「○○を踊ってみた」。そんな風に銘打って、動画サイトに自らのダンス映像を投稿する動きが広がっている。なかには、再生回数が数百万回に達し、デビューを果たす人もいる。ネットの力が、これまで「見るだけ」だった人たちを、ダンスへと駆り立てている。
4月末、千葉・幕張メッセであった動画投稿サイト「ニコニコ動画」のイベント「ニコニコ超会議2」には首相もやってきた。会場の一角に設けられた「超踊ってみた」のブースには、コスプレ姿の人や、そろいの衣装を着た若者らがぎっしりと詰めかけていた。
「今度は、後ろのカメラに向かって踊りましょう」。ステージ上の踊り手がうながすと、約1000人の観客が一斉に後方を振り返った。息の合った振り付けで、時に跳びはね、時に腕を振り上げる。映像はリアルタイムでネットに配信される。さっきまでの観客席が、巨大なステージへと変わった瞬間だった。
会場でゲームキャラのコスプレで踊っていた東京都渋谷区の成宮さくらは「誰でも楽しめて、誰でもマネできるのが『踊ってみた』の魅力」と話す。6年ほど前に、ニコニコ動画にあったアイドルの曲やアニメ主題歌に合わせて踊る動画に触発され、自分も踊り始めた。以来、仲間たちと公園で踊っている。
Perfumeの振り付けを完全コピー
動画サイトの登場により、ダンスの裾野は格段に広がった。ユーチューブで「踊ってみた」がらみの動画は約70万件。素人でも、多少へたくそでも、楽しければいい。「踊ってみた」という語感には、そんな気軽さがある。女性アイドルの「なあ坊豆腐@那奈」や女性5人組ダンスユニットの「Dancing Dolls」ら、CDデビューしたアーティストもいる。
しまゆき(27)、ま~ちゃん(24)、かっち(25)の3人組「セラミクロニ」は、Perfumeの振り付けを完全にコピーしたダンス動画が話題を呼び、たちまち数十万回再生された。本物のメンバーにも認知されているほどだ。
かっちいわく「3人ともごく普通の会社員。ダンス経験も全然ない素人だった」。日々の個人練習と週1回6時間の合同練習で、ダンスの完成度を高めてきたという。超会議では、約6000人の観客を前に、キレのあるダンスを披露した。約2年前に今のメンバーで活動を始めた時には、まったく想像もしていなかった大舞台だ。
しまゆきは「ただPerfumeが好きで踊ってきただけ。すごい状況になって、信じられないし、うれしい」。(神庭亮介)(文中敬称略)