世界を一つに結ぼうとしてきたインターネットに亀裂が生じ、分断化しようとする動きが広がっている。研究者らの間で「スプリンターネット」と呼ばれている。
英語の「splinter(破片)」あるいは「split(分割)」と「internet」を組み合わせた造語だ。これまでは、サイバー空間への自由なアクセスに対し、国家間や対立する地域間で何らかの制限をする事象を指し示していた。
代表例は中国だ。国内からはグーグルやツイッターなど欧米のサービスにアクセスができない。中国当局が国外への接続をチェックし、遮断しているからだ。いわば、インターネットに国境を築き、国の政策に合うものだけアクセスを認めている状態というわけだ。
ところが今回、ロシアを取り巻く状況は、それとは大きく異なっている。ロシア政府による遮断は中国と同じだが、欧米の大手IT企業や通信事業者が、ロシアをインターネット上から切り離す動きが相次いでいる。しかもその判断は国ではなく民間企業の手に委ねられている。これは、新たな「スプリンターネット」の動きと言える。
インターネットは、1969年に米国の四つの大学・研究所を結んだ通信から始まった。当初は学術研究のみの利用に限定されていたが、90年代に入り商業利用が認められたことで利用者数が増大。98年に創業したグーグルなど、民間の参入でさまざまなサービスが生まれ、同時に海底ケーブルが次々と敷設されるなど、世界中に通信網が築かれていった。
それを実現できたのは、世界のコンピューターが同じ「ルール」で結ばれたことにある。平たく言えば「各国のIT企業や通信事業者は互いを通信回線で結び、データを正しい宛先に運ぶ。データを受け取ったら、自社とは無関係でも責任を持って次へと渡す。そのコストはそれぞれが負担する」というものだ。
この「自律・分散・協調」という基本理念によって、通信コストが大幅に抑えられ、私たちは手軽にインターネットを使えるようになった。もはやその存在を意識することすらなく、膨大な通信データが生じる動画配信サービスで一日中映画を見たり、コロナ禍で大人数がリモートワークをしたりできるのは、この仕組みのおかげと言える。
だが、民間企業が独断で通信を遮断することが常態化し、スプリンターネットが進んでいくとどうなるのか。グローバルなインターネットから切り離された孤島のようなネット空間が、あちこちに生まれる可能性がある。それは、膨大な利用者によって支えられ、費用と負担を分散することで低コストで動いていたインターネットが機能しなくなることを意味する。その先には、インターネットの発展とともに歩んできた社会の崩壊すら予感させる。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、半世紀をかけて築き上げられた地球規模のネットワークに、小さな、だが無視できない「ほころび」が生じ始めた。この「ほころび」は、このまま小さな穴にとどまるのか。それとも、次第に広がるのか。私たちはいま、インターネットの将来を左右する転換点を目撃しているのかもしれない。