「愛国的なハッカーは、日本へのネットワーク攻撃の準備を整えた」
尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件を受け、中国各地で対日抗議デモが相次いだ9月半ば。中国最大とされるハッカー組織「中国紅客連盟」は、ウェブサイト上でこう宣言した。標的として日本の首相官邸や各官庁、大学、民間企業のアドレスを列記していた。記者(峯村)は連盟の代表とチャットで連絡をとり、話を聞いた。
参加希望者はネット上から申し込み、連盟が指定したサイトをハッキングするテストに合格すれば参加できる。日本のサイトに侵入して内容を改ざんし、中国国旗を掲げられれば「成功」だという。
米国などが指摘する中国軍とのかかわりについて質問すると、語気を強めて否定した。「ありえない。われわれはネット安全の仕事をしている民間NPOだ。愛国の立場から、世界各地の反中勢力に攻撃を加えている」
結局、日本側に深刻な被害はなかったとされる。だが、攻撃を明言する連盟の姿勢が印象に残った。その約1カ月前に、こんな発言を聞いていたからだ。
「外国の敵対勢力が有害メールをまき散らし、我が国の安全と社会の安定を脅かしている。国を挙げてネットの安全対策をとらなければならない」
8月下旬、北京市内であった「中国インターネット協議会」での工業情報省通信保障局長、王秀軍の発言だ。ホテルを借り切り、ネット関係の政府高官や企業幹部ら1000人以上が集まった会合。ネット行政を統括する王の発言に、海外からのハッキングやウイルスメールの報告が続く。どれも「中国こそがサイバー攻撃の最大の被害国」という論調だ。
国務院新聞弁公室の「中国インターネット白書」によると、昨年、ハッカー攻撃で内容が改ざんされた中国のサイトは4万2000。ウイルスの被害を受けたパソコンは毎月1800万台で、世界全体の約3割を占めるという。
主催した中国インターネット協会の理事長、胡啓恒に「中国=ハッカー攻撃国」との指摘をぶつけると、険しい表情で「根拠がない。中国のイメージを汚し、脅威論をあおっている」と全面否定した。政府系の社会科学院米国研究所副所長、倪峰は、米軍のサイバーコマンド創設こそが中国脅威論の背景だという。「国際問題にして、多額の予算を獲得する狙いだろう」
ただ、中国軍自体もサイバー面の能力向上に動いている。7月には総参謀部に「情報保障基地」を設置。部隊の情報化を進め、サイバー空間での作戦や研究を一元化する狙いだ。国家コンピューターネットワーク侵入防止センターの張玉清・副主任は、実力は米国に及ばないとしながらも「個別には秀でた分野も出てきた。自衛の技術を向上させるためには、攻撃を研究しなければならない」と指摘する。
中国の軍事筋はこう解説する。「超大国になることを見据えて、米軍が独占している分野に挑戦しようとする意図は明白だ」(峯村健司)