教者災害支援連絡会」を設立し、代表に就任した。仏教やキリスト教、新興宗教が参加。地元の僧侶を中心に始まった「心の相談室」にも様々な宗教が集まり対応にあたった。島薗さんは「心のケアは主に医師や臨床心理士が担っていたが、大惨事に直面して『死にどう向き合うか』というスピリチュアルなところに踏み込まざるをえなくなった」と指摘する。
宗教者による心のケアは、欧米ではキリスト教会が育成する「チャプレン」が、病院などで行うことが多い。イスラム教の国では患者と医師ら「ケアされる側とする側」が同じ教えを共有している。島薗さんは「特定の宗教色が強く出ないようにするのは日本特有のかたちで、米国などでも広がりつつある」という。
日本でそうした宗教の枠を超えた心のケアが広がった背景には、「政教分離」の側面もある。「戦前・戦中の国家神道への反動もあり日本は『信教の自由』に非常にセンシティブだ」。日本宗教連盟と全日本仏教会の理事長を兼務する戸松義晴さん(67)はそう説明する。
東日本大震災でも、憲法の規定を理由にさまざまな問題が起きた。市町村が主催する慰霊式では、参加者全員が寺の檀家(だんか)でもお経は唱えられず献花のみ。火葬場に入ることも許されず、建物の外でお経をあげたこともあった。事前に行政と協定を結んでいない寺が避難所になると、行政からの支援物資を配れないこともあったという。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で不安が増すなか、宗教の役割が注目されつつある。全日本仏教会が「寺院・僧侶に求める役割」について聞くと、これまでは「特になし」という回答が多かったが、昨年8月のアンケートでは「不安な人たちに寄り添う」が3割を超えた。戸松さんは「葬式仏教にとどまらず、日々の生活で必要とされるよう、ふだんから人に寄り添い、信頼関係をつくっておかなければならない」と話す。(渡辺志帆、星野眞三雄)