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最先端ゴルフスクールを記者が体験「フェースのかぶり」「トップの位置」一瞬で解析

Learning 更新日: 公開日:
ゴルフ解析ソフト「ギアーズ」で表示された記者のスイングデータ
ゴルフ解析ソフト「ギアーズ」で表示された記者のスイングデータ=横浜市、木村健一撮影

15項目のデータ 理想と現実のギャップ埋める指導に納得感

最初に紹介するのは、東京・六本木のインドアスクール「ゴルフテック」。ゴルフ情報を発信するゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)が、2012年にオープンした。

アメリカ発祥のスクールで、日米やカナダ、シンガポール、中国、香港に計240カ所以上を構える。

その売りは、最先端の機器による精緻なスイング解析と、それにもとづくマンツーマン指導だ。

米フォーサイト・スポーツ社の弾道測定器「GCクワッド」がインパクトの瞬間を、前後のカメラが体やクラブの動きを追う。骨格の推計には、AI(人工知能)も活用されているという。

インドアスクール「ゴルフテック」で体験をする木村健一記者
インドアスクール「ゴルフテック」で体験をする木村健一記者=東京・六本木

実際のレッスンは1回30分だが、取材ということで、アイアンを5球だけ打って解析してもらう。

パソコンのディスプレーには、スイングの動画とともに数字が4色で示された。

緑は上級者のスイングで、プロの平均値に近く、黄色は右へ少し曲がるフェード系になりやすい動作、赤色は右へ大きく曲がるスライス系、青が左へ曲がるフック系になりやすい動作を示す。

インドアスクール「ゴルフテック」で表示された記者のスイングの解析画面
インドアスクール「ゴルフテック」で表示された記者のスイングの解析画面=東京・六本木、木村健一撮影

スクールでは、当初は多くの数値を測っていたが、今は15項目ほどだ。情報量が多すぎると、一般のゴルファーは混乱するため、集約されたという。

ここのコーチ陣は、科学的なスイング理論をもとに、数値の見方やレッスン方法を学んでいるという。10年ほどコーチを務める中村晃文さん(38)は、「数値を全部直そうとすると難しい。一番必要なものを見定めて修正しましょう」。

そして、私の数値を見て、間髪入れずにこんな説明をしてくれた。

インドアスクール「ゴルフテック」の中村晃文コーチとスイングの解析画面
インドアスクール「ゴルフテック」の中村晃文コーチとスイングの解析画面=東京・六本木、木村健一撮影

球筋はストレートフック。クラブのフェースがややかぶり、緩やかに外側から内側に入る「アウトサイドイン」。体は回転しているけれど、トップ(クラブを振りかぶって手の位置がもっとも高くなった状態)で手の位置が高い。腰が右へ動いている。

そして、解決策が示された。

クラブが内側から外側へ抜ける「インサイドアウト」にしたい。手の位置を後ろへ持っていくために、腰を左側にキープしたい。フェースはかぶらないように。そうすれば、飛んで安定した球、右へ打ち出して左へ回転する「プッシュドロー」になるーー。

中村さんは言う。

「昔はスイングには形がなくて感覚的で、レッスンが難しかった。今はデータをもとに説明できるから、納得感がある。問題点を見つけられれば、改善できる。理想と現実のギャップを埋めるために、こういう動きをした方が良い、と。ゴルフテックには1万2000人のデータがある」

確かに、解析されたスイングのデータを見て説明されると、自分の課題がよく理解できた。

人間のやること 数字を追いすぎず「いいあんばい」で使う

続いては、横浜市の「ノビテックゴルフスタジオ」。2021年の東京五輪銀メダリスト稲見萌寧のコーチだった奥嶋誠昭さん(43)が教えている。

プロでもアマチュアでも、スイングの詳細なデータを分析できる米国発祥のシステム「ギアーズ」を活用しているという。

体やクラブに34のマーカーをつけ、8台のカメラで撮影した。60項目のデータとともに、体やクラブの実際の動きが示される。

ノビテックゴルフスタジオの「ギアーズ」で表示された記者のスイングデータ
ノビテックゴルフスタジオの「ギアーズ」で表示された記者のスイングデータ=横浜市、木村健一撮影

記者の数値や動きを見て、奥嶋さんが課題と解決策を示してくれた。

クラブを縦に振りすぎている。これだけ上から鋭角に入ると、ヘッドの先が下がる「トーダウン」になって、フェースが開いてしまう。クラブの軌道をもっと後ろからにしたいーー。

ゴルフテックの中村さんの指摘と同じように、高すぎるトップを後ろへ持って行くことを改善点として挙げてくれた。

奥嶋さんは9年前、このギアーズに出会った。以来、毎年のように本場・アメリカへ渡り、データの分析や教え方を学んできたという。

たどり着いた答えはこうだ。

「数字はうそをつかないけれど、機械ではなく、人間がやっていること。数字を合わせようとすると、スイングが乱れていく。数字を追いすぎず、いいあんばいで使うこと」

米国発のスイング解析システム「ギアーズ」を使って指導する奥嶋誠昭さん
米国発のスイング解析システム「ギアーズ」を使って指導する奥嶋誠昭さん=2023年4月、横浜市、木村健一撮影

素人がデータを読み取り、どうしたら改善できるのかを見極めることは難しい。データの収集や分析ができる機械が普及しても、奥嶋さんや中村さんのように理論的に指導できるコーチは欠かせないのだと実感した。

私自身のことを改めて振り返ってみた。

10年ほど前、ゴルフを本格的に始めた。といっても、ラウンドは年に5、6回で、練習は前日くらい。ドライバーはスライスが治らず、アプローチはダフったり(地面をたたいてしまったり)、トップしたり(ボールの上側を打ってしまったり)。スコア90の壁を越えられないでいた。

スポーツ部のゴルフ担当になって間もない昨春、近所に弾道測定器やカメラを備えたインドアのスクールがオープンした。「ゴルフは仕事だから」と妻子に苦しい言い訳をして、通い始めた。

練習は多い時は週3、4日で、1回2時間。前半は日替わりのコーチの指導を受け、後半はシミュレーションゴルフでラウンドした。

すると、半年ほどで、ドライバーの平均飛距離は50ヤードほど伸び、スコアは初めて90を切った。スイングのデータや動画を見ながら、分かりやすく、的確な助言をくれたコーチのおかげだ。

ただ、コーチが示してくれる解決策は、すぐには習得できない。体やクラブをイメージ通りに動かせるようにするには、時間がかかる。やはり、日々の練習が欠かせない。

ラウンドではコーチも測定器もない。勇気を持ってドライバーを振り抜けるか。落ち着いてパットを決められるか。人間が自然を相手に戦うゴルフは、精神力もカギを握る。

シングルの道は険しい。