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トルコ・シリア地震、内戦やクルド人問題…国際援助を阻む複雑な政治事情【前編】

これだけは知っておこう世界のニュース 更新日: 公開日:

中川 今回は、前編で、26日に発生したトルコ・シリア地震の状況と政治的背景を中心に、後編では、バイデン大統領の一般教書演説に触れながら、今後のアメリカ外交、ウクライナ戦争の行方について話したいと思います。

まず、トルコ・シリア地震については、対談を行っている210日現在、死者は2万人を超えました(2月22日時点の死者は5万人超)。国際社会からの迅速な支援が待たれますが、難航しています。

元々この地帯は、地震の多発地域で、今回の地震の規模や建物の崩壊状況から物理的な難しさもあるのですが、加えて、複雑な政治的背景が支援をさらに困難にしています。

建物のがれきの間を歩く住民男性。男性のアパートも地震で倒壊したという=2023年2月18日、トルコ南部エルビスタン、朝日新聞社
建物のがれきの間を歩く住民男性。男性のアパートも地震で倒壊したという=2023年2月18日、トルコ南部エルビスタン、朝日新聞社

パックン 今回のトルコ・シリア地震で亡くなられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災地に一刻も早く支援を届けなければなりません。大規模な地震で物理的にインフラが破壊されているのに加えて、天候的にも雪が降り、氷点下の寒い時期です。

中川 この地域の政治的背景を理解するポイントは三つあります。

一つ目は、クルド人の問題。クルド人は、「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれます。今回の地震が起こったトルコ南部とシリア北部、イラク北部、イラン北西部の4カ国に、4000万人とも4500万人とも言われるクルド人が住んでいます。

二つ目は、トルコの内政問題。トルコ政府にとって、南部に多く住むクルド人が独立することは是が非でも避けなければなりません。トルコでは、今年5月に大統領選挙と議会選挙を実施しますので、現職のエルドアン大統領にとっては、この未曽有の危機に、緊急支援、復興支援を成功させて、クルド人の信頼も得ることが重要です。

公園に張ったテントで生活する会社員アリ・ギュルさん(右端)の一家。近くで倒壊したアパートから、親類が見つかるのを待ち続けている=2023年2月16日、トルコ南部カフラマンマラシュ、朝日新聞社
公園に張ったテントで生活する会社員アリ・ギュルさん(右端)の一家。近くで倒壊したアパートから、親類が見つかるのを待ち続けている=2023年2月16日、トルコ南部カフラマンマラシュ、朝日新聞社

トルコはロシアとウクライナの戦争でも、地政学的にも重要な位置を占めています。エルドアン大統領は、ロシア、ウクライナ、その双方に強いパイプを持つ、今世界でおそらく唯一の指導者とも言われる老練な外交策士ですが、地震の初動対応が遅れて国民から批判が上がっているという報道もありました。

この地震からの復旧・復興にあたり、国際社会からどう支援を取り付け、トルコ国内に還元できるのか、指導力が問われています。

三つ目は、シリアの内政です。今回の地震の犠牲者や被災者の発表人数は、トルコよりも少ないです。ただ、本当にそうなのか、被害の正確な実態把握が非常に難しいのは、シリアが内戦状況にあるからです。

2011年のアラブ民主化運動、いわゆる「アラブの春」で、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンは、独裁政権が倒れましたが、シリアのアサド政権は倒れませんでした。それは冷戦時代の社会主義陣営のつながりから、ロシアのプーチン大統領が強力な軍事支援を行ったからです。

これに対して、アメリカはシリアの民主化を後押しするため、反政府勢力を支援したわけですが、2013年に、アサド大統領が、反政府勢力に化学兵器を使用した疑いがあったにもかかわらず、当時のオバマ大統領が「アメリカは世界の警察官ではない」と述べて、シリアにそれ以上、介入しませんでした。

その結果、現在では、アサド独裁政権がシリアのほとんどの地域を支配する一方で、地震の震源地近くの北部は引き続き反政府勢力が支配しており、またクルド人が住んでいる地域と入り組んだ形で、地域ごとに支援の主体が異なるので困難を極めているというわけです。トルコ人はトルコ語、クルド人はクルド語(イランのペルシャ語に近いと言われます)、シリアはアラビア語なので言語も異なります。

倒壊した建物のがれきの上で、コンクリート片を手作業で取り除く人たち=2023年2月8日、トルコ南部カフラマンマラシュ、朝日新聞社
倒壊した建物のがれきの上で、コンクリート片を手作業で取り除く人たち=2023年2月8日、トルコ南部カフラマンマラシュ、朝日新聞社

パックン 中川さんが指摘されたように、今回の地震は、被害を受けた各国の内政のファクターが重なります。トルコではエルドアン大統領の初動の悪さも批判が出ているので、両国は国内の統率の問題で、被災地の皆さんがつらい思いをしていることには変わりありませんが、トルコとシリアを同じレベルにするのは、誤解を招きかねないので、分けて考えた方がいいと思うんです。

特にシリア北部は、シリア政府の統率が取れておらず、支援金などが送られても、支援活動自体は政府ではなく、地元、あるいは赤十字社などの国際的な慈善組織が実施せざるをえません。つまり、日本国内なら自衛隊が、アメリカ国内ならナショナル・ガード(州兵)が入って救助や支援活動の中心になりますが、シリアではそれができない状況です。

さらに、被災地の皆さんは自力で奮闘しているが、政府が国境を厳しく管理し、海外からの物資や人員が届かないようになっているそうです。その上、シリア政府は昔から海外からの人道的支援金を政府に回しているそうですが、今回の地震後の支援金も中央政府の資金になってしまえば、被災者の救済に使われないだけではなく、反政府側の被災地をさらにいじめるように使われる可能性もあるのです。

その上、シリアは今、国際社会の制裁対象になっています。

アサド政権がテロ支援国、非民主主義国家であって、国民に対しても残酷な手段を使って反政府運動を制圧しているため、制裁自体はやむをえないと思うんですが、戦争に使われる可能性があるからという理由でブルドーザーなどの重機も制裁対象になっています。重機が足りず、がれきの撤去もままならないんですこの緊急事態の際には、人道支援の観点から、政府抜きに直接被災地に支援を届けるために特別な対応が必要だと思います。 

中川 アメリカも、アサド政権へ直接支援をしても、被災地、特に反政府勢力が支配する地域に届くとは思えないと考えています。ですから、国連関係機関やNGOを通じて実施するしかありません。

アサド政権は、報道によれば、震災直後にも反体制派の支配地域に空爆を行っています。中東の場合、日本や欧米の人道問題の感覚とは全く異なります。独裁政権というのは、常時、自らが倒れるか、倒されるかというのが判断材料ですから、指導者の立場からすると、こういう事態だから、敵の人道面に配慮しようとは簡単にはならないのです。人道面に配慮する気持ちがあるなら、プーチンがウクライナに戦争を仕掛けることもなかったでしょう。ここはなかなか日本人には分かりにくいですが、戦乱の中東を生き抜く指導者にとっては常識です。

トルコのエルドアン大統領は、今年5月に選挙があって、ここで国内世論を味方につけなければなりません。ですから、これまでは敵対していたアサド政権とも関係を回復して、トルコの国境とシリア・アサド政権の支配地域を結ぶ道路の開通などを通じて、円滑に支援物資が届くように努めています。

また、アラブ諸国の動きとして、これまでアラブ諸国はアサド政権が、同じアラブ人の反政府勢力を攻撃したとして、シリアのアラブ連盟加盟を停止していましたが、今回の人道危機で、アサド政権と関係を回復する動きも見られます。

これは人道にかこつけた政治的思惑、すなわち、アサド政権がもはや倒れることはないので、正統性を認めて、自国の安全保障に資した方がよいという思惑です。エジプトのエルシーシ大統領が、2014年に就任以来、はじめてアサド大統領と電話会談したのはその好例です。

パックン 思い出すのはロシアとシリアの連携ですね。ロシアがアサド政権に代わって(反政府勢力を)空爆したり、戦争犯罪と言われる残虐行為をしたり。ロシアがウクライナを侵略した際、国連で「問題ない」という立場を取った5カ国に、シリアも入っています。

震災を利用して政治問題を解決するのは、僕は間違っていると思うんですよ。震災時は一刻も早く被災地の人たちを救助して、復興の道を早く歩むように支えるべきだと思うんです。でも、被災地の人たちを助ける意味も含めて、「悪党」の政権に国際的な注目が集まるのはいいことですし、政府の改革、もしくは政権打倒を応援することは、被災地の皆さんの友人の立場としても大事だと思うんです。

中川 人道的な観点から、政府の状態や統治体制が異なるトルコとシリアで支援に差がつくことがあってはならないと思います。逆に、日本人は、こういう事態だからこそ、この10年余、あまりスポットライトが当たってこなかったシリアの状況やクルド人の置かれた状況にも関心を払い、被災地の状況を理解することが、真の人道支援ではないでしょうか。単に、寄付をする、物資を送ることだけができることではないはずです。

地震で壊滅的な被害を受けたトルコ南部カフラマンマラシュでは、ボランティアによる水やビスケットなどの食料配給に大勢の人が詰めかけていた=2023年2月8日、朝日新聞社
地震で壊滅的な被害を受けたトルコ南部カフラマンマラシュでは、ボランティアによる水やビスケットなどの食料配給に大勢の人が詰めかけていた=2023年2月8日、朝日新聞社

パックン 人道支援は、被災地の方々を助けることであって、政府を助けることとは違います。ですから、被災地支援のための資金が、独裁政府の延命策や政権内の汚職、反政府勢力抑圧のための武器購入に使われることのないような工夫が必要です。

難しいですが、短期的には国連機関が直接、人材を派遣して支援を統率することが一番いいと思うんです。赤十字、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などです。長期的には、資金の使い方を第三者がしっかり監視、監査できる機関を作ることも重要です。

中川 シリアの反政府勢力が支配している地域での、資金援助及びその監視は容易ではありません。でもそれが容易でないからと言って、支援しないのは本末転倒で、そこに今回の地域で発生した災害支援の難しさがあります。

パックン シリア北部の反政府勢力の支配地域への復興支援は本当に難しいと思います。シリアのアサド政権はもちろん、トルコ政府も、(トルコ国内でのテロ事件への報復から)シリア北部のクルド人武装勢力を去年末から攻撃しているし、クルド人中心のエリアの救済や復興を強く願っているわけではないはずです。結局両政府とも支援目的でもこれらの地域への物資搬入などをなかなか許さないようです。

中川 根深い問題ですね。シリアの北部は、クルド人の種々のグループが混在して、各グループとシリア政府、シリア反政府勢力とも関係が複雑です。支配地域も複雑に入り組んでいます。

パックン 冒頭で中川さんがおっしゃったように、歴史的にみると、クルド人につらい思いをさせているのは、クルド人が住むトルコ、シリア、イラン、イラクの4カ国の政府だけでないです。アメリカやイギリスも非常に悪い過去を持っていることも忘れないでいただきたいですね。

もともとオスマン帝国の一部だったクルド人地域だったが、第1次世界大戦中にイギリスがクルド人国家「クルディスタン」の設立を承認するという約束をして、終戦後にそんな内容の条約まで結びました。が、オスマン帝国が崩壊しトルコが独立したら、その条約を破棄してしまい、クルディスタンの誕生は夢のままとなったのです。

アメリカも、1970年代前半にも、1990年あたりにも敵対するイラクのフセイン政権と戦うイラクにいるクルド人を応援し、自治権を保障する姿勢をみせては、突然差し伸べた手を引き戻すパターンを繰り返しています。

シリアにおいても、同じことが2019年にトランプ政権時代にありました。シリアのクルド人と手を組んで過激派組織「イスラム国」(IS)打倒に励んでもらったけれど、いったん抑え込んだ後は、アメリカ軍がシリアから撤退したことで、ロシアやシリアのアサド政権、トルコ政府からも攻撃を受け始めました。

この通りに、クルド人は裏切られ続けた歴史があるんです。「クルド人問題」というとクルド人側に問題があるように聞こえるけれど、そうじゃなくて、つまりはクルド人の国際的な扱いをめぐる問題、クルド人に国家がない問題は、震災復興に限らずいろんな場面で悪い影響を与えているので、早く解決するようにしないといけないですね。

中川 シリアについていうと、アラブ諸国はシリア隣国のイランの影響力を警戒し、だからこそ、最近になって、独裁であってもアサド政権との関係改善に動いています。また、ロシア、アメリカ、トルコもシリア内政に影響を及ぼす主要プレーヤーです。

各国の政治的思惑が複雑に絡み合っていますが、大事なのは、国、地域で差をつけないこと。今後の復興支援では国連を中心に、各国が政治的思惑を捨てて、結束しなければなりません。日本人もこの地域の人々に関心を持ち続けられるかどうかが問われていると思います。ウクライナの戦争もそうですが、復興は長い戦いだからです。

 (注)この対談は2月10日にオンラインで実施しました。対談写真は岡田晃奈撮影。