9月初旬の昼下がり、ニューヨークのクイーンズ地区にある自宅に近いカフェに現れた彼は、黒色のTシャツを着たラフな姿だった。「午前中はシリアについて調査していたよ」と穏やかな口調で、身の上を話し始めた。
幼いころから中東の政治や歴史に関心があった。大学で欧州の歴史を学び、数年前からシリア内戦の複雑な構図を追い始めた。そのなかで、「ネット探偵」たちが集まって作ったオシントの先駆的な調査集団「Bellingcat(ベリングキャット)」を知った。
現地の動画や画像と兵器の情報など大量の断片的な情報を緻密につなぎ合わせ、マレーシア航空機撃墜事件やシリアでの化学兵器使用を暴いたベリングキャットの調査手法を知り、「これなら自分でもできるのではないか」と考えた。
シリアでの人権侵害を記録する非政府組織の調査員になり、大学院で中東研究の修士号を取得した。調査結果を発表し続けるうちに海外メディアが引用するまでになり、ベリングキャットにも寄稿するようになった。
「ネット探偵」として知られるマッキーバー氏だが、実は本業は、引っ越し業者だ。
「友人に給料が良いと言われて働き始め、数年になる」
不定期に入る仕事の合間をぬって、長いときは一日に8時間、寝室にこもり、小さな机からシリア内戦の調査を続けている。
本業としてやることに関心はあるというが、「毎日世界の異なる地域の話を担当するのはどうかなあ……。一つの好きな地域に集中したい。これまでもやってきたようにやり続けるだけ」
マッキーバー氏は、オシントには限界もあると指摘する。
例えば、ウクライナでは表に出る視覚的な証拠は限られている。ロシアもウクライナも、自分たちが見せたいものしか見せないからだ。
地域によってはネットに情報を流す民間人がいないかもしれない。「公開情報から、中立かつすべてを映し出した情報が見られるとは限らない。見えないものもたくさんある」。時には間違った情報が寄せられることもある。
皆で相互に確認し、調べた結果に完全な確信が持てない場合は、その理由を説明する。率直に伝えることが大切だと考えている。
それでも、この活動には大きな意義があるという。
「シリアでは多くの地域は、たとえ行けたとしても必ずしもそこで調査ができるわけでもない。オシントは、現地ではできない調査を可能にしているんだ」