【気がつけば「移民大国」 連続インタビュー】
#1毛受敏浩氏(日本国際交流センター執行理事) 外国人に「地方創生」ビザを(12月16日)
#2荻原誠司氏(岡山県美作市長) 多文化共生よりも同化を(12月17日)
#3ジェームズ・ライニー氏(コーラルキャピタルCEO) 多様性がイノベーションを生む(12月18日)
#4ロバート・フェルドマン氏(モルガン・スタンレーMUFG証券) 永住、定住の門戸開いて(12月19日)
#5鳥井一平氏(NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表) 技能実習制度の虚構(12月20日)
#6ラタナーヤカ・ピヤダーサ氏(佐賀大学名誉教授) 実習生制度はアジアの貧困対策になる(12月21日)
#7ピーター・ベヴェランダー氏(スウェーデン・マルメ大学移民研究所所長) 犯罪増は移民より社会の問題(12月22日)
#8エイドリアン・ファヴェル氏(英リーズ大学教授) 移民規制、でも経済を支えているのは誰か(12月23日)
――日本との「出会い」を教えて下さい。
初めて日本の地を踏んだのは16歳のときでした。留学支援団体の交換留学プログラムに応募したところ、「トランペットをたしなんでいたなら耳が良さそう。日本語のような難しい言語も理解できるだろう」との理由で日本に送られました。
私自身も「日本留学には価値がある」と考えました。日本は高度成長期の最中で、高性能の自動車やテレビをどんどん輸出していました。一方で米国では日本のことを理解している人はあまりいなかった。「日本語を覚えたら将来、得する」と踏んだのです。
――その後は日米を行き来する生活となりました。
1年後に帰国。日本研究で知られる米エール大学を卒業後、ニューヨーク連銀などで働き、日銀金融研究所に留学。国際通貨基金(IMF)を経て、1989年に米名門投資銀行に移り、日本に腰を落ち着けました。2000年から今春まではテレビの経済報道番組にコメンテーターとして出演。いまは東京理科大大学院教授を兼任し、講演などもこなしています。
日本語の習得には相当の時間とお金がかかります。決断がいる「投資」なのです。私の場合、投資は成功したと満足しています。大金持ちではありませんが、引退しても何とかやっていけそうです。
――日本語の勉強は「投資」ですか。
日本は80年代、経済大国の階段を駆け上り、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともうわたれました。私のような日本語ができる外国人エコノミストは貴重な存在でした。日本語への投資が報われる時代だったのです。
いま外国人受け入れを巡る議論で「日本語が障壁になっている」「国や自治体は日本語教育を支援するべきだ」との指摘がよく出ます。でも、そもそも、外国人に日本語を覚えるインセンティブ(意欲)はあるのでしょうか。
――日本政府は「有能な外国人を積極的に迎える」と強調しています。
私は、高度人材の在留資格のひとつ「高度専門職1号」を持っていました。在留期間は最長5年。更新すればさらに長く日本に住めますが、永住の資格のハードルは高い。日本に住み続けることができるのか、いつまでもはっきりしない。そうなると、時間とお金をかけて日本語を習得する意味があるのか、となります。高度専門職に対する永住の門戸を広げるべきです。
外国人には分かりにくい永住・定住資格の審査の迅速化・透明化も重要です。私は今年1月、永住資格を申請し、資格をとったのは9月でした。
――世界経済での日本の存在感は小さくなりました。フェルドマンさんのように、日本語への投資を「見合う」と考える外国人はいるんでしょうか?
中国をはじめ急成長した国々が、海外から有能な人材を取り込んでいます。治安が良く、街も清潔、政治も安定した日本は世界でもまだまだ魅力的な国だと思いますが、世界的な人材獲得競争が激しくなっています。「投資に見合う国」と認知してもらう努力がもっと必要でしょう。
――日本は世界一の高齢化国家で、人口も急減しています。そうした点も「投資」では考慮されるのでは?
高齢者と若者の負担の公正な分かち合いを考えるべきです。先進国はおしなべて高齢化し、公的年金の負担を若い世代につけ回ししている格好です。とりわけ日本では問題は深刻です。
退職年齢を70歳代半ばまで延ばして年金の受け取り開始を遅らせるのはどうでしょう。「長く働ける国」として、海外の年配の大学教授らが関心を持つでしょうし、将来の負担を心配する外国人にとっては安心材料になります。