――西アフリカのダンスには太鼓が必須です。
たとえばギニアでは木をくりぬいてつくった「ジェンベ」、セネガルでは木の臼に動物の皮を張った「サバール」と、各国で違った太鼓がある。
その太鼓が数え切れないほどたくさんのリズムを生み出す。セネガルでは、結婚式などの冠婚葬祭のリズム、料理のリズム、セネガル相撲のリズム、昔は開戦を知らせるリズムもあったし、中には夫婦げんかを仲裁するリズムもある。
こうした数々のリズムを、踊りとともに伝えてきたのは、「グリオ」と呼ばれる世襲の音楽家たちだ。昔は楽器を演奏することは、彼らしか許されていなかった。私の父はセネガル国立舞踊団結成時のダンサーだったが、父は近くに住んでいたグリオから踊りを習った。リズムや踊りは歴史を語り継いできた。
――現代ダンスと伝統的なダンスの違いはあるのか。
伝統的なダンスは、もともと農村で踊られていた。たとえば穀物を植えるときや、収穫祭、そしてその際に催される相撲が主なダンスの舞台だった。
グリオたちは踊り手の動きに合わせて、太鼓をたたく。踊り手を高揚させるのもグリオの役割だった。今、私が踊っているのは基本的にこの伝統的なダンスを元にした現代ダンスだ。
現代ダンスにも、ヒップホップのブレークダンスの影響があることは確かだ。もともとヒップホップは私たちと祖先を共有するアフリカ系のアメリカ人が作った文化。リズムを聴いても余り違和感がない。
昔、ダンスはプロの踊り手だけに限られていたが、今は一般の市民も楽しく踊っている。それはいいことだと思う。ただ若者たちが、セネガルの伝統的なリズムを深く知らないようになってきていることは心配だ。だから私はあえて、穀物の収穫や相撲のしぐさを振り付けに取り入れている。(文中敬称略)