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最高のインテリジェンスが集まるシンガポール 東南アジアから、世界はこう見える

World Now 更新日: 公開日:
田村耕太郎さん
田村耕太郎さん(右)。ハーバードビジネススクールのケーススタディの主人公に選ばれた=本人提供

「若者よ、今こそチャンス。レアキャラになって世界に飛び出せ!」。テレビドラマにもなったベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』の著者、田村耕太郎さん自身も、証券会社社員、新聞記者、国会議員を経て、いまはシンガポールで大学兼任教授、個人投資家というレアキャラ的な存在だ。コロナ禍のため2年ぶりに一時帰国したこの夏、世界のスタートアップ最前線からみた日本のポテンシャルと未来について語ってもらった。(全3回の第2回)

――シンガポールは人口500万人強の小国ながら、米国、中国それぞれと軍事演習をするなどバランスをうまくとりながら存在感を示しています。来年、中国を抜いて人口が世界最多となるインドとも関わりは深いですね。

シンガポールはかつてイギリスの植民地で、インド系と中華系そしてマレー系の人で成り立つ面白い国です。もともとグローバルな貿易港で、民主主義と資本主義の原点でもあるコモンローや英語が社会に根付いていますが、一方で中華国家でもあり、独裁的な中国式の統治にも理解があります。

そのうえで、巨大な市場である、中国、インド、マレー系東南アジア(インドネシア、フィリピン、マレーシア)との交流が盛んです。それぞれの市場と出入りするグローバルなゲートウェイになっています。

シンガポール政府も米、中、インド、東南アジアの間で絶妙なバランスをとっています。米中対立の中で、米国にとっても、中国にとっても、インドにとっても、日本にとっても世界最高のインテリジェンス、つまり意思決定に不可欠な高度情報が入手できる場所でますます重要性が高まっています。

昨今では、香港から流出してくる事業家や富裕層に加え、台湾や上海からの流出組も増えて、中華圏の富がシンガポールにさらに集まっています。米中対立や中国の強大化は、シンガポールを利しています。シンガポールの和食屋が「大中華会議」の舞台になっています。美味しいお寿司や懐石料理を食べながら、中国本土、香港、台湾から移住してきた富裕層や事業家と、東南アジア財閥オーナー、彼らもほとんどが中華系ですが、シンガポールで情報交換してコラボを始めているのです。

店先で花を売るシンガポールのリトル・インディア=西村宏治撮影

日本はインド系と連携を高めていくべきだと思っています。僕はシンガポールや東京でインド系インターナショナルスクールの運営にかかわっていますが、その理由の一つは日本がインドと補完性の関係にあり、相性がすごくいいからです。小学生の娘も親友はインド系が多いです。

世界の高度人材を集めて活用するのが上手なシンガポールには見事な多様性が作り上げられています。日本では「みんな同じ」と教えられますが、シンガポールでは、そもそもクラスのみんなの見た目が違い、休日、お祭り、食べられる物も違っていたりして、「違うことが美しい」と小さいころから教わります。

日本に三校あるインド系インターナショナルスクールは今年4校目、5校目を作ります。まったく宣伝していませんが、いまや学生の6割が日本人の子女になってしまうほど、日本の親御さんに知られて大人気なのです。数学に強く、サイエンスの教え方も実践的、それらすべてを英語で行います。合間にヨガを入れて子供たちのマインドフルネスも重視しています。

インド人はよくしゃべり、馬力があって、大きなことを考えるけど、詰めが甘いところがあります。個が強く、集団行動も得意とは言えません。一方で、日本人は大きな戦略を描いたりすることは苦手だけれど、規律や管理、最後の詰めがしっかりしている。その違いを認めあい、補完しあい、インドの人材と経済成長を日本が取り込んでいくのです。

インド工科大(IIT)の学生たち=インド・ムンバイ、宮地ゆう撮影

――インドでは優秀なIT技術者が米国をめざすなど、頭脳流出が問題になっていますが。

最近はそうでもないんですよ。先日インドに行ったのですが、優秀なインド人はアメリカでも成功はできるけれど、母国の経済が力強く成長を続けているので、分野によってはアメリカよりアップサイドがあるとみている若者が増えています。いま欧米から戻ってくる人も増えているそうです。長い目でみると、必ずインドの時代がきます。日本は彼らと一緒にチャンスをつかむべきです。

――今年は日中国交正常化50周年ですが、中国とはどう向き合えばいいと思いますか。

いずれ日本一カ国だけで向きあわないといけないときもくると思っているんです。好きになる必要もないし、上から目線でも、下から目線でもある必要はない。過度に怖がる必要もないけど、なめる必要もない。とにかく冷静に深く長く中国という対象を研究しないといけません。

権威主義的な中国の方がまだいいといえます。日本の識者の中には、中国が国内課題のせいで分裂していくシナリオを歓迎する人もいますが、それは危険です。分裂しても日本より強大で、分裂などしたら、誰が交渉すべき当事者がわからなくなります。

歴史的に中国が分裂したときこそ、周りの国を不幸にしています。まとまっている中国も怖いですが、実は「敵は内にあり」で、そこを理解して妥協点を見出すことができるともいえます。

これから中国も人口減や強権政治による弊害によって不安定になる可能性が高い。その時に、切羽詰まって国民の目をそらすために外に過剰な圧力をかけていく可能性を危惧しています。中国の影響力はロシアの数十倍の規模です。いま先進国がロシアに対してやっているような経済制裁は通用しないでしょう。

太平洋進出を狙うシーパワーになろうとしている中国からみたら日本列島は中国の行く手を阻む海上の「万里の長城」のような要塞に見えるでしょう。アメリカからみたら、日本列島は、中国の海洋進出を阻む盾として位置づけられています。だから日本の米軍基地に高度な兵器を集中させているのでしょう。日本の食糧やエネルギーの輸入航路であるシーレーンも守ってくれています。

しかし、東アジアの軍事バランスはますます中国有利に傾斜していきます。ウクライナ戦争が終わらなければ、アメリカはNATOと台湾有事という、最もアメリカが忌み嫌う二正面作戦を強いられます。中露はどんどん連携を深めているように見えます。日本には自国内とウクライナに忙殺されているアメリカをもっとアジアに関与させる働き方が必要です。

また日本の防衛のためにはオーストラリアやインドも引き入れ、クアッド(QUAD)の取り組みも強化すべきでしょう。しかし、オーストラリアは3千万人に満たない国で、インドは中国には反感はあるものの、非同盟中立路線を行く可能性が高いです。インドとロシアは軍事協力含めて関係が深いです。

東南アジア諸国も親日的ではありますが、中国の経済力を中心とした影響下にさらに入ってしまう国が増えそうです。残念ながら、日本は今後さらに中国に、そして一体化した中露勢力そしてその配下にある北朝鮮に翻弄される可能性が高いとみています。

ウクライナ戦争を契機に、世界各国が経済を安全保障の武器として使い始めています。中国と政経分離で付き合うことは今後さらに難しくなっていきます。日本のビジネスリーダーは今日本の最大の貿易相手である中国の市場を将来失う可能性があるという前提でビジネスを組み立てるべきでしょう。

オンラインで開かれた日米豪印4カ国による初の首脳協議。菅義偉首相(当時、手前右)と茂木敏充外相(同左)。画面内は(右下から時計回りに)モディ印首相、モリソン豪首相、バイデン米大統領=2021年3月12日、首相官邸、恵原弘太郎撮影

――アジアの未来はそんなに明るくない、と?

そんなことはありません。シンガポールには悲観的な人も多くいて、海抜が低く、山がないので、気候変動で海の水位があがれば逃げ場がなくなることを真剣に恐れています。でも気候変動を遅らせる、時間を稼ぐ技術が世界で次々に生まれています。世界人口は100億人に向かって増え続けていくだろうから、続々と優秀な人たちが誕生し、テクノロジーは進化し、新たなアイデアも生まれ、アジアに限らず人類は課題を解決しながら進化していきます。

過去に悲惨な戦争が無数ありましたが、戦争で人類の数や進化は落ち込むどころか加速しています。戦争の被害というのは経済の長期低迷に比べたら大きくはないとの研究もいくつもあります。

現代人は過去のどんな帝国の王様よりもいい暮らしをしています。エアコンもあり、インターネットもあり、ワクチンもあり……。人類に対する悲観的な予測というのは当たらないんです。多少貧しくて、不安定になったりすることがあっても、むしろ未来はとても明るいんじゃないでしょうか。

マルサスの人口論をはじめ、人類の未来にネガティブに賭けた識者は多くいましたが、すべて賭けに負けています。私が世界中のテクノロジーに投資する理由は、人類の未来は明るいと確信しているからです。(つづく)