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OSINT(オシント)の先駆集団ベリングキャットから報道機関へ 転身した男性の到達点

World Now 更新日: 公開日:
米ニューヨーク・タイムズのクリスティアン・トリーバート氏
米ニューヨーク・タイムズのクリスティアン・トリーバート氏=9月、ニューヨーク、篠健一郎撮影

公開情報を元に調査するOSINT(オシント)の手法は、報道機関でも活用されている。早くからその手法を採り入れてきたのが、米ニューヨーク・タイムズだ。それを担う「ビジュアル調査報道チーム」のメンバーで、市民らからなる調査集団「ベリングキャット」の「卒業生」でもあるクリスティアン・トリーバート氏(31)に話を聞いた。

ニューヨーク・タイムズの「ビジュアル調査報道チーム」(Visual Investigations team)は、2017年に新設された。

チームは、2021年の米連邦議会襲撃事件や2020年に米ケンタッキー州で黒人女性が警察官に射殺された事件、2018年にイスタンブールのサウジアラビア総領事館で反体制派のサウジアラビア人ジャーナリストが殺害された事件などで、公開情報を生かした調査報道を手がけてきた。

15人~20人ほどいるというメンバーの経歴はさまざまだ。動画編集にグラフィックス、衛星画像、ソーシャルメディア……「多くは伝統的な報道の外の人だ。多様な経歴を持つ人が集まっているからこそ素晴らしい仕事ができる」(トリーバート氏)。

米ニューヨーク・タイムズの本社ビル
米ニューヨーク・タイムズの本社ビル=2017年、江渕崇撮影

オランダ出身のトリーバート氏が、ベリングキャットに加わったのは創設翌年の2015年。大学在学中からウクライナなどについての記事をフリーで書いていたが、自分独自の記事が書けていないと感じていた。

そんなときに目にしたのが、ベリングキャット創設者のエリオット・ヒギンズ氏のツイートだった。公開情報を元に、真実を明らかにしていく手法を目の当たりにし「これがやりたいと思った」。

イラクやシリアにおける空爆について、自ら画像や動画から撮影場所を特定して、その結果をツイートするようになり、ベリングキャットに関わるようになっていった。

もともと調査報道には興味があった。母国オランダは、イラクやシリアの空爆に関与していた。

「オランダ軍の空爆によって市民の被害をもたらした。だからそれを調べることは重要なことだった」

ベリングキャットでは当初、ボランティアとして参加していた。その後、給料をもらうようになり、各地でのワークショップでその手法を伝える役割も担った。

一方、活動を続ける中で、ジャーナリズムのスキルを磨きたいという気持ちが強くなり、ニューヨーク・タイムズへの転職を決めた。

トリーバート氏は「確かに、公開情報を使った調査に多く取り組んでいるが、従来の報道手法と組み合わせることが重要だ。つまり、実際にドアをノックして人に取材するということです。そこに衛星画像やソーシャルメディアの情報を組み合わせていく」と話す。

今や、記者と市民は同じ公開情報を元に調査や分析する。ベリングキャットは、メディアと連携した調査もしている。両者の境は、はっきりしないところがある。その両方での経験を持つトリーバート氏は「市民の中にも非常に専門的な人がいる」とした上で、両者の違いをこう語った。

「伝統的なジャーナリズムでは、一定の抑制と均衡が保たれる。報道機関は注意深くあらねばならず、警察などとは連携はしない。ベリングキャットでは、法執行機関や警察などを支援することをいとわなかった。誰とともに働き、誰とともに働かないか。そこが一番の違いだ」

その上でトリーバート氏は、オシントの課題を次のように指摘した。

「最大の課題は、ときに情報にアクセスできないことだ。市民が携帯を持っていなかったり、ネットにつながらない環境だったりするかもしれない。見えないものを無視するのは簡単だが、そうはすべきではない。その限界を打破するため、実際の取材が必要になる」

トリーバート氏が言うように、報道機関においてオシントは、従来型の報道と組み合わせることでより力を発揮し、新たなニュースにつながり得る。また情報の出元やその分析手法を明らかにすることによって、そのニュースの説得力が増す面もある。その際には、公開情報の収集やその信頼性を検証するスキルに加え、公開情報を取り扱う際の編集基準作りも合わせて求められるだろう。