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寮はまるでハリーポッターの魔法学校 岩手に開校した英名門パブリックスクールの特色

World Now 更新日: 公開日:
ハロウ安比のキャンパス
ハロウ安比のキャンパス=岩手県八幡平市、同校提供

盛岡市内からローカル列車に揺られて1時間、赤い屋根の小さな駅舎の無人駅、安比高原駅を降り立つ。駅から延びる一本道をすすむと突然、真新しいれんが色の巨大な建物が現れた。

東京ドーム2個分の敷地に校舎や天然芝のグラウンドがあり、隣接する36ホールのゴルフ場も授業で使う。

本校と同じ英国式カリキュラムで、日本の小学6年から高校3年に相当する7~13年生を対象とする。初年度は7~10年生の180人が世界12カ国から集まる。約45%が日本人で、ほかは中国を中心に欧米にルーツがある子もいる。

上空から見た、ハロウ安比のキャンパス。12月になると、あたりは一面雪景色になる
上空から見た、ハロウ安比のキャンパス。12月になると、あたりは一面雪景色になる=岩手県八幡平市、岩手ホテルリゾート提供

全寮制ですべての教師と生徒は、四つあるハウスのいずれかの一員となって「ファミリー」をつくる。

男子は「マサムネ(伊達政宗)」「チャーチル」の二つ、女子は「オガタ(緒方貞子)」「ライオン(創設者)」。それぞれ旗やイメージカラーが異なり、ハウス対抗の音楽会やスポーツ大会が開かれる。読書の量やスペリング大会などで「ハウスポイント」を競い、毎週水曜日にどこのハウスが一番多かったが発表される。さながら小説「ハリー・ポッター」に出てくる、ホグワーツ魔法魔術学校のようだ。

少人数制で、平均して14年以上別の学校で教えた経験があり、半数が修士または博士課程を修めた教師が学習だけでなく寮での生活まで面倒をみる。いったいどんな学校なのか。

教室をのぞくと、生徒7人だけのこともあれば、20人近くいることもある。

授業はほぼすべて英語だ。地理の授業ではスクリーンに動画を映しながら、外国の気候や文化について学んでいた。第二言語として学べる中国語の授業では教師が座り、生徒と輪になって日常会話を練習しあっていた。約40人の教師陣の8割は英国出身で、英語が苦手な生徒がいる授業では、科目の教師と語学の教師が一緒に授業をする。学年によって異なるが、たとえば9年生だと、数学や英語、科学は必修だが、経済学やプログラミング、演劇、音楽などの科目は自分の興味で選択する。

生徒の個性伸ばし、関心にとことん寄り添う

生徒が関心ある分野を深く専門的に学べる設備が整う。イノベーション棟ではパソコンはもちろん、3Dプリンターやレーザーカッターも備える。生徒たちはこうした機器を自由に使って、自ら設計図を考え、セラミックや粘土などの素材を使って模型をつくる。それによって、ペンや車など幅広い物体の仕組みを学び、科学技術と数学の分野を組み合わせて自ら理解を深める。

理科の授業で実験に取り組む、生徒たち
理科の授業で実験に取り組む、生徒たち=岩手県八幡平市のハロウ安比、同校提供

平日の生徒は午前6時に起床し、選択制で走ったり、泳いだりする。ハウスごとに朝食をとり、午前8時15分に授業が始まる。一コマ40分。

生徒の約45%が日本人で、ほかは中国など東アジアを中心に英米など12カ国にルーツを持つ。試験はCAT4と呼ばれる認知能力テストに加え、筆記、そして面接がある。

ファーリー校長が全受験生を面接をしたという。求める学生像について、「英語は完璧にできなくてもいい。24時間英語漬けになるので、言語はすぐに伸びる。様々なことに好奇心を持っているか、学ぶことに貪欲か、そして我が校に何を持ってこられるかをみている」

日本の公教育をどうみているか。

ファーリー校長は2003年から6年間別のインターナショナルスクールで校長を務めた経験から、「日本は公教育のレベルが高く、平均して生徒が一定のレベルに達しているが、個性をのばす教育は足りないように思う。ハロウ安比では学び方のプロセスを重視し、生徒の創造性や個性を伸ばすことを大切にしている」と話す。

たとえば、理科の授業で、教師がチョウの標本を見せ「これを見て何を思うか」と問えば、生徒によって答えは異なる。チョウのライフサイクルを調べる子もいれば、チョウはなぜ飛べるのかが気になる子もいる。それぞれの興味に沿って学べる環境を整えている。

学内で一番大きな講堂でオーケストラの演奏を披露する生徒たち
学内で一番大きな講堂でオーケストラの演奏を披露する生徒たち=岩手県八幡平市のハロウ安比、同校提供

高額の学費、保護者「さまざまな国籍の友だちづくりは財産」と期待

少数制で、卓越した教師、充実した施設のため、学費はかなり高額だ。

寮費や食費も含めて年間849万~927万円。そうした学費が払えるのはごく一部の保護者に限られる。保護者がハロウ安比に何を期待しているのか。

中学1年の長女を通わせている、関東で開業医を営む父親(48)は「10代でさまざまな国籍の人と友情が結べるのは財産だ。語学が堪能なら将来の選択肢幅が広がる。そのためには必要な学費ではないか」。母親(42)は「教育は人生にとってローリスクで一番ハイリターンな投資。振れ幅が大きい経験をする方が娘の人生にとってプラスだ」という。

入学を決めた理由について、父親は「コロナ禍が大きかった」と振り返る。もともと地域の私立小学校に通わせていたが、コロナ禍で長女の習い事や遊びを制限せざるえなくなった。両親とももともとインターナショナルスクールに興味を持っていたこともあり、自然豊かで全寮制のハロウ安比なら長女に我慢をさせずにすむと考えたという。

長女には将来どんな大人になってほしいか。父親は「今はまだわからない。でも、医療業界の人と話していても、何十年後を考えると医者を継いでもらうのは現実的に難しいと思う。10代のうちにほかの国の文化を知り、交流していくことが、娘の視野を広げて選択を増やす意味でもいいことではないか」と話す。