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女性の婚期をXマスケーキに例えた昔の日本、エイジズムは「利益のため仕組まれた」

World Now 更新日: 公開日:
アップルホワイトさんはエイジズムの専門家として積極的に発言や活動を続けている=2023年9月、東京都内
アップルホワイトさんはエイジズムの専門家として積極的に発言や活動を続けている=2023年9月、東京都内、丹内敦子撮影

――エイジズムについて簡単に教えて下さい。

エイジズムとは年齢による差別や偏見のことだ。私たちは皆、年齢差別主義者で、ある人やあるグループについて、何歳ぐらいかという判断に基づいて決めつける。そして偏見はステレオタイプに基づいている。

つまり、ある集団に属する人は皆同じだと考えることだ。ステレオタイプは愚かで間違っている。特に年齢に関しては、長く生きれば生きるほど、私たちはそれぞれ違ってくるものだ。

8歳の子どもはみんな違うのだが、身体的、発達的、精神的なものをみれば、28歳や48歳の大人同士を比べたときよりも違いは小さい。つまり年齢を重ねるにつれ、年齢がその人について語ることは少なくなる。

それなのに年齢が同じだというだけで、他の人と同じだと考えることは、その人を傷つけることになる。その人が本当はどんな人なのかを知ろうとしないのだから。

――著書「This Chair Rocks:A Manifesto Against Ageism」(邦訳「エイジズムを乗り越える」)を米国で出版して約5年。米国でエイジズムの理解はさらに進みましたか?

多くの変化を感じている。例えば、米国政治で候補者の年齢について、さまざまな議論が交わされているが、どの議論でもエイジズムという言葉が使われる。「バイデンは年を取りすぎている」と言いたい人は、「エイジズムだと分かってはいるが、バイデンは年を取りすぎている」と言うようになった。

1年前よりも多くの人びとがエイジズムの事実を認識し、それに関する(新聞や雑誌などに)見出しが並び、公の場で会話が交わされるようになった。

アジアやインド、ハリウッドなどのエンターテインメント業界での年齢差別についても多くの議論がなされている。年配の女性たちがグループを作って、以前はタブー視されていた更年期障害について語るようにもなった。これらは前向きな兆候だと思う。世界保健機関(WHO)はエイジズム撤廃に向けた世界的キャンペーンを開始した。豪州や欧州、カナダでもエイジズムに対する意識を高めるための政治的キャンペーンが行われている。

――米大統領選が控えているが、重要政策や国際情勢を決定する立場にある政治家の年齢をどう考えますか?

年齢は関係ないと思う。性別も民族性も、ストレートかゲイか、痩せているか太っているか、肌が白いか黒いかも関係ないはずだ。私たちは候補者を、その思想の質や政治的実績、何を成し遂げたかによって判断するべきだ。高齢者はより多くの時間をかけて物事を成し遂げてきたという点では有利だ。

しかし、年を取りすぎていると言うのは良くない。同じ理由で、ゲイだとか、太っているとか、肌が黒いとかいうのもダメだ。それは偏見だ。

アメリカのバイデン大統領
高齢であることが批判を浴びているアメリカのバイデン大統領=2022年4月、ワシントン、朝日新聞社

――米国には定年はなく、履歴書に生年月日を書く欄もありません。その一方、米国社会が若さを重視するのはなぜですか?

米国は若者文化の震源地だと思う。若者を中心に組織されたハリウッドのスターやセレブリティーのシステムがある。あらゆる年齢層の人がSNSを使うけれど、セレブリティーやインフルエンサーの文化は非常に若者向けだ。

そして米国は超資本主義社会でもある。人が幸せだと誰ももうからない。太っていることや、シワがあること、ファッションについて気にしなければ、整形手術や若さのための治療などを売り込むことは難しいだろう。

米国には非常に強い消費文化がある。広告や映画は、私たちに若々しくいられて幸せになれるようにと、ありとあらゆる商品を教えてくれる。しかし、それはウソで高価で妄想なのだ。こうしたことが(米国の)実体だ。

――年齢差別は男性よりも女性への影響がより大きいと思います。日本で30年ほど前には、女性の婚期をクリスマスケーキに例えて「25を過ぎたら安売りせざるを得ない」と言っていました。

クリスマスケーキと比較するなんて実にひどい。私はこうしたメッセージがどこから発せられているのかを考えるようにしている。

つまり、そのメッセージがどんな目的に役立っているのか。ウェディング業界? 化粧品業界? それは私たちの不安から利益を得るために仕組まれた巨大な消費者複合体なのだ。

若くて痩せている人だけが魅力的で、棚の上のケーキのようにもうすぐ賞味期限切れだというメッセージにあらがうのは簡単なことではない。私たちは社会的にも経済的にも搾取されるが、でもそれは、私たちがそうしたメッセージを受け入れてしまうから影響を受けるのだ。

私たちは互いに支え合う必要がある。あらゆる体格の女性がいるし、既婚も未婚の女性もいる。母親だったり母親ではなかったり、世の中には面白い生き方をする選択肢があることを知るべきだ。圧力にあらがうことは簡単ではないが、(クリスマスケーキのような)メッセージは私たちにとって良いものではない。本来は恥ずべきことではない何かに対する羞恥(しゅうち)心に根ざしているからだ。私たちが抵抗し、お互いに支え合うことで、少しずつでも文化が変わり、差別に挑戦できるようになる。

特に女性がなぜ自分の年齢を偽ったり、髪を染めたりするのか、その理由はよく分かる。年齢差別的で性差別的な文化の中では、そうしたことが有益だからだ。

しかし私たちが抵抗し、お互いに助け合えば、このような文化を少しずつ変え、そうした行動を有益なものにしている差別に挑戦することができる。

もし私たちが連帯して行動し、しわくちゃで、美しくて、ゴツゴツしていて、複雑なソースを女性に採り入れたら、こう言うだろう。「いいえ、私は冷蔵庫のケーキの箱には入らない。あの箱は私のための箱ではない」ってね。

出版された自著の邦訳「エイジズムを乗り越える」を手にして立つアップルホワイトさん=2023年9月、東京都内
出版された自著の邦訳「エイジズムを乗り越える」を手にして立つアップルホワイトさん=2023年9月、東京都内、丹内敦子撮影