「台湾は中国の核心的利益」
中国の李尚福国務委員兼国防相は6月4日の演説で「中国は必ず統一されなければならず、必ず統一される」と述べた。「台湾問題は中国の核心的利益に関わる問題であり、中国の内政だ」とも語り、名指しは避けたが、「覇権主義の先にあるのは戦争と混乱だ」として米国の動きを強く牽制した。
米国のオースティン国防長官は前日の演説で、台湾有事について「衝突は切迫しておらず、不可避でもない」と語る一方、「間違いなく、台湾海峡での衝突は破滅的なものになる」と警告した。
米軍は今、西太平洋で中国に対抗する戦力の再編を急いでいる。米軍は従来、海軍や空軍の戦力で圧倒し、制海権や制空権を握ることを前提に部隊を動かしてきた。だが、再編にあたっては、九州から沖縄、台湾などを通り、南シナ海を囲むように延びる「第1列島線」周辺では、海や空における優勢が必ずしも保証されないことを想定している。
沖縄海兵隊の第12米海兵連隊は2025年までに第12海兵沿岸連隊(MLR)に改編する。敵による攻撃の兆候が現れた場合に島嶼(とうしょ)部に緊急展開し、移動しながら地対艦ミサイルなどで攻撃する。空軍は使用できる飛行場の増設、海軍は艦艇の小型・分散化を通じ、中国のミサイルの脅威を分散させながらMLRを支援していく。
では、バイデン米政権は台湾有事で同盟国にどのような役割を期待しているのか。
米軍と共に活動する主力として期待しているのがオーストラリア軍と自衛隊だろう。6月3日の日米豪防衛相会談では、3カ国のF35ステルス戦闘機による共同訓練、「複雑でハイエンドな演習」の増加、 自衛隊による米・豪両軍に対する武器等防護の実施機会の定期化などで合意した。
豪州、アメリカの戦争に欠かさず参加
オーストラリア軍は第2次大戦後、米国の戦争には欠かさず参加してきた。台湾有事に米軍が介入すれば、オーストラリア軍も何らかの形で必ず参加するだろう。
自衛隊は平和保護法制による「重要影響事態」で米軍に対する武器・弾薬の補給、救難活動など、「存立危機事態」で共に活動する米軍が攻撃を受けた場合の集団的自衛権の行使などを想定している。今後、こうした支援の対象がオーストラリア軍に広がることを想定した合意と言える。
また、3日には日米豪比防衛相会談も行われた。フィリピンは4月、米軍が使用できる新たな国内基地4カ所を公表した。これで、米軍が使えるフィリピンの基地は計9カ所に増えた。米軍は海兵沿岸連隊が緊急展開し、米空軍機が使用する場所として想定しているとみられる。
一方、3日の日米韓防衛相会談では、3カ国が北朝鮮ミサイルの警戒データをリアルタイムで共有するメカニズムを年末までに始動するとした。
米韓合同軍事演習に、海兵沿岸連隊など米軍の再編部隊が参加していない状況や、日米豪比の会談に韓国が加わらなかったことから、米軍は台湾有事に韓国軍が直接関与することを想定していないとみられる。米国は台湾有事の際、北朝鮮やロシアが軍事行動を起こす「複合事態」を警戒し、韓国軍に北朝鮮を抑止する役割を期待している。
韓国軍が北朝鮮を抑止することは日本の安全保障の負担を減らすことにもつながる。4日の日韓防衛相会談では、2018年に韓国海軍艦艇が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題で、再発防止を巡る協議を加速させることで合意した。
防衛省自衛隊は2018年の事件発生当時も日韓協力を重視し、敢えて謝罪よりも再発防止に要求の重点を置いていた。4日の合意で、ほぼレーダー問題を棚上げする道筋がついたと言える。
また、日韓防衛相会談では「様々なレベルでの更なる連携・交流を図る」ことで合意した。すでに、日韓両政府からは、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に加え、物品役務相互支援協定(ACSA)や自衛隊と韓国軍の相互往来円滑化協定(RAA)の締結を目指すべきだという声が出ている。
最終的には米軍やオーストラリア軍と同じように、韓国軍を集団的自衛権行使の対象に含めることも視野に入ってくるだろう。
さらに、米国防総省は陸海空軍、海兵隊、宇宙軍、サイバー軍の情報を共有し、相互運用する「統合全領域指揮統制(JADC2)」の開発を進めている。ビンセント・ブルックス元在韓米軍司令官らは、自衛隊と韓国軍もJADC2に加わるべきだとしている。北朝鮮ミサイルの警戒データ共有メカニズムの構築は、日米韓によるJADC2共有の第一歩という位置付けになるだろう。
ある時点で米中首脳会談か
一方、シャングリラ・ダイアローグでは、米中防衛相会談は実現しなかった。米中は、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と王毅中国共産党政治局員が5月半ばにウィーンで会談。米CNNなどによれば、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官も5月、中国を訪問した。
サリバン氏は4日、CNNとのインタビューで、今後数カ月間、米中当局者の協議が続くとの見通しを示したうえで「ある時点で、バイデン大統領と習近平中国国家主席が会談することになるだろう」と語った。
米国は緊張緩和にも力を注いでいるが、それが十分機能するかどうかはわからない。ブリンケン国務長官も2月ごろに訪中を計画していたが、中国のスパイ気球問題で頓挫した。米国の専門家は「バイデン氏は当初、気球の撃墜まで考えていなかった。ところが、トランプ前大統領や共和党関係者から批判の声が起きて、撃墜に方針転換した。ブリンケン氏の訪中中止も国内の反応を考えた決断だった」と語る。
米国は来秋の大統領選をにらみ、国内政治を優先する動きが目立っている。バイデン氏も債務上限問題から、5月に予定したオーストラリアとパプアニューギニア訪問を中止した。
米国の国内政治を重視する姿勢は今後の台湾情勢にも大きく影響する。松村五郎元陸上自衛隊東北方面総監は「台湾有事の際、米軍が全面的に軍事介入するとは限らない。ウクライナのように武器支援だけにとどまるかもしれない。日本も米国の動きを注視しながら、日本領域の防衛を考えるとどんな関与の仕方が良いのかもっと議論すべきだ」と語った。