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『頭に来てもアホとは戦うな!』田村耕太郎さんが語る、日本を強くする処方箋

World Now 更新日: 公開日:
田村耕太郎氏
田村耕太郎氏=梶原みずほ撮影

――生活や仕事の拠点としているシンガポールから二年数カ月ぶりに日本に一時帰国してみて、日本がどのように映りますか。

コロナや円安の影響もあって日本の行く末が心配になります。

シンガポールに住んでいると、1、2時間でふらっと気軽に安い料金でいろんな国へ行けて、歴史や民族、宗教の違いに触れ、新たな出会いがあり、投資の機会もアイデアも転がっている。日本人は日本と海外の隔たりが、物理的距離は仕方ないとしても、心理的な面で大きすぎ。

いろんなことを日本人だけでやろうという考えを捨てないといけない。若者にはとにかく外に出てほしい。よく海外で何を見たらいいですかという質問を受けますが、スーパーに行ったり、外食に行ったり、マックやスタバに行くだけでいい。とにかく海外に行けば、いまの日本人の購買力の低さがわかり、これはやばいなと実感します。

――日本経済を強くしていくために、どのような政策が必要だと思いますか。

頭数×生産性=国力です。とにかく人口を増やし、生産性をあげていくべきです。生産性についてはAI(人工知能)が代替することも可能だけれども、当面はどう考えても頭数を増やしていかないと経済も財政も持たないでしょう。

いま、世界ではエンジニア、データサイエンティスト、看護・介護の人材の奪い合いが激化しています。シンガポール政府は最近、国外から働きにくる介護の人材に対し、その家族も含めて永住権を付与して、世界最高レベルの待遇で迎え入れる、という方針を示しました。語学要件はなく、入国前と入国後の研修費も国が負担するでしょう。

人口500万人ほどの小さい国なので影響力は小さいですが、たぶん各国がまねをしてデフォルトになっていくはず。高い日本語能力を要求するとか、弱い通貨で最低賃金レベルしか出さないような国では人材は集まらないでしょうね。

また国外から人を受け入れるだけではなく、日本国内で子どもを産み育てやすくしないといけません。子育ては神聖なものではないし、美談でもない。シンガポールのように、もっと子育てはアウトソーシングして、カジュアルで気楽なものであってほしい。

草原で手をつなぐ親子
写真はイメージ(gettyimages)

――不妊治療の保険適用やこども家庭庁の創設など、日本政府も少子化対策には取り組んでいますが、結婚や妊娠、子育ての重圧や負担が大きく、気楽に子育て、といかないのが現状です。

僕が今年のアメリカ出張でアポをとって会った起業家らの7割が女性だったのですが、子育てをしている人は視野が広く、子どもの存在を通して社会の課題やチャンスに気づき、事業の新しいアイデアが浮かび、ヒットする確率が高い気がします。

血筋の愛にこだわらないことが大切です。子供が欲しくてもできないとか、結婚はしたくないという人たちも多いのですから、養子を育てる選択肢が普通にあってしかるべき。アメリカの富裕層は、複数の実子をもちながら、人種の違う養子を何人も育てて、等しく愛情を注いでいる人も珍しくない。もちろん日本とは宗教観など異なりますが、子どもは社会の財産であり、次世代につなげるもの、たまたま自分のところで育てている、という感覚が共有されています。

日本に欠落しているのがこの部分で、自分の時代さえよければいいという考え方が強すぎます。中国は10年、15年単位の長期の計画を立てますから、自分の時代をあきらめている人たちがけっこう多いんですよ。

アマゾンのジェフ・ベソス氏が自分の事務所に置いているのは千年時計です。千年でやっと針が一周するという時計です。それくらいのスパンで人生や事業を計画しているのです。自分の人生の間だけで事業を見ていないのです。

米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏
米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏=2019年、シアトル、尾形聡彦撮影

――人口が減少するならば、背伸びをせず、その規模に応じた国力でいいのではという考え方もあります。

日本はみんなで貧しくなればいいと暗黙の了解があるのかもしれません。若者の間に清貧思想のようなものが芽生えているところは世界的な兆候ですが。識者の間でも貧しくなっても豊かに暮らせるという人もいます。

日本が北米や欧州の西端のような地政学リスクの低いところにあればそれでもいいでしょう。でも残念ながら、日本の地理的位置は今後世界で最も厳しい場所にあるのです。

日本の地政学リスクは世界史上最高に高まっています。ユーラシアの二大ランドパワーの中国とロシアが連携して日本列島近辺に揺さぶりをかけています。日本が経済だけを考えていられる時期はとっくに終わっています。それなのに人口を減らして経済力も落として、国力を低下させています。これは非常に危ういです。日本は西欧の端っこや北米にあれば、今の経済力でもまだのんきにできるでしょう。しかし、我々の置かれた環境ではこれ以上国力を落とすことは許されないと思います。

一つの予測として2100年ごろ日本の人口は4千万人台という数字があります。シンガポールの経済人と話していると、「いわゆる“日本人の人口”はそれくらいに減るかもしれないが、“日本列島に住んでいる人口”は増えているかもよ」という人もいます。移民のことではありません。はっきりは言いにくいですが、つまりは世界には寒冷で耕作不能なところに住んでいる人たちも多い。一方、日本は四季があり、芳醇な土壌にいながら耕作放棄地や空き家がたくさんあって天国のようなところ。もし何万人が押し寄せてきたら警察も自衛隊もとめられないでしょう。

だから、他国から大量の人口が押し寄せる前に、国が能動的に人口を増やすことが大事だと思うんです。そのためには教育や子育てへの継続的な支援が必要です。生まれてよかった、育ててよかった、と思える明るい世界を示さないといけません。未来が明るくないと人は子孫を残そうとしないのは当然です。

2021年大納会の会場で表示された日経平均株価の終値
2021年大納会の会場で表示された日経平均株価の終値=2021年12月30日、東京都中央区、伊藤進之介撮影

――日本企業が成長していくために必要なことはなんでしょうか。

みんな大きな声ではいいにくいけれど、わかっているはず。産業のスクラップアンドビルドしかありません。アメリカの株式市場に長期投資する意義はここにあります。放っておいても、ダメな企業は買収されバラバラにされたり、消えていったりします。そして新しい企業が歴史ある巨大企業をも駆逐していきます。

日本の株式市場では何十年も顔ぶれが変わりません。日本のベンチャーといっても大企業の取りこぼしを狙うくらいのもので、大企業をつぶしたベンチャーなどないでしょう。買収防衛策などやっていてはだめだし、外国資本に買われることも受け入れ、リストラもしないといけない。コロナ禍で早くギブアップしたほうが本人のためにも社会のためにもよかった企業がゾンビ化しています。ウクライナ侵攻、円安を考えると、これから大なたをふるうのは以前よりもさらに打撃が大きい。もっと早くにやるべきでした。

でも、いまやらないと、日本の優秀な人材はますます日本を離れてしまう。金利を上げていく劇策も必要でしょう。円安対策にもなると同時に、金利を上げて自然淘汰を促進させるのです。

どの国も労働力は頭脳系と労働系で二極化しているのがいまの流れです。日本人としては受け入れがたいかもしれませんが、中小企業や製造業に携わっている人で能力が高く、腕もいいけれど、リストラで職を失ったら、海外の製造の現場に出稼ぎに行くのが当たり前、くらいになって初めて新陳代謝が進みます。

世の中を変えていくのに政治家の役割は大きい。たとえば政治家を25年やったら表彰なんて、あれはやめたほうがいいですよ。25年やってまだ続けるって何もできなかったという証し。日本政治に時間がかかることは理解しますが、しかし世界の変化は複合化し、加速しています。

「10年、20年、やってまだやり残していることがある」という人がたくさんいるが、それでは「無能宣言=退場」です。自分の無能さを受け入れ、もっと若くて優秀な人に、バトンを渡す意識を強く持ってほしい。民主的に選ばれた政治家だから、任期や定年の導入は難しいのかもしれないけれど、そもそも自分で判断し、次の若い世代に託す、という見本を示してほしいものです。民間に新陳代謝を求めるなら政界は自ら率先して新陳代謝を加速させるべきです。(つづく)