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eスポーツ市場の急成長にFIFAが目をつけた

Insight 世界のスポーツ 更新日: 公開日:
ロンドンで開催されたFIFAも関わるeフットボールの大会はテレビ中継も=2019年2月、ロンドン、稲垣康介撮影

2月9、10日、ロンドンでFIFAが主催する「eクラブワールドカップ」が催された。大陸予選を勝ち抜き、参戦した16チームのうち、マンチェスター・シティー(イングランド)、アヤックス(オランダ)など7チームは実際のクラブのeフットボール契約選手からなる。会場は英スカイスポーツのスタジオ。観客は関係者のみだったが、テレビ中継向けにアナウンサー、解説者が実況で盛り上げた。画面を見ずに実況だけなら、本物の試合と変わらない。

FIFAは昨夏、「eワールドカップ」をロンドンで開いた。提携する米エレクトロニック・アーツ(EA)社のゲームソフト「FIFA18」を採用し、2千万人を超す予選を勝ち抜いた32人が競った。栄冠を手にしたのは、サウジアラビア出身の18歳、MSドサリ選手で優勝賞金25万ドル(約2750万円)を獲得。昨年9月にロンドンで開かれたFIFAの年間最優秀選手らが表彰される式典に招待された。

FIFAのeフットボール&ゲーミング部長、クリスチャン・フォルクはいう。「仮想現実の世界から、実際のサッカーの魅力に気づいてもらえるし、その逆もある」。FIFAが2016年秋に発表した中長期改革の柱の一つにeフットボールは据えられた。

今年2月のeクラブワールドカップ、昨夏のeワールドカップ決勝大会に、唯一の日本人として出場したのが19歳のナスリ選手だ。これは登録しているゲーム名で本名ではない。高校1年の途中までは自身、サッカー部に所属していたが、その後はゲームに夢中になった。実力をつけ、昨年から海外の大会にも参戦。「6月に行ったオランダが初めての外国でした」。1日の練習時間は2時間強で、週末はオンラインでの対戦に明け暮れる。「賞金で暮らせるわけではないし、プロという意識はない。ただ、純粋に強くなりたい」

日本のサッカーゲームの第一人者として国際大会で経験を積むナスリ選手=2019年2月、ロンドン、稲垣康介撮影

ナスリ選手のマネジャーを務めるスポーツITソリューション社の熊本拓真は「eフットボールでプロとして生計を立てているのは、おそらく世界で50人から100人程度。実際のクラブの契約選手が多い。大会数も含めて欧州が盛んなのは、欧州チャンピオンズリーグが事実上の世界最高峰であるリアルなサッカーと同じ」という。

■五輪採用にはハードルも

サッカーなどのeスポーツは将来、五輪で採用される可能性があるのか。国際オリンピック委員会(IOC)は17年、ゲーム業界との連携を深める方針を決めたが、早期の採用には消極的だ。ハードルは低くない。
実際のサッカーはボール一つあれば、22人が一つのピッチで楽しめるが、ゲームは民間企業が開発したゲームソフトを買う必要がある。定価は8千円程度。サッカーゲームの規格も統一されていない。FIFAが提携するのはEA社だが、日本ではコナミの「ウイニングイレブン」の人気も高く、昨夏のアジア大会では公開競技の種目にも採用された。FIFAのフォルクは「五輪採用にまだ具体性はない」という。
オランダの調査会社Newzooは、eスポーツの市場規模が22年に17億9千万ドル(約1970億円)となり、17年の約3倍になると試算。子どものスポーツ離れが叫ばれる中、スポーツ競技団体として傍観するにはもったいない「市場」がある。(文中敬称略)