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「中国は6年以内に台湾侵攻の可能性」 米軍司令官証言の現実味

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
3月10日、台湾海峡を通過する米海軍ミサイル駆逐艦ジョン・フィン(米海軍提供)=ロイター

「台湾危機」は現実か(上) 「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」。米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が3月9日、米上院軍事委員会の公聴会で行った証言だ。日米の外務、防衛閣僚が集まった協議(2プラス2)の共同声明も「閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」とうたった。いま台湾危機を懸念する声が急速に高まっている。本当に、中国が台湾に侵攻する日がやってくるのか。日本はどう備えるべきなのか。2回に分け、日米の専門家の分析を元に考える。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

■急増する中国軍機の飛来

シンクタンク「日本国際問題研究所」が2月に発表した「戦略年次報告2020」は、台湾を巡る米中対立の激化について詳細に分析し、注目を集めた。報告によれば、2020年1月の台湾総統選挙での蔡英文総統再選を契機に、中国が軍事的な圧力を強化した。

象徴的だったのが、台湾海峡の中国・台湾間の中間線を越えて飛来する中国軍機の急増だった。昨年11月には30日間のうち26日、台湾と東沙諸島の間にある台湾防空識別圏で飛行を重ねた。

中国軍機は2019年の1回を除き、20年近く台湾海峡の中間線を越えて台湾の防空識別圏に入ることを避けてきた。報告は「中国がこのような暗黙の了解に縛られない行動を頻繁に取るようになったことで、不測の事態が起こる可能性が高まることになった」と指摘した。

防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長によれば、数年前から、中国の人民解放軍に関係した部署で、台湾への限定武力攻撃オプションに関する議論が活発に行われている形跡があるという。

防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長=牧野愛博撮影

中国が限定武力行使する可能性について、米国でも関心が高まっている。たとえば米ハドソン研究所のブライアン・クラーク上級研究員は昨年11月、米国防総省に対して「中国・ロシアをめぐるワーストシナリオ(最悪のシナリオ)」への対応を迫る論文を発表した。クラーク氏は「中国が台湾を攻撃する可能性は低いと思うが、台湾への経済圧力や海上封鎖措置などの姿勢を強めているのは事実だ」と語る。

米ハドソン研究所のブライアン・クラーク上級研究員=研究所のホームページから

高橋氏は「中国が台湾を攻撃すれば、限定的な武力行使では済まなくなる。台湾海峡は中国にとって負けられない場所なので、失敗したら武力行使をエスカレートさせざるを得ない。金門島(中国の沖合にある台湾の離島)などへの限定武力行使が、結果として台湾本土侵攻まで事態をエスカレートさせてしまう可能性を無視できない」と指摘する。

そのうえで高橋氏は「限定的な武力行使が可能だ、という希望的観測を中国が持てば、台湾有事は起こりうる」と指摘。そのときの米国の対応については「米国大統領と議会が決めることだが、米国は台湾を見殺しにはしないだろう」と語る。

■習近平主席任期との関係

戦車が展示された金門島の海辺。対岸に中国・アモイの高層ビル群が見える。沖合をフェリーが通り過ぎていく=西本秀撮影

では、なぜ、デービッドソン司令官は「6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性」に言及したのだろうか。

この6年、という期間について日本政府関係者は、「2022年秋の中国共産党大会を基準にした予測だ」と語る。

中国の習近平国家主席は2022年秋の共産党大会で党総書記としての三選を目指している。政府関係者は「6年の根拠は、三選までの1年と、党総書記3期目の期間である5年を合わせた数字だ」と説明する。米国が、3期目の習近平体制が台湾侵攻を狙う可能性があると分析しているという意味だ。

東京大学東洋文化研究所の松田康博教授は、「中国軍が現状を変更しようとする動きを見せているのは間違いない」と指摘する一方、そのタイミングについて三選前と後を分けて考える。

「中国は大国だから、思い通りに行動する。対外活動も、内政の影響を受ける。現時点で、習主席の最大目標は2022年秋の党大会で三選を果たし、強力な権力のもとで中国を作り替えるというものだ。三選を果たすまでは、米国と衝突するような危険な行動は取らないだろう」

東京大学東洋文化研究所の松田康博教授=本人提供(画像の一部を加工しています)

松田教授によれば、中国は新型コロナウイルスの感染拡大などで習近平体制の人気が落ちた際は、日米などに攻撃的な姿勢を示してナショナリズムをあおり、市民の不満をそらしてきた。ただ、中国はロシアとは異なり、戦争して国内の支持を上げるという「陽動戦争理論」に基づく行動を採った例がほとんどないという。

2018年の中国軍創建90周年や2019年の新中国建国70周年のときも、台湾への軍事侵攻を懸念する声が出たが、中国は軍事パレードなどを行うにとどめた。

ただ習近平体制が3期目に入り、強大な権力を得たと確信した後はわからない。松田教授は「習主席が三選を果たした後は危ない。中国軍が、クリミア半島でのロシア軍のやり方をみて、ハイブリッド戦争と核抑止力を使えば、米軍介入を阻止できると報告し、それを指導者が信じたら、武力侵攻もありうる。それが最悪のシナリオ」と語る。

松田教授によれば、台湾で2016年に蔡英文政権が誕生して以降、中国は盛んに「台湾が危うい」という宣伝扇動活動を行ってきた。松田教授は「自分たちが流した宣伝が逆流し、自己洗脳されることもありうる。これまでは理性が働いて台湾侵攻を思いとどまってきたが、三選後はどうなるかわからない」と予測した。(つづく)