TRF結成20年となった2012年、TRFのヒット曲とエクササイズを融合したダンスプログラム「EZ DO DANCERSIZE(イージー・ドゥ・ダンササイズ)」のDVDを出したら、予想以上の反響があり、人びとがこういうものを求めていることが分かった。
日本が超高齢社会になるなか、医師で参院議員のいとこから高齢者向けダンスを作ってほしいと言われたことを思い出し、次は高齢者向けのプログラムを作ってみようと考えた。
とはいえ、周囲に高齢者はいない。ドクターヘリに乗る救急医が私のダンス教室の生徒にいたので相談してみた。彼は足腰を強くするものが良いとか、座ってできるものがあったら良いなどとアドバイスをくれ、試作品を作った。
ちょうど同じころに、地元さいたま市岩槻区の夏祭りでイージー・ドゥ・ダンササイズを観客に教えるワークショップがあった。それを見た循環器系の医師で、岩槻で病院を経営する別のいとこに「心臓疾患の患者さんのリハビリにダンスが有効かも」と声を掛けられ、一緒に考えることになった。
彼の病院のリハビリ室に高齢の患者さん20人を集めてもらい週1回、プログラムを作るためのワークショップを開始。最初はみんな僕の顔を見て「何をやらされるのだろう」と緊張していたので、「僕がやっているようなダンスをするわけではなく、皆さんと体に良いダンスを考えていきたい」と説明。血圧や心拍数などのデータを取りながら進めた。その日の終わりには、みんな笑顔になって「楽しかった」と言ってくれたので、自分も「続けていける」と思った。
理学療法士やいとこから、高齢者にはボックスステップは足が絡まって転倒するといけないので避けてほしいとか、曲のテンポも落としたほうが良いとか、上半身と下半身が違う動きをすることで脳トレになるなどとアドバイスをもらった。
運動強度はラジオ体操や自宅の掃除と同じぐらいに調整。ただ、体の動かし方次第で強度は操作できるので「きついと思ったら自分なりにやって無理をしないように」と言っている。
僕はストリートダンスをやっているので、格好良くてダンスっぽくしなければいけない、とも考え、いろいろなことをミックスして2、3カ月かけて作り、患者さんたちも「毎週、この日が楽しみ」と言ってくれるぐらいになった。
出来上がったプログラムを岩槻の駅前にある複合施設でやってみることにした。心臓疾患のある人がやって安全であれば、どんな人にも有効だろうと考えたからだ。患者さんの口コミなどで120人ぐらいの高齢者に集まってもらい、みんなでダンスした。それ以降も毎月1回、岩槻でワークショップをしている。
参加した人は皆、ダンスが終わると「できなかった~」と言いつつも笑顔になる。30年間透析を続けていて100メートル歩くだけでゼーゼー言っていた人が、ダレデモダンスを1年続けたら「今は10キロ歩けます」と言うのでびっくりしたこともある。
3年ほど前にジェロントロジー(老年学)に出合った。知人に「ダレデモダンスに役立つと思うから勉強してみたら」と言われ、南カリフォルニア大の通信教育を受けることにした。
ジェロントロジーとは簡単に言うと、老化について社会学、心理学、生物学側面から分析し、年を取ることをポジティブに捉えようという学問。日本語に吹き替えられた講義が60あり、移動中など隙間時間に集中して勉強した。携帯電話2台を用意し、片方で動画を見て、もう片方に重要なことをメモするというやり方で、1回の講義に2~3時間かけ、1年間で修了した。
ジェロントロジーで、一番ピンときたことは「自分の体を自分で動かすことが大切」ということ。食生活や生活習慣も重要だが、ダンスは体を動かし、振り付けを覚えて音楽に合わせるので脳トレにもなる。健康寿命を延ばすのに最も役立つことは「自分がやっていることではないか」と思った。
さらにダンスは大勢で踊ったほうがより効果があるとされる。いっしょに踊って仲間との対話が生まれ、定期的に集まることでコミュニティーができて社会とのつながりが生まれる。
高齢者や認知症患者は家に引きこもりがちと言われるが、ダンスをすることが外出の機会となる。参加することが生きがいにもなっていく。ダンスは体と頭を使い、心にも良く、パーフェクトだと思う。ジェロントロジーを学んだことで自分のやっていることに自信がついた。
ダレデモダンスをベースに2022年、認知症患者らに向けた「リバイバルダンス」のDVDを発売。東京大学先端科学技術研究センターと理化学研究所が認知機能や運動機能の効果を測定。エイベックス・エンタテインメントや日本認知症予防学会などの協力も得た。音楽は高齢者になじみのある昭和、平成のヒットソングを使用。筋肉は何歳になっても鍛えただけ強くなる。内臓の筋肉も強くなり、免疫力が上がり、病気やけがをしても回復が早くなる。いろいろな意味で体を動かして強くすることは大切だ。
こうした活動は、社会貢献しようという思いが少しはあったかもしれないが、50歳を過ぎたころ、「ダンスのお陰で今の自分がある」と、ダンスに恩返しをしたい気持ちが強くなった。
これまでは自分が踊って人に見てもらう、人にダンスを教えてうまくなってもらうということをしてきたが、ダンスで人びとが健康になり、心も元気になることに気づき、ダンスの可能性を広げたいと考えた。ダレデモダンスとリバイバルダンスで、可能性はどんどん広がっていくと思う。