テクノロジーが進化すると、可視化されるものが増えていく。とらえられなかった「ブラックボックス」が明らかになり、トレーニングでパフォーマンスが上がる。それは相当に高速化している。
野球の大リーグでは、投手が球を離すリリースの指とボールの関係や力の伝わり方が、完全に把握できるようになった。直球や変化球の質が上げられる。ここ10年、投手の球速は上がっている。
打者も、どの球を狙い、どんなスイングをすればいいのかが分かり、技術が上がった。戦術ではデータをもとに、極端なシフトを敷くようになった。
バスケットボールのNBAでは、3ポイントシュートをばんばん打つようになっている。ゴール前での駆け引きが少なくなり、3ポイントがより勝利に直結する。
ここで、「テクノロジーに依拠した戦術をどこまで許容するのか」という議論が出てくる。
大リーグでは、極端な守備シフトが禁止になった。
NBAの選手同士のせめぎ合いが好きだった人からは、外からぼんぼん打って面白くないとも聞く。テクノロジーを野放しに使い過ぎると、競技の本質から離れていってしまう。
パフォーマンスや戦術の向上を一義的な目的とするデータは、ほかの目的に転用されている。
代表的なのはスポーツ・ベッティング。大リーグでは、2回表の最初の打者が出塁するかどうか、5回までに得点が5点を超えるかなど、試合中に賭けが行われる。
データ解析ツール「スタットキャスト」で選手やボールの動きを捕捉できる。たとえば、外野手の中で、最も効率的な走路を取った選手が誰かも、やろうと思えば追える。賭け方は無限にある。
テレビ視聴での変化は思ったより少ない。
大リーグでは、リプレーで打球の初速や走者の走る速度が出る場合があり、アメリカンフットボールのNFLでは、クオーターバックの走る速度、パスの速度や成功率がすぐにリプレーで出る。ただ、出るのは1試合で数回。そこまで視聴者が求めていないからだろう。
一方、ゴルフでは、タイガー・ウッズ(米)とロリー・マキロイ(英)が新しいリーグを作り、やり方を変えようとしている。
グリーンへのアプローチまでは、弾道測定器やシミュレーションの技術を用いた仮想空間のコースでプレーし、パターはアリーナのグリーンでやる。実際にラウンドすると5時間かかるが、これなら2時間で終わる。
ただ、スポーツの本質、価値の源泉はライブであり、リアル。それは絶対に変わらない。データが全盛になると、より人間的なタッチが求められる。生で見る価値はより高まっていく。