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認知症の人 入院を減らすには

World Now
認知症危機サポートチームを率いるアフィファ・カジ医師

取り組みを担うのは、国営医療サービス(NHS)の医師や看護師らによる「認知症危機サポートチーム」だ。

土日も含めて毎日午前9時から午後5時まで、地域の病院やかかりつけ医、老人ホームからの電話だけでなく、認知症の人をケアする家族からの相談も受け付ける。毎月100件ほどの相談が寄せられるという。

毎朝9時から1時間の会議で、緊急性を判断して対応する順番を決める「トリアージ」を行い、事例ごとのケア計画も決める。チームは一つの事例につき最長4週間、集中的に通い、その後は必要があれば他の組織に引き継ぐ。

92歳の女性のケースでは、同居していた介護者に対して暴力的になり、心配したかかりつけ医がチームに連絡した。「このような場合は、緊急性が高い『赤』。チームが即自宅に出向きます」と、取り組みの発案者であり、チームを率いる老年精神科医のアフィファ・カジ(46)。このときも精神科医が女性の家に駆けつけて、薬を飲んでもらうことにした。

しばらくの間は毎日通って薬の効果を確かめ、介護者を支えた。女性は次第に落ち着きを取り戻し、チームの電話番号を知った介護者は「いつでも連絡できる」と安心し、自宅介護を続けることになった。

「認知症の人は、ときに暴力的な振る舞いをすることがあります。これまでは警察を呼んで入院させるしかありませんでしたが、チームが対応することで、家や老人ホームに住み続けられるようになりました」とカジ。

チームはかかりつけ医や老人ホームとの連携も密にしている。カジは昨年1年間で、老人ホーム15カ所、175人のスタッフを対象に研修をした。研修の内容は「ニーズを見て決める」。認知症に詳しくないスタッフが多いホームでは、症状など基本的な説明をし、認知症の人が多いところでは落ち込んでいる人への対処法など、具体的な話をする。

取り組みが始まった2年前に比べ、地域の精神科病院への入院は半減した。100万ポンド(約1億6000万円)のコスト削減につながった、とカジは試算する。

「認知症の人は、場所が変わると混乱して症状は悪化します。自宅の方がストレスが少ない。入院が減れば社会的なコストも抑えられ、浮いたお金をよりよいケアに向けられます」

スコットランドのグラスゴー郊外で活動する「ホスピタル・アット・ホーム」のメンバー

入院を減らす取り組みとしては、スコットランドのグラスゴー郊外にも「ホスピタル・アット・ホーム」と呼ばれるチームがある。自宅で過ごしたいと希望する認知症の人を含む高齢者に、入院時に近いケアを提供するのがコンセプトだ。かかりつけ医や救急隊などからの紹介を受けて、医師や看護師らのチームが自宅を訪ね、血液検査や心電図、点滴などをする。

チームを率いる老年病専門医のローエン・ウォレスは「地域の病院をベースにした医師が、メンタルヘルスや救急対応など様々な専門をもった看護師らと連携して対応します。脳卒中など極度に緊急性の高いものを除き、私たちにできることはとても幅広いのです」。サービスを利用する80代の重い認知症の男性の家族は、「入院だと看護師は忙しく、日夜、小さないすに腰掛け、交代で付き添う家族の負担も大きかった。家で過ごせて、本人も家族も助かっている」と話す。