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「心のケア」元年は阪神・淡路大震災 この26年で見えてきた、心の復興の大切さ

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上智大学グリーフケア研究所の高木慶子・名誉所長=神戸市、星野眞三雄撮影

「日本で『心のケア』という言葉が使われ始めたのは80年代だが、阪神・淡路大震災で急速に広まり、その後は自然災害だけでなく大事故や犯罪が起こるたびに使われている」。精神科医として阪神・淡路大震災に携わった、兵庫県こころのケアセンターの加藤寛センター長(62)はそう説明する。95年6月に日本で初めて「こころのケアセンター」が設立された。その後、阪神をひな型にケアセンターが被災地にでき、東日本大震災や熊本地震でも設立されている。

ただ、「心のケア」といっても当時は試行錯誤の繰り返し。避難所や仮設住宅を回って被災者が求めているものを引き出すことから始めたが、怖い経験をしてトラウマを抱えた人は自分からベラベラ話さない。加藤さんは「当初、我々も気持ちをはき出させることで楽になると思い、被災者にいろいろ聞いてしまった。いきなり根掘り葉掘り聞いてはいけないのは今では常識だ」と振り返る。

「兵庫県こころのケアセンター」の加藤寛センター長=神戸市、星野眞三雄撮影

「心の再生」はどう進むのか。「レジリエンスにはまず生活再建が重要で、コミュニティーや家族の役割を取り戻すことで存在意義を感じられるようになる。ただ表面上、回復しているように見える人もPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱え、別のつらい経験があると一気に噴き出すこともある」という。阪神の被災者が東日本の報道を見て、当時の恐怖を思い出すことも多かった。

兵庫県こころのケアセンターは、大きな災害や事件・事故があると、支援チームを送り出してきた。東日本大震災や熊本地震、海外でもスマトラ沖地震・津波や四川大地震などの支援に取り組んできた。加藤さんは「トラウマの原因には災害以外にも犯罪や戦争、虐待など様々あり、たとえば性犯罪被害者の5割、戦争は2割でPTSDを発症することが知られている。災害は1割程度とされているが、大災害では広域で多数の被災者がいるため大きな問題となる。今後の回復を見守りたい」と話す。

上智大グリーフケア研究所の高木慶子名誉所長(84)は「グリーフ(悲嘆)ケア」という言葉を日本に根づかせた第一人者だ。30年以上にわたり、終末期患者や家族を亡くし心に深い傷を負った数千人に寄り添ってきた。

阪神・淡路大震災では、神戸市の修道院で自らも被災した。ベッドからはじき飛ばされ、そこに戸棚が倒れた。「あのときベッドから落ちていなかったら死んでいた」。生かされたと思い3日後から避難所を回った。

東日本大震災でも発生から毎月通い、被災者に寄り添った。JR福知山線の脱線事故や大阪教育大付属池田小事件などの被害者支援にもあたった。その経験から高木さんは「悲嘆は一人ひとり異なり、回復のプロセスも人によって違う。グリーフケアにマニュアルはなく、とにかく相手の気持ちに寄り添うことが大事だ」と力を込める。

上智大学グリーフケア研究所の高木慶子・名誉所長=神戸市、星野眞三雄撮影

大切な人を失った悲しみは大きいが、子どもの死がどんな死別よりも大きいという。「子どもを亡くした親の喪失感は天災と人災では大きく異なる。人災の場合は怒りが加害者に向かい続ける。怒りはいつまでもおさまらず別の怒りも加わる」と説明する。

10年は「つらい節目」だと感じる。「阪神でも街の復興と心の復興が反比例して苦しんだ人もいた」。さらに、いまは新型コロナの感染拡大で全世界が悲嘆にくれている状態だ。高木さんは言う。「悲しんでいい。人はその悲しみを乗り越える力を持っているのだから」(星野眞三雄)