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「ジャック」に恋する豪州人たち イギリス発祥700年のローンボウルズ

Insight 世界のスポーツ
大会に参加していた人たちは中高年が多かった photo: Kogure Tetsuo
大会に参加していた人たちは中高年が多かった photo: Kogure Tetsuo

ボウリングのようなフォームで、黙々と球を投げ込んでいく。観客は静かに見守る。黄色い歓声も応援合戦もなく、時折、拍手が起きるくらいだ。

6月に豪東部ゴールドコーストで開かれたローンボウルズの全国大会。国外からの参加も受け付け、賞金総額は25万豪ドル(約2200万円)を誇るが、会場に派手さはなく、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

30メートルほど前に置かれたジャックと呼ばれる白い小さな球に向けて、いかに近くに自分の球を転がせるかを競う。シングルスでは4球ずつ投げ合った時点で、ジャックの最も近くに投げた選手に得点権が与えられ、相手のベストの投球よりもジャックに近く投げた球の数が得点となる。目視だけでは微妙なときは、じっくり巻き尺で測定。これを繰り返す。合計得点が先に21点に達した方が勝ち。大会では2244のチーム戦も行われた。

豪州には約2000のクラブがあり、競技人口は発祥の地・英国をしのいで世界最多の100万という。「英国の気候では、屋外でできるのは年に45カ月。こちらの東海岸では年中できますから」。全国組織「ボウルズ・オーストラリア」のイベントマネジャー、マーク・ケーシー(35)が言う。

世界のスポーツ_ジャックに恋する豪州人_2

全国大会だが、誰でも参加できる。目立つのは、中高年のプレーヤーたちだ。「社交スポーツという側面は確かにあります」とケーシー。

観客のレイ・ポッター(68)は南西部アルバニーから同じクラブの4人を応援に来た。クラブの練習は週4回、午後4時からだが、自身はプレーしない。練習に行く目的は「仲間に会い、話して飲むこと」。今回もゴールドコーストという観光地で夕方には「仲間と飲むよ」。やはり、お年寄りが楽しむスポーツか。

まっすぐ投げても曲がる球

世界のスポーツ_ジャックに恋する豪州人_3
「マイボウル」は自分の好きな色を選ぶ

でも、試合を終えたジェフ・ヒュートン(57)の顔から噴き出す玉の汗を見て、認識を改めた。

南西部ボディントンのクラブで15年前にプレーを始め、全国大会は初参加。初戦で敗れたが、「今日は前日の雨で芝生が重い。反対に乾燥していると球足が速くなる。それを考え、投げ方を変えないといけないんだ」と興奮気味に語る。

もともとは木製で今はゴムやプラスチックが多い球は、比重が片側に偏って作られていて、まっすぐ投げても重い方に曲線を描いて進む。それを計算して投げ込む必要があるのだが、コートのコンディションも計算に加わるということだ。

熱心にプレーを見つめていたデビッド・ファーガソン(33)は9歳からプレーを始め、南東部ニューサウスウェールズ州代表の経験もある実力派。「どんな世代でもできる一方で、しっかり競い合えるスポーツ。強くなるには、テニスやゴルフと同じで正しい姿勢でプレーすることが大切ですよ」

なるほど、よく見ると、安定したフォームで確実に投げる本格派がちらほら。1試合で何十球もしっかり投げ続けるには体力もいりそうだ。相手の球にぶつけるなどの戦略もあり、「次の一手」を読みながらのプレーは、実は奥が深い。

その歴史が700年を数えるというのも、当然なのかもしれない。(文中敬称略)