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看板俳優は97歳 「老い」と向き合う岡山の劇団、演じることは認知症介護と相性がいい

World Now 更新日: 公開日:
「レクリエーション葬」の一場面。左が岡田忠雄さん
「レクリエーション葬」の一場面。左が岡田忠雄さん=冨岡菜々子撮影

97歳の看板俳優が舞台に立つ劇団が、岡山にある。

「僕は舞台の上の感動のために生きている」。岡山市に暮らす「おかじい」こと岡田忠雄。岡山県奈義町の劇団「老いと演劇『OiBokkeShi』(オイボッケシ)」で、2014年から「老い」をテーマに演劇活動を続けてきた。

舞台のリハーサルをする岡田忠雄さん(左)と菅原直樹さん(中)
舞台のリハーサルをする岡田忠雄さん(左)と菅原直樹さん(中)=2022年7月、岡山県奈義町、相場郁朗撮影

主宰する俳優・介護福祉士の菅原直樹は東京の大学で演劇を学んだ後、アルバイトをしつつ俳優として活動。結婚、妻の出産を機に、演劇以外の技能を身につけたいとホームへルパー2級を取得した。

勤務先の特別養護老人ホームに、菅原を「時計屋さん」と呼ぶ認知症の女性がいた。否定せず、受け入れて会話をすると、女性の表情が豊かになり、自分について語り始めた。

演じることと介護は相性が良い。その気づきを形にしようと、演劇的な手法を通じ認知症の人とのコミュニケーションを考えるワークショップを始めた。参加者の一人が、当時88歳の岡田。当時、認知症の妻の介護に悩んでいた。演じることが大好きで、今村昌平監督の映画「黒い雨」などにエキストラ出演したこともある。生き生きと演技する姿を見て、岡田を中心とする創作が始まった。

岡田忠雄さん(左)と菅原直樹さん
岡田忠雄さん(左)と菅原直樹さん=2023年11月、増田愛子撮影

1回公演の「よみちにひはくれない」は妻が一人歩きして困るという岡田の体験を元にした作品。認知症の妻を捜す高齢男性を青年が手伝う物語で、地元商店街の中を移動しながら上演した。

昨年は岡山と京都で上演した新作「レクリエーション葬」で、初めて正面から「死」と向き合った。菅原は「2018年に脳梗塞(こうそく)で入院した岡田さんのお見舞いに行ったら、『生前葬をやりたい』と言われて。やっと形になりました」。

岡田が演じたのは、老人ホームのレクリエーションとして生前葬を繰り返す入居者の男性。ベッドに横たわる男性と、「参列者」の介護職員や他の入居者とのやりとりから男性の人生が語り直され、関わった人たちの間に新たな絆が結ばれていく。

recreation”の語源に「再創造」の意味があることから物語を発想した。

「岡田さんが死について言っていることを、そのまま男性のせりふとして書きました。例えば『天国で劇団を作る』とか」と菅原。岡田は「なぜかはちょっと説明できないんですけれど、死ぬのが怖くなくなった」と言う。

岡田忠雄さん
岡田忠雄さん=2023年11月、増田愛子撮影

現在、岡田自身が要介護の認定を受け、歩行に不安定さがある。ただ、この舞台のラストでは、杖をつきつつも背筋を伸ばして歩いて登場し、威厳のある姿を示した。菅原は「岡田さんのことをサポートしている俳優もいるけれど、介護者ではなく俳優として向き合っている感じがありますね」。

「まさかベッドに寝たまま舞台に出るとは思わなかった」。何度もつぶやく岡田に、菅原が「この芝居は、寝たきりになってもできますね」と言うと、間髪入れず答えが返ってきた。「監督の指名があれば、やりますよ!」