【気がつけば「移民大国」 連続インタビュー】
#1毛受敏浩氏(日本国際交流センター執行理事) 外国人に「地方創生」ビザを(12月16日)
#2荻原誠司氏(岡山県美作市長) 多文化共生よりも同化を(12月17日)
#3ジェームズ・ライニー氏(コーラルキャピタルCEO) 多様性がイノベーションを生む(12月18日)
#4ロバート・フェルドマン氏(モルガン・スタンレーMUFG証券) 永住、定住の門戸開いて(12月19日)
#5鳥井一平氏(NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表) 技能実習制度の虚構(12月20日)
#6ラタナーヤカ・ピヤダーサ氏(佐賀大学名誉教授) 実習生制度はアジアの貧困対策になる(12月21日)
#7ピーター・ベヴェランダー氏(スウェーデン・マルメ大学移民研究所所長) 犯罪増は移民より社会の問題(12月22日)
#8エイドリアン・ファヴェル氏(英リーズ大学教授) 移民規制、でも経済を支えているのは誰か(12月23日)
――ライニーさん自身は日本にどういう経緯でいらしたのですか。
米国で生まれ、日本の大学で教職に就いた父について幼少期に来日し、東京のインターナショナルスクールに通いました。大学で米国に戻り、大学3年生のとき、JPモルガンのニューヨーク(NY)支店でインターンをしました。正式な採用時で「NYと東京支店、どちらがいいか」と問われ、東京を選びました。日本も好きだったし、キャリア形成を考えても、日本にいた方がインパクトを与えられる仕事ができると思ったのです。
JPモルガンの後は、ベンチャー企業、IT大手DeNA、ベンチャーキャピタルの500StartUpsなどで働き、いまのコーラルキャピタルを創業しました。
――なぜあのタイミングでブログを発信されたのですか?
移民政策は専門外だと思ってきました。ただコロナ禍で、当時は日本で在留外国人の再入国が原則認められませんでした。幼少期から日本に住んでいる米国籍の私も米国に住む親に会いに行ったら再入国できません。外国人はマイノリティーだから仕方がない面もありますが、広い視野に立てば、日本にとってもったいないことだと思いました。
――「もったいない」とは、どういうことでしょう。
国際的に見たら、多くの優秀層を呼び込めるチャンスだったからです。たとえば香港の国家安全維持法の導入で、金融センターとしての魅力がうすれ、企業が香港以外にアジアの拠点を移すことを検討していました。日本でも金融センターを、と言う一方で、外国人の再入国を拒否していた。そういう国に外国人は行こうと思いません。もうシンガポールに流れがいっています。
ただチャンスがあるのは、米国の西海岸からの人材の流出です。コロナ禍でオンライン化が進み、家賃の高いシリコンバレーを離れても働ける環境が生まれています。エンジェル投資家も「シリコンバレーを去る人にとって日本が次の有力候補地になる」とツイートしました。
――なぜ日本が候補地なのでしょう。
米国のテック界の人たちは日本の文化が大好きです。食事もおいしいし、安全な暮らしも、魅力があります。
――今からシリコンバレーで活躍している人を呼び込むために何が必要ですか。
大事なのは呼び込むだけではなく、日本企業が接点を持てるようにすることです。今のままでは、日本に来ても外資系企業で働くだけで、日本社会や企業が関われずに終わる可能性もあります。
日本の企業で働く場合でも、実績に応じた十分な報酬と、マネジャー職などの役職が約束されることが大事です。その仕事を経て、次はどんなキャリアを歩めるのか。将来を見据えられるようなロールモデルがいるかも重要です。
――年功序列を重んじる日本企業では、トップ人事ならいざ知らず、部長級で特別な待遇をとる難しさがありました。
それなら仕方がない、と思います。ただ、グローバルでたたかい、1位をとりにいくなら、グローバルな人材を採りに行かないといけない。人口の数がぜんぜん違うので、(人材を採る)プールを広げるだけで、優秀層が変わるんです。より多くの人の中から選べるようになれば、より優秀な人を選べるようになる。これからどんどんグローバルでの競争が進む。それでも日本企業が変われないというのなら、仕方がないと思います。
――他に、どんな変化が必要ですか。
大前提として、日本に住む在留外国人が、日本の国民と公平に扱われるという安心感があることです。今回のコロナ後、政府は外国人の再入国を原則禁止にしました。そんな対応をとったのはG7のなかでは日本だけ。日本の外国人ビジネスコミュニティーでは不満があがり、1万1千人の署名が集まりました。危機の際に外国人が違うかたちで扱われるのでは、優秀層は集まりません。
「マイクロアグレッション」と呼ばれる、日常の無意識の差別を減らしてほしい。たとえば私はマスク越しの日本語が聞きづらいとすぐに英語で返されたり、店に入ると、ほかの日本人には尋ねないのに「手を消毒したか」と尋ねたりされました。一つ一つは小さなこと。でも積み重なると…長年日本に住む僕も「よそ者」だと感じさせられました。
――シリコンバレーの優秀層というのも移民出身者が多いといわれています。
考え方や経験、視点の多様性があると、その中からベストなものを選べるようになる。そこから、次のイノベーションが生まれるのだと思います。
日本では一定の年代の男性だけが投資をすることが特に多く、結果的に同じようなビジネスばかりに投資される傾向につながってきました。ビジネスの画一性を生んでいると思います。でも社会には男性も女性もいるし、さまざまな年代の人も、エスニックバックグラウンドの人もいてそれぞれのニーズがあり、それぞれの気づきがあるのです。こうしたニーズを満たせれば、ヒットする商品やサービスが生まれるのかもしれない。だから多様性は重要だと思っています。
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