ブラインドサッカーは視覚障害のある4人のフィールドプレーヤーと健常者(ルール上では弱視プレーヤーも可)のGKの計5人でチームを編成。試合時間は20分ハーフの40分で、フットサルと同じ広さのコートで行われる。
フィールドプレーヤーはアイマスクの着用が義務付けられ、転がると音が出るボールと、相手のゴール裏に立つ「ガイド(コーラー)」の声を頼りにゴールを狙う。
東京大会には8チームが出場。4チームごとの2グループに分かれて予選が行われる。世界ランキング12位の日本は、4大会連続優勝の王者ブラジル、アジア王者の中国、欧州の強豪フランスと同じグループに入った。
29日午前9時から東京湾岸・青海アーバンスポーツパークで行われたフランス戦。日本は前半4分に42歳のFW黒田選手がドリブルから攻めて、左足で先制ゴール。
9分にも今度はコーナーキックからパスを受け取った黒田選手が右足でミドルシュートを決めて、2点目を奪った。
前半終了間際には、世界的なプレーヤーでもあるエース背番号10の川村怜選手がFKからゴールを決めて3-0。試合を優位に進めた。日本は試合中、チームの形であるダイヤモンドの陣形を崩さず、組織的な守備で屈強な選手をそろえたフランス代表の猛攻を抑えた。
後半には、川村選手のPKで追加点。ゴール裏でコーラーを務める中川英治コーチの的確な指示のもとで、耳を研ぎ澄まし、最後まで攻守バランスとれたプレーを見せた。
パラ1勝への道のりは今から5年前の2016年、ブラジル・リオデジャネイロの地で始まった。
前年のアジア選手権でイランと中国に敗れ、パラリオ大会の出場を逃した日本代表は、リオ大会の2カ月前にあった国際親善大会に出場。パラ出場国が強化を兼ねたこの大会で、イランを相手にエース川村怜が1点をもぎとり、中国には1-0で初勝利を成し遂げた。
GKコーチを経て就任した高田監督がそれまでの守備的戦術から「3点奪われても5点取って勝つ」と攻撃的なチーム戦術に転換した。
それまでは「視覚障害のスポーツ教育の域」を出なかったという代表メンバーたちが、強豪ブラジルやアルゼンチンのように、パラの花形種目での優勝を目指す「プロ的思考」に切り替わるきっかけとなった。
サッカーの強豪バイエルンミュンヘンやACミランで指導者の研修を積んだ高田監督が、フットボールの概念を選手たちに植え付けた。
高田監督は「あのころのチーム力を1とすると、今のチーム力はその50倍。レーダーチャート図を見ると、5年前は闘志だけが突出していたが、今は技術力、攻撃力、守備力、チーム戦術力などすべての項目が強化され、きれいなダイヤモンド型になっている」と話す。
高田監督がまず目につけたのが、2015年ラグビーW杯で強豪南アを相手に歴史的1勝をもぎとったエディジャパンがルーチーンにしていた選手の体調管理策だった。
スポーツテック企業「ユーフォリア」(東京、橋口寛・宮田誠共同代表)が開発した「ONE TAP SPORTS」のコンディション管理ソフトを使って、選手がけがをしない強靭な身体、プレーに即した効果的な筋力アップを実現した。
選手たちは毎朝、自分の体調をデータに入力しなくていけないが、宮田代表は「音声読み上げ機能による全選手のデータ入力率は100%。最高の準備をしてくれた」と語る。
ACミランでは「サッカーの疲労度の55%は脳疲労だ」と分析されていた。失点は練習して習得したはずのプレーの判断ミスで起こる。
心肺的な疲労で酸素不足に陥った血液が脳にもまわり、判断力を鈍らせる。高田ジャパンはそこに注目。メンバーは試合中に心拍数のデータを取り、脳疲労しない身体作りにも励んだ。
この5年間、資金力のないブラインドサッカーを強化するため、高田監督は自ら営業マンとなってスポンサーを探し、スポーツテック企業に次々と営業した。その結果、チームには手弁当で参加する各界のプロフェショナルが集まってきた。
改善したのは栄養や水分補給面だけでなく、効果的な睡眠と休養、メンタルケアにも及んだ。さらにはブラインドサッカーでは重要なボイストレーニングも行った。
昨年には練習用の専用コートが使えるようになり、大会直前には低酸素トレーニングを行った。
対戦国のスカウティングも徹底した。強豪チームには必ずエースがいる。相手がどの場面でどのような形で得点しているのか、さらに守備の穴はどこにあるのか。
選手は右利きなのか、左利きなのか、ドリブルで攻め上がる際にはどのような癖があるのかも調べあげ、選手たちの頭に叩き込んだ。
高田監督は「選手たちは本当に見えているんじゃないかと思える時がある。一緒に会場まで付き添っているスタッフがある時、間違えて逆方向を進む電車に乗ったんだけど、その選手は途中でいつもとは違う雰囲気に気づき、スタッフに『乗り間違えましたね』と指摘したこともある。すごい奴らだ」と語る。
選手たちの自立心も芽生えた。6月の国際大会で、強豪スペインを相手に、体力がきつくなる終盤、コーチ陣がタイムアウトをとろうとしたが、フィールドの選手たちが「まだやれる。プレーをきらないでくれ」と要求してきたという。
どのスポーツでも選手たちがコーチの指示をきかず、自立してプレーする瞬間に、また一回り強くなることは歴史が証明している。世界を驚かせたラグビー・エディジャパンの南ア戦もそうだった。
高田ジャパンのスカウティングチームは会場の10年間の気象データも調べ上げ、試合に臨んだ。今日のフランス戦の勝ち点3で予選リーグ突破の可能性が膨らんだが、30日のブラジル戦、31日の中国戦を控える。
大会前のインタビューで高田監督は「ここまで準備できたのなら、負けても何の悔いもない。中国戦はぜひ注目してほしい。勝利して、準決勝に進み、支援してくれた人たちを喜ばせる」と意気込んだ。