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中韓が繰り広げるバトル外交、ヒートアップしても引っ込みが付かないそれぞれの事情

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
中国の習近平国家主席と韓国の尹錫悦大統領(右)=ロイター
中国の習近平国家主席と韓国の尹錫悦大統領(右)=ロイター

中国と韓国が猛烈な批判合戦を繰り広げている。

韓国メディアによれば、中国の駐韓大使が6月8日、韓国野党代表との面会の席で低迷する米中関係を受けて「一部の者は米国の勝利に賭けているが、中国の敗北に賭ける者は必ず後悔するだろう」と発言。韓国外交部は翌9日、この大使を呼び出して「外交慣例に反する非常識で挑発的な言動」と批判した。

中国外交部も韓国の駐中国大使を呼び出して「深刻な懸念と不満」を表明。すると、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領までが13日、「(中国大使の)不適切な言動を国民は不快に思っている」と発言した。 

報道陣の取材に応えるシン海明・駐韓中国大使=2020年3月、ソウル、ロイター
報道陣の取材に応えるシン海明・駐韓中国大使=2020年3月、ソウル、ロイター

口論しているうちにだんだん声が大きくなり、そのうち周囲を巻き込んで大変な騒ぎになるというのは、日常生活ではありそうな話だが、外交ではなかなか見かけない話だ。どうしてこんなことになっているのか。

対中国外交に携わった日本外務省の元幹部によれば、これが攻撃的なことで知られる中国共産党の「戦狼外交」なのだという。

元幹部は「中国に対する批判が出たら、決して黙認せずに、過激な言葉で反論する。弱気な姿を見せてはいけないという考えが背景にある」と語る。

2017年に韓国の文在寅大統領(当時)が訪中した際に北京の天安門に並べて掲げられた中韓両国の国旗=ロイター
2017年に韓国の文在寅大統領(当時)が訪中した際に北京の天安門に並べて掲げられた中韓両国の国旗=ロイター

テーマは台湾でも歴史認識でも、ジャンルは問わない。

2020年には、オーストラリアのモリソン政権が新型コロナウイルスの発生源についての第三者調査を提唱した際、中国の駐オーストラリア大使が地元経済紙との単独インタビューで「長期的に両国の関係が悪化すれば、中国の国民は、なぜオーストラリアに旅行に行き、子女を留学に送り出し、オーストラリア産のワインや牛肉を飲み食いすべきなのかと疑問を持つだろう」と中国人消費のボイコットをにおわせた。

元外務省幹部は「相手に対してというより、北京(の中国幹部)に向かってしゃべっている側面もある」と語る。

一方、こうしてケンカを売られた国々も、黙っているわけではない。

中国の呉江浩駐日大使が4月の記者会見で、台湾問題を巡って「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言。林芳正外相は510日の衆院外務委員会答弁で、外交ルートで中国に厳重に抗議したことを明らかにした。

ただ、別の外務省元幹部は、韓国の対応は他国に比べ、二つの点で「ケンカ下手」と言えるのだと指摘する。

ひとつは、ケンカの「止め役」がいないことだ。日本は激しく中国とバトルしても、5月から自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を防ぐためのホットラインの運用を始めた。岸田文雄首相も同月、日中首脳会談の開催を検討していく考えを記者団に語っている。

これに対し、韓国の場合は外交ルートにとどまらず、尹大統領や国家安保室なども中国批判の発信を続けている。中国は尹大統領の訪中を招請しているが、韓国側は「今度は習近平国家主席が訪韓する番だ」と言って受け入れていない。

これには、尹政権の外交戦略と韓国の国情が大きく関係している。

尹政権の外交戦略は、ごく単純化すれば、「米韓同盟がしっかりしていれば、すべて解決できる」というものだ。これは、韓国内にある保守と進歩の路線闘争が影響している。尹政権はすべてにおいて前任の文在寅(ムンジェイン)政権に批判的だ。対中外交も「文政権は中国に弱腰すぎた」という批判が先にでるため、結果的に極端な対中強硬戦略を選ぶことになる。

首脳会談前に握手を交わす韓国の文在寅大統領(当時)と中国の習近平国家主席=2019年12月、北京、ロイター
首脳会談前に握手を交わす韓国の文在寅大統領(当時)と中国の習近平国家主席=2019年12月、北京、ロイター

もっとも、保守が唱える「米韓同盟がしっかりしていれば、中国は黙っていても頭を下げてくる」という論理が正しいとは限らない。韓国の魏聖洛元駐ロシア大使は19日のオンラインセミナーで、「ドイツやフランスは、英国よりも米国との関係が強いとは言えないが、ロシアと一定の外交空間を作りだしている」と語った。

もう一つの問題は、自分で自分の手を縛る韓国の手法だ。

韓国のメディアや政党は、こうした中国の強硬外交が話題になると、好んで「屈辱外交」「外交的大惨事」という言葉を使う。日本外務省の元幹部の一人は「こうした派手なレトリックは世論を刺激する。政治家はそれでいいかもしれないが、外交は違う。一度拳を振り上げると、市民が屈辱でなくなったと感じるまで下ろせなくなる」と語る。

これは、近世で36年間、日本に併合され国を失う憂き目にあった国として仕方がない反応かもしれない。でも、世間のケンカでも「売り言葉に買い言葉」で、相手を猛烈に傷つけると、後で関係を修復できなくなる。

お互い声が大きくなって、引っ込みがつかなくなったらどうなるのか。

外交は映画のようにはうまくいかない。正しい者が勝つのではなく、力がある者が勝つのだ。韓国はすでに何度も中国から、韓国語風に言えば「水を飲まされている(苦い目に遭わされている)」。韓国が2017年、米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備を認めると、中国は韓国への団体旅行を事実上禁じた。THAADの配備用地を提供した韓国ロッテグループの中国事業にも支障が出た。

世間で言うなら、正面でのケンカに勝っても、家族や職場で様々な嫌がらせに遭うという展開か。

映画や小説の世界なら、格好いい助っ人が現れて問題解決になるのだろうが、現世で韓国が同盟国として頼りにする米国に、そんな力があるのだろうか。

韓国の知人の一人は冷めた口調でこう語る。「尹錫悦は米議会でこう語ったではないか。自分はこれまで二つの仕事しかしていない。検事と大統領だ。それでは、世間の厳しさを知らなくても仕方がない」