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技能実習生たちに聞いて見えた、貧困対策としての役目 「移民大国」日本・私の提言⑥

World Now
佐賀大名誉教授のラタナーヤカ・ピヤダーサ氏=織田一撮影

【気がつけば「移民大国」 連続インタビュー】

#1毛受敏浩氏(日本国際交流センター執行理事) 外国人に「地方創生」ビザを(12月16日)

#2荻原誠司氏(岡山県美作市長) 多文化共生よりも同化を(12月17日)

#3ジェームズ・ライニー氏(コーラルキャピタルCEO) 多様性がイノベーションを生む(12月18日)

#4ロバート・フェルドマン氏(モルガン・スタンレーMUFG証券) 永住、定住の門戸開いて(12月19日)

#5鳥井一平氏(NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表) 技能実習制度の虚構(12月20日)

#6ラタナーヤカ・ピヤダーサ氏(佐賀大学名誉教授) 実習生制度はアジアの貧困対策になる(12月21日)

#7ピーター・ベヴェランダー氏(スウェーデン・マルメ大学移民研究所所長) 犯罪増は移民より社会の問題(12月22日)

#8エイドリアン・ファヴェル氏(英リーズ大学教授) 移民規制、でも経済を支えているのは誰か(12月23日)

 

1951年スリランカ・ヌワラエリヤ生まれ。78年スリジャヤワルダナプラ大卒。82年に来日し、東大大学院に留学。85年に龍谷大に入り、90年に経済学博士の学位を取得。97年佐賀大教授、2017年に名誉教授。09年に日本国籍を取得。


――どのような調査をしたんですか?

佐賀と福岡で働いている中国人やベトナム人の実習生、タイやラオスに帰国した元実習生らにアンケートをしたり、面談したりして、学歴や日本での仕事の内容、日本で習得した知識や技術、給料、貯金などを聞いた。

共通していた答えが、「日本ではたいした技術は教わっていない」。企業は単純労働者として雇用し、仕事の中身も、きつい、きたない、危険の3Kがほとんど。重いものを別のところに運ぶとか。実習生は中卒や高卒が多く、日本語があまり分からないので、会社にしてみれば、専門的な生産技術を教えるのが難しいのだろう。帰国した実習生の約9割は、日本での研修とは関係ない仕事に従事していた。

――実習生を巡っては、賃金未払いや長時間労働など劣悪な労働環境が明らかになり、国会でも議論となりました。

1200人調査で、実習生が日本に来るまでに、母国で送り出し機関や仲介者らに100万円近くの手数料を支払っていることも分かった。職場を変えることができない実習生は、賃金の未払いや長時間労働といったひどい目にあっても、多額の借金の返済のため働き続けないといけない。ブローカーの存在は制度の最大の問題だと思う。

――やはり技能実習制度は廃止するべきでしょうか?

続けるべきだ。実習生の家庭は貧しく、彼らが持っているのは「労働力」しかない。その労働力をうまく「売る」ことができれば、貧困を減らせる。実習制度はその機会となっている。

ベトナムでの元実習生への聞き取り調査では、日本での月収は12万5000円から16万7000円だったことが分かった。ベトナムの平均月収の6倍以上だ。そして4割弱が100万円から200万円、さらに4割弱が200万円から300万円を貯蓄できていた。本当に切り詰めた生活をしてだが。

――でも、日本で「技能」を磨き、持ち帰るわけでもない。

確かに、技能向上を通しての「国際貢献」という制度の趣旨には反する。実習生を受け入れている420の会社にも、どういう仕事をさせているか聞いたところ、実習生の3分の2に、労働集約的な繰り返しの作業に従事させていた。

ただ、同時に日本企業独自の規律や責任感などの「労働文化」は吸収している。受け入れ企業の調査で、来日して1年もすると、チームでの協働、時間内の仕事の完遂、仕事の質についての責任、といった項目で大きく改善したことが分かった。会社として組織的に取り組んでいる「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」やあいさつの仕方なども学ぶ。それは帰国後の就職に役立っているし、貯金を使って様々な事業をでき、経済発展にも貢献できる。実習生の7割が「日本で得た資金と知識を元に経済状況が改善した」と回答している。明らかに貧困削減に役立っている。

日本で仕事をするために日本語を勉強するインド人エンジニアたち=2008年1月、インド・チェンナイ、竹谷俊之撮影(本文とは関係ありません)

――職場から姿を消す実習生は年間約9000人います。彼らからの聞き取りは難しい。それが制度の「高評価」につながっているのでは?

もちろん、実習生の実態の全容を解明したとは思っていない。ただ、帰国した元実習生のなかには、職場から逃げ出した若者はいたし、実習制度のひとつの側面を浮き彫りにできたと思う。

――「日本人の職を奪っている」との指摘もあります。

受け入れ企業への調査では、3分の2以上が「実習生が働いている業種をまかせる日本人労働者を確保できない」と回答。「実習生がいないと会社がつぶれる」との考えが多かった。つまり、割安の労賃で働く実習生が、日本人の雇用を守っている。

実習制度を廃止するべきだという人がいるが、私は様々な点を設計し直せば良い仕組みになると思うし、日本とアジアの国々の関係が深まるだろう。

――何をするべきでしょう?

企業に実習生の受け入れの責任を持ってもらわないといけない。きちんと労働関係法を守ってもらう。それには企業任せにしないことだろう。今回のコロナ禍で突然、解雇され、住むところにも困る実習生が出た。民間に100%まかせていけないことがはっきりした。
もっと地域社会に開かれたシステムにするべきだ。佐賀大学の留学生は衣食住などで困ったときに地域住民から助けてもらったりしている。住民に守られている。一方、技能実習生は工場と会社の寮を行き来する毎日で、地域社会との交流がない。非常に閉じられた世界だ。もし、実習生の劣悪な労働環境を地域の人が知ったら、絶対に許さないだろう。