昨年12月27日は、米プロバスケットボール(NBA)ワシントン・ウィザーズのホームゲームの日だった。
観客であふれかえる本拠地キャピタルワン・アリーナ。2階のコンコースにある通路を抜けると、多くのモニターが世界中のスポーツを映し出すフロアに出た。飲食スペースで歓談する客のほか、ATMのような機械の前に並ぶ人もいる。
ここは、2021年にできたスポーツベッティング会場。専用の機械で賭けられる。試合会場に賭博施設が併設されるのは全米で初めてだった。
ウィザーズやNHL(アイスホッケー)のワシントン・キャピタルズを運営するモニュメンタルスポーツのジム・バン・ストーン社長は言う。
「アリーナには年に20〜30回、計約300万人が入場するが、賭博施設とつながって、試合がない日もNFLや野球、サッカー、大学スポーツを見るため、賭けるための人で混雑しているよ」
そして、付け加えた。「スポーツ賭博と配信サービスが統合することで、ファンをもっと引きつける波がやってくる」
米国で、スポーツ賭博の勢いがすさまじい。連邦最高裁判所が18年に解禁の可否を各州に委ねる判決を出したのが契機になった。
業界団体、米ゲーミング協会によると、23年1月末時点で全米50州のうち36州と、首都ワシントン特別区で合法化。21年の全米売り上げは前年度比2.6倍の572億ドル(約7兆4000億円)で、22年は1000億ドル(約13兆円)を突破する見込みだ。
こんな潮流にNFLやNBA、総合格闘技のUFCなどスポーツ団体側の動きは早かった。賭博業者と公式スポンサー契約を結び、試合データなどを提供する。
米国ではいま、両者が融合した「スポーツベッティング2.0」に注目が集まる。
スマホやタブレットで試合を見ながら、同じ画面で「次に得点するのは誰か」など、リアルタイムでワンプレーごとに賭ける技術だ。
従来の技術では、プレーの映像が端末に届くまでに10秒から1分程度の遅延が起きる。映像と連動させて賭けを成立させるのは難しかったが、昨年12月、NFLと契約する英企業「ジーニアススポーツ」は遅延の少ない賭博アプリを開発。賭博関連業界からスポーツ配信に参入する口火となる、との観測も出てきた。
一方で、課題もあらわになっている。
昨年12月、UFCで1回TKOで決着がついた試合の直前に、異常な賭けの動きが察知されたと報じられた。八百長の疑惑も指摘されている。
オハイオ州は、大学キャンパスで宣伝した賭博業者に25万ドルの罰金を科した。同州では21歳未満のスポーツ賭博を禁じているためだ。
「リスクなし」「無料」など不当な広告表示をした大手3社には計45万ドルの罰金を科した。
人口最多州のカリフォルニアでは昨年11月、スポーツ賭博の合法化を問う住民投票に7割が反対し、否決された。
スマホなどで試合中に何度も賭けられるスポーツ賭博は、ギャンブル中毒になりやすい、との調査もある。スポーツの公正性の確保や未成年への影響も含め、市民の不安は根強いようだ。賭けられる場所や方法に制限を設けている州もある。
だが、熱気は日本にも及ぶ。
公営ギャンブルを除いて賭博は禁じられているが、サイバーエージェントやMIXI、楽天などIT企業を中心に、解禁を目指す業界団体が22年にできた。
男子プロバスケットボールBリーグは、20年シーズンから「ジーニアススポーツ」とスポンサー契約を結び、公式データを提供。担当者は「海外で好き勝手にデータを使われるより、きちんとした業者と契約した方が不正行為も未然に防げる」と話す。